準決勝開始。
オリーブは実に分かりやすい戦術を取る。各自が各自の持ち味を活かす。チーム戦術と言うものを見せた事は、今まで無い。ただ、それで普通に勝ち抜いてきた。言うなら、1人1人が己業レベル・・・
・・・そんなわけないわね。
戦草寺は、野牛や己業の控えをやっている間、何度もこの敵との戦闘を想定して来た。
イメージの結果は、200ポイント食らって私の勝利。1人抜きまでは難しいかな・・?
開始!
緑色の作務衣。それだけをまとい、日本刀を腰に下げた侍。それが1番手のシルエット。こいつが最強なら、何とかなる。そうでなければ、
面白い。
敵の得意は速さを活かした速攻。過去に対戦した他校も、それを百も承知の上で敗北を重ねている。関刃や黒曜石心より、なお速い。
キン
弾いた、が。今、明らかに接触が音より速かった。敵は抜き打ちを放ったはず。なのに、刀は鞘の中に有る。抜きと入りが、見えない。
戦草寺の心臓は、強く脈打った。剣閃が、見えなかった。ただ、予感に突き動かされ、薙刀を振っただけ。無意識が反応してくれた。己業との稽古の成果だろうとは、思うが。
たまたま、偶然、避けられたに過ぎない。
・・震える。
・・・・・・・・こいつを。倒したい・・!
やはり、手強い。薙刀を弾くつもりで斬ったのに。綺麗に逸らされた。うっかりすると、こちらの刀を持って行かれる。
技巧は知明直伝。それを操るは、知明の使うシルエットを参考に学生レベルでも扱えるように簡易化した、宝仕。知明の用いるモノは、ムミョウレベルで狂っているので、リスクが高過ぎる。
そして、戦術。抜き打ちに徹する事により、相手の反撃の機会を減らす。無駄なく、丁寧に処理する。だから、広範囲系に弱い、が。こちらに広範囲系が居ないのは、知られている。
・・秘呪札先番を撃つ隙が無かった。間合いより、外。こちらのシルエットの体の前に出している薙刀を狙われた。常套手段と言えば、常套手段だが。
こんな回りくどい手を使う相手だったか?他の試合では、普通にシルエットを狙っていたはず。ふむ・・。
なら、千殺万札。
問答無用で接近して来る今までの宝仕のスタイルなら、お札を使うのは、自殺行為。集中力を分散してしまうのは、危ない。この程度の相手になると、副武装は出さない方がマシだったりする。
だが、今なら使える。
囲い、視界を塞ぎ、副武装のお札も出し続ける。薙刀への攻撃の注意も抜いていない。敵は、動かな・・・動いた!
今度は踏み込みが深い!!
千刺万観!
野牛は獰猛な笑みを浮かべた。今すぐ、戦草寺と戦いたい。1試合1度きりのカウンターを惜しげもなく撃った。しかも、ほぼ見えない抜き打ちに見事に合わせた。敵刀に判定、更に。
オ!
今度は泉鬼が踏み込む!さあ、防御してみろ!刀は折れるがなあ!!
スッ
普通に後退した。
気合を、外された。と、来た!
イ!
金属音がしない!空気の斬れる音のみ!
今度は、薙刀にのみ判定。お互い、本体へのダメージはほぼ無し。お札で、宝仕に数ポイント入っているが、誤差でしかない。この2人に、削って終わりと言う決着は無い!
お。
己業は目を凝らした。敵が、刀を抜いたままだ。斬り合いに、移行する。抜き打ちでの奇襲を終えたのか。それとも、やり返した事で、斬り合うのに抵抗が無くなったのか?
抜き打ちを封じられたと思われるのは、我慢出来ないかな。良い自負だ。
ギイ、
ゴ、
カァン!
順に行こう。
まず、薙刀と刀が、相打ちとなった。そして、両者ともに、破壊された武器に見向きもせず、飛び込んだ。互いに絞め技を極めようとして、殴り合う結果となった。
格闘の技四王と、五分に組み合うだと。
そして、宝仕が2つ目の主武装の脇差を抜き、貫こうとしたが、
前もって出していたお札を盾に、泉鬼は脇差を殴り付けた!!
己業も、熱くなった。千殺万札と同時に出していたお札。しかし、同時に泉鬼の背後にも出現させ続けていた。戦草寺は、どこまで読んでいるんだ?当然、動き回る2人の移動を予測し続け、先回りさせ続け、敵視界から隠していたのだ。
あんな真似、己業にも出来ない。
より詳細に説明すると、脇差をシルエットの肉体で殴れば、こちらにもダメージが発生する。まあ、当然だな。だから、戦草寺は、「お札を」殴ったのだ。敵脇差の極手前で。
泉鬼の副武装たるお札は、ほぼダメージを与えられない。そして、自身へのダメージは発生しない。ただ、物理実体ではある。運動エネルギーの計算が行われる。
だから、殴り抜けば、相手に届くわけだな、シルエット本体の格闘攻撃は。脇差から発生するであろうダメージを無視、かつ自分からの格闘ダメージをきっちり相手に届かせる。
前もって出していたお札を、敵脇差の予測進路に移動、自分の拳の経路との交差点に置く。もう、人間業ではない。相手は素人ではないのだ。抜きを見せないレベルの剣術の達人の攻撃位置と展開速度を予測し、それをカウンターで迎え撃つ。意識的にやっては、絶対に間に合わない。無意識領域でやるしかない。
お札を本当に手足と同じに動かせる戦草寺だから、可能とした。この分野なら、戦草寺は己業など相手にもならない。そんな域に達している。それに。
どれほどの困難でも、2度だろうが100度だろうが、戦草寺なら勝つまでやる。実力と、それを更に上のステージへ引っ張り上げる、意気。これが、戦草寺の核。
殴られ、わずかに体勢を崩した敵。脇差は当然、刀より軽い。防御として構えていたのでもない以上、泉鬼の腕力でも、持って行かれる。
戦草寺は、更に踏み込む。密着。
ゴシャア!!
