戦草寺とオリーブ。
勝因は、戦術などと言う小賢しいものではない。術、ではない。
行くべきと、無意識の反応した時、それに身を任せた。いや、もっと前のめりに、叩くべき時をずっと待ち構えていた。
戦草寺は、いつだって倒す気しかなかった。その意識が、無意識の反応をモノにした。肉体と精神の合一。武術でも、かなり高いレベルのお話だが。ヴィジョン限定なら、戦草寺は、そこに達した。
戦草寺は、既に武術家の仲間入りを果たしていたのだ。
己業は、それに特に気付かなかった。スムーズなレベルアップに違和感を覚えなかったのも理由だが、何より、己業自身、始業も威業も、その領域に昔から住んでいるのだ。実際に、現実での組み手でも見ない限り、己業には違和感に気付けない。それは、違和感ではなく、親近感だからだ。
だが。己業は、今の1戦、戦草寺を高く評価した。自分なら勝てる。しかしそれは、「以無」己業だからだ。戦草寺泉船と言う普通の女の子が、おいそれと出来る所業ではない。
もちろん、野牛と先生は、大喜びで大歓声を上げていた。
「良いぞ!!!」
「すごいです!!!」
戦の構えと言うか、真剣に観察していた己業は、声を上げるテンションではなくなってしまっていた。心の片隅では、戦草寺の勝利を喜んでいたが。思考の大部分は、泉鬼のダメージ量と、2人目の能力とが占めていた。
わずか数試合しか見ていない2人目。今の1人目が、ほとんどを勝っていたために。
遠距離型、使用武器は弓。ただ、威力の高い強弓では、なさそうなのだ。両手を用いる弓の特性はそのままだが、宝仕と同じく、引き絞りも弾速も速かった。見た目で詳しい事は言えないが、恐らく早弓。
ただ、分かっていても対処策は無い。強弓ならば、タイミングを合わせての回避も可能だ。なぜか、技四王は見極めが上手いからな。その、目の通用しない、見えようと回避しきれない早弓は、厳しい相手だ。
どうする、戦草寺。お前なら、どうする。
野牛なら。正面突破以外の考えは思い浮かばない。より早く接近し、弓の隙を与えない。格闘に持ち込めば・・・。
・・オリーブの一員が、そんなまともに降せる相手か?それだけが、疑問だった。
オリーブ陣営は、少々熱くなっていた。知明級ではない。が、去年の輝光白蛍クラスの敵と出会った。全員で、本気で戦えるのだ!
宝仕を操った者も、己業と戦えない事を悔やみはした。だが、強者と戦えた事自体は、嬉しかった。己業と戦うため、ダメージを負いにくい試合運びを実践してみたが。見事に破れた。
この時点で、3人の技四王に対し、オリーブは全員で当たる事を自然に考えた。相手が、初出場の新参であろうと、全く油断していない。自分達の目で見た、今までの戦いの様子と、宝仕の敗北。それら全てが、ひしひしと緊張感をもたらす。
勝つか負けるか分からない。だから、面白い。
オリーブは、全員が己業レベルと戦草寺はイメージしたが。実は、全員が技四王の人間と同じく、戦うのが大好きだった。だから、知明も母校とは言え、自分の時間を割いて後進の育成に励んでいるのだ。自分の仕事にまでした物を、好きでいてくれる後輩達。可愛くないわけがない。
その、知明の教育の行き届いた者達。立ち居振る舞いの時点で、己業にも強さが分かる。どちらかと言えば、先の戦草寺よりも、己業に近い。
現在、泉鬼のダメージは170ポイント。頭部、胴体部、両腕に1回ずつの判定。最も不味いのは、薙刀を失っている事か。ダメージ量が、受けた攻撃回数に比して低いのは、片腕の敵の火力が抑えられていたためだ。
でも、まだ動く。野牛の生んだリアディウム部、己業に授けられた技巧、その中で鍛えた戦草寺の目。全てが、有るのだ。問題は、無い。
さあ、お互いの全てでぶつかる時間だ!
開始!
オ!!
当然、泉鬼は駆ける。遠距離型に距離を取られては必敗する。しかし、相手も然る者。
シィ
一射の音で、3発射られた。それも、全速力状態の泉鬼の足を狙い撃たれた。軽い攻撃なので、足を止められるまでは行かないが。1発は避けた。そう、2発は当てられた、それも左足に2回。もう1回で部位破壊だ。
やはり、上手い。戦草寺は、ちゃんと回り込んでいた。なのに、そのルートを読まれた。避けられたのは戦草寺の実力によるものだが、当てたのは相手の実力だ。
同じ場所に3発撃ったのではない。泉鬼の経路に、回避行動位置まで含んで、3撃、一時に。
かつて技四王が戦った軽い銃のように、10回で1回の判定ではない。高火力遠距離として普通の判定。つまり、引き絞りやタメも普通に有るはずなのだ。
操るプレイヤーの技巧が、余りにも群を抜いている。同じクレナイを操っても、常人と己業で違うように。
そして、技四王の面々は気付いている。ケタ外れの度胸。その場を一歩も動かず、逃げず、ただ射抜いた。己の弓に、己が運命を委ねた。覚悟が違う。
それでも戦草寺は接近に成功した。当然、お札も背後に展開している。これから、投げようが極めようが、思いのままだ。
バ
1メートルにまで接した泉鬼。その体は、ハリネズミになった。
野牛は胸を撫で下ろした。
「助かった」
「全身判定の有るタイプじゃなくて、ラッキーでしたね」
カウンターの必殺技。遠距離タイプなら、ほぼ持っていると思って良い。目の前の相手も持ち合わせ、見事に決めた。基本と言えば基本。だが、それをどれだけ丁寧にやれるか。それで、上手さが分かる。基本の技量もまた、最低でも野牛並みのようだ。運が悪かったなら、勝てなかっただろう。
戦草寺は、ゴーグルの視界いっぱいに突き立った矢を一切無視。チラリと判定量だけを確認。ダメージは、どうでも良い。そして、部位破壊の恐れの有る左足は後ろに回し、斜めから入る事で、被害を抑えようとした。
成功。広範囲系の必殺技を隠し持っていたなら、危なかった。
敵シルエットは、宝仕と同じく作務衣を着用している。衣服を掴めば、望み通りに投げられる。
たん
腕を掴もうとした右腕を、逸らされた。強打ではなく、右手の甲をそっと沿わせただけで、こちらの体を流した。
ギ
流れた体を目掛けて飛んで来る、右の前蹴り。受ければ、上半身は何処であろうと部位破壊される。
だから、蹴る。
流れつつ、バランスを崩した肉体。だからこそ、泉鬼の右足は浮き上がっていた。この時、敵が関節技に移ったなら、戦草寺にもどうしようも無かった。
右前蹴りの予兆、左肩の微動と左足の力強い踏み。それらの発生を目の端で見て取った戦草寺は、咄嗟に浮いた右足を蹴りのラインに合わせるように踏み下ろした。
足を踏まれた敵は、不意の事に動きを止めてしまった。片足が効かないと言う事は、浸中戦でのムミョウのように、常時の力は出せない。
危地が、途端に狩り場となった。
踏んだままの右足をそのまま、流れる体をそのままに、左腕を動かす!
ガ!
敵頭部に左肘打ち。まだ、足は踏み付けたまま。そのまま回転して肘を入れたのだ。更に、
オオオオオオオオオ!!!!!
敵は片足を動かせず、視界も一瞬ブレた。これほどの勝機は、二度と無い。殴れ!!殴り抜け!!!相手が倒れるまで!!!
だが。
「予想よりも、強い。これが、強豪の中の強豪」
「はい。あれで、本職はリアディウムってのは卑怯ですよね」
野牛は、己業が言うのかと思ったが。内容には同意だった。
泉鬼による左右の拳の乱打。胴体部と腕を殴りつつ、本命は頭部。視界を潰す目的だった。それが。
最初の数打以降、全てを逸らされた。片足を封じた、密着状態での連打を。
更に、
ゴ
泉鬼の右拳をカウンターの右拳で迎撃。頭部を打ち抜かれた。しかも、戦草寺の一撃は回避されている。
野牛には、突破口が見えなかった。距離を取る事は絶対に出来ない。だからと言って、格闘も相手がわずかに上。この状況では、お札でのかく乱も厳しい。相手との距離が近過ぎるのだ。更に、打撃で仕留める予定だった戦草寺は、お札を背後に置いたままだ。その操作に集中力を割けば、今度はこちらが連撃を食らう。
そして、最も重大な事実として、頭部を破壊された。戦草寺のゴーグルには、かなりのブラインドと視界のシャットアウトが発生していた。例えるなら、ほんのわずかのカーテンの隙間から曇りガラスを通して見ているような光景だ。端的に言って、見えない。
こうなれば、手段は1つしかない。
ガア!!
ぼやけながらでも垣間見える相手シルエットに密着する。組み付くまでに、胴体部を破壊された。が、きっちり組めた。抱き付く格好になったので一見、これ以上の技は出せそうも無いが。
投げる!相手の胴を掴んだまま、腰を下げ足を踏ん張り、全力で引っこ抜く!!両手は相手の腰の後ろで組んでいるので、絶対に離れない。
投げる最中、更に両腕を破壊された。それでも、相手は倒れた。
累計560ポイントダメージに上半身全部位破壊。視界はほぼ失われ、薙刀は無く、両腕も動かず、防御も失われた。ちょっと、厳しい展開だが。
まだ負けてないって事は。勝てるって事だ!
とりあえず蹴る!!