敵左腕を掴まえ、捻りつつ頭から投げ落とした。痛覚が無い以上、踏ん張れなくはない。だが、無理に頑張っても、結局は腕に判定が発生してしまうだけだ。折れるからな。だから、敵はあえて投げられて、足から着地する予定だったのだろうが。
泉鬼の単純な速度、だけではない。そんなものは、敵も見ている。このレベルで、敵の速度、腕力を見誤るなど、有り得ん。
タネは、お札。宝仕の背中、足、腕、身体全てを加速するようにお札を貼り付け、全く想像出来ない速度の投げを実現した。だから、受け身が間に合わなかったのだ。
だが、敵右腕に持った脇差は生きている。予想していなかった事態でも、得物を離さない。自分の手足を離す奴は、居ないからな。
転がったまま反撃!天地逆さまだと言うのに、気にも留めない。これが、強豪か。
そして、右腕の勢いを利して立ち上がろうとするが、泉鬼に左腕をねじられたままだ。左腕の判定発生は、もう無視する。流石に、転がったままでは、厳しい。
ト
敵右腕を左手で押し、反撃を逸らす。なおかつ、右手で敵左腕を再度折る。両膝で、肩甲骨の辺りを押さえ込む。すねで、肩を押さえる。ちょうど、後頭部を正座した両足で挟み込む形だ。敵をうつ伏せに出来た。このまま潰す!
ゴ
全景が見えている観衆、己業達も一進一退の攻防にドキドキしていた。
泉鬼頭部に、敵のカカトが来た。腕を腕で封じている以上、どうしても頭部も下がっている。振り上げを、見事に当てた。柔軟性、可動領域が十分に取られているから可能な技。ヴィジョンなら、余程の事で無い限り、自分の動きで体を痛める事は考えなくて良い。今度は、泉鬼が少し体勢を崩した。
敵は、全力で以って肉体を持ち上げる。じわっと力を入れれば、どうあがいても泉鬼のコントロール下だ。
だから両腕の判定も、この際考えない!とにかく、全身の勢いで立ち上がる!
ぐお!!
一瞬、頭部を蹴られ視界のブレた泉鬼。相手の動きを把握しきれなかった。それに、頭部への攻撃を受け、反射的に両腕をガードに回そうとしてしまった。あくまで、微動した程度に過ぎない。それでも、押さえ込んでいた腕力は、少し抜けた。宝仕は、下半身のバネを上半身に伝え、そこに腕力を同時発生。全てのエネルギーで、体を持ち上げる事に成功した。泉鬼が重量級でないのも幸いした。
泉鬼を跳ねのけ、立ち上がれた宝仕。ただ、左腕の部位破壊、頭部への1度の判定。対する泉鬼は、頭部への判定のみ。
しかし、宝仕には脇差が有る。泉鬼には、攻撃性能の薄いお札のみ。
だが。抜き打ちは、もはや撃てない。左手が効かない以上、「構え」が取れない。
そう。宝仕は、高火力遠距離武装でもないのに、構えを必要とし、両腕での発動を必要とするタイプだった。もちろん、剣を振るうだけなら片手でも可能だ。だが、戦草寺の目でさえ追えない速度は、もう出せない。
防御を完全に捨てた関刃や黒曜石心より、なお速かったのはこれが理由だ。両腕を必要とする条件を課し、片手軽量武器の火力のまま必殺技すら持たない。火力は技量でまかなう。これが、「抜き打ち」の秘訣。
モニター越しの野牛は、ざっと確信した。己業にはヴィジョンの機微はまだ分からないが、もう速くないのは認識出来た。問題は、戦草寺がそれに気付けるかどうか。相手の構えが形成されていない以上、隙を伺い、わざと出していないと言う解釈も可能なのだから。むしろ、この推量の方が、慎重で良いかも知れない。
だが、戦草寺は。
オ!!!
考えない!飛び込む!!
相手は片腕!必殺技を持っていないと思い込む!なら、格闘で倒しきれる!!!
行くしか、なあい!!
宝仕は、片手であっても見事な剣舞を見せた。それも泉鬼の頭部を狙い、部位破壊をちゃんと目論んだが、戦草寺は丁寧にガード、攻撃部位を散らし、破壊を許さなかった。
お札を使い、宝仕の行動速度を抑制、多少のダメージと判定をもらいつつ、泉鬼は勝利した。流石に、片腕では、今度は逃げられなかった。
今大会、初めて、宝仕が1人目で敗れた。