上半身が一切効かないので、動きが鈍い。イメージしてもらえれば分かるが、走る時、体を振る時、両腕を動かせるかどうかで、体のキレがまるで違う。ただ蹴るだけの行為でも、いやだからこそ、その単純な動作には鈍りが見て取れた。
まあ、問題は無い。蹴り付け、お札で相手の脱出を抑制。
技四王側のモニターには、戦草寺の見えている画面も映し出されている。
「私は、戦草寺を随分見くびっていたな。あそこまでやる奴だとは」
己業は、じっと見ていた。活路を探っていた。泉鬼のスペックで可能な事、戦草寺の力量で出来る事。それらを念頭に置きつつ、相手の強さを計っていた。
先の殴り合いで、泉鬼が頭部を破壊された時。己業は、諦めてしまった。お札も、己業が教授した格闘術も、視力無しで扱える類の技ではない。戦草寺の技量は決して低くない。だが、それはお札も含めたリアディウムならではの技巧。そのリアディウムの「画面」が閉ざされた以上、もはや打つ手は無い。そう、思ってしまった。
なのに、この光景はどうだ。格闘で上を行かれる相手を、転がし続けている。蹴れば当然、相手シルエットは自分から離れる。相手は同じ軽量級。起き上がるに不自由は無い。それを阻害し続ける。戦草寺には、見えていないのに!
もう、相手のステータスしか分からない。今、相手の右腕を破壊したらしい。ゴーグルには、そう表示されている。
視界内、ギリギリ見えている領域に、常に相手の足を補足する。足が分かれば、相手の腕や胴体の位置も推測出来る。何一つ分からないわけでは、ない。
そして、相手のシルエットは、宝仕とほぼ同じだ。これが、有り難い。2戦続けての格闘で、宝仕の手足の位置のおおよその予測が可能だ。良く見知る事が出来たからな。叶うなら、頭部破壊に行きたい所だが。この視力で狙うのは、最後だ。手足を破壊し、身動き取れぬようにしてからだ。
千誌は、泣きそうだった。あんなにもボロボロになって、まだ諦めてない。健気過ぎる。その千誌の表情が、更に険しくなった。
戦草寺に転がされているはずの敵が、徐々に、弓に近付いている。殴り合いの最中、敵は自ら弓を捨てた。そして、今、両腕での構えが取れない以上、弓など何の役にも立たないはずなのに。
当然、野牛も己業もそれに気付いていたが。意図が読めないのは、同じだった。何が狙いだ・・。
泉鬼の視界では、弓の位置は捉えられない。更に、戦草寺は、腕を破壊した時点で、弓への警戒を捨てている。
サ
敵左腕が、弓に触れた。やはり泉鬼には見えない。ただ、敵の居る位置にお札を撒くだけ。
泉鬼は変わらず、蹴る。相手は蹴り続けられるようになってから、防御の姿勢を固めていた。それを、少し変えた。
ザン
泉鬼は、崩れ落ちた。
「・・・してやられた」
「本当に、すごい。あれが、全国高校生プレイヤーの最上位。優勝や準優勝を繰り返すレベル」
早弓は、ただの遠距離武器ではなかった。弓で、泉鬼の左足を斬った。
オリーブは、ほっとした。弓のギミックを全国で晒した事は1度も無い。使う予定も無かった。それを、ここまで追い込まれるとは。決して油断はしていなかった。つまり、これが技四王の実力。1人を相手に、2人まで詰められた。
決着。左足を破壊され、倒れた泉鬼には、何も出来なかった。ここでもし、敵が時間をかけてくれれば、お札でまた小細工の1つも仕掛けられたかも知れないが。泉鬼側のカウンターを恐れず、速攻で切り刻んだ。
一応、戦草寺は足を斬られた瞬間、仰向けに倒れるよう努力し、千刺万観に巻き込めるように頑張ってみたが。
相手が、1枚上手だった。体勢を低く、正面からのカウンターだけは避けた。結果、千刺万観はギリギリで当たらなかった。1戦目で、宝仕が受けたのを見て、対応を考えていたのだ。
ぱちぱちぱちぱち!
素晴らしい闘志の戦草寺と、それを全て受けきり、勝利した相手。2人への大きな拍手が巻き起こった。
技四王も、2人へ向けて拍手を送った。
「負けてしまいました」
「いやいや。オリーブを相手に、1勝しただけで、ものすごい事さ。それに私の出番を残しておいてくれなければ、困るな?」
「良い戦いだった」
「頑張りました!!!」
先生は、強く戦草寺を抱き締めた。
戦草寺に見えるもの。ねぎらってくれる野牛、真剣な眼差しで褒めてくれる己業。それに、先生の腕。
「まだ」準決勝だと言うのに。ご丁寧な事だ。
「頑張って下さい」
「ああ。出来る限りに、出来る事を」
戦草寺のエールを受けて、野牛が出る。己業と千誌も応援の声を投げた。
知っていたつもりだった。あの後輩の力、努力、研鑽。全て、私が1番知っている気でいたが。
野牛は、まだミノテリオンをまとっていない。ヴィジョンに入っていない。なのに、その背中から漂う威風は。




