お昼休み。
やっと、並んだ。己業の、偽らざる感想だ。野牛と戦草寺の活躍で決めた全国出場。砕落、林密戦もまた、2人の活躍だった。
自分の存在が、技四王の力となった自信は有る。だが、それは、言うなればコーチ。チームメイトとしてではない。
やっと。おれも初陣を飾れたか。
己業の中で、野牛と戦草寺が実戦で実践した1人抜き。あれをやるまで、2人の後塵を拝している気分が、ずっと抜けなかったのだ。
嬉しい。
これで、技四王は全員が1度は1人抜きをした事になる。化け物の群れか、と他校は思った。
己業は完全に気を取り直したようだ。技四王の仲間は、安堵した。口でどう言おうと、技四王の最大戦力であるムミョウが欠けるのは痛い。出来れば、戦力として期待させて欲しい。
一緒に戦い、勝利を喜び合いたい。負けたなら、一緒に泣きたい。
野牛にも、戦草寺にも。高知県大会は、己業に勝たせてもらったようなものだ。今度は、自分達が、己業の役に立ちたい。一緒に苦闘したいし、敢闘し、死闘の喜びを分かち合いたいのだ。
ここには、いくらでも強いのは居るのだから。それこそ、未来のデイズ・グロリアス候補だって。
それはそれとして、昼食だ。現在、11時30分。予定通りに進行している。準決勝は12時50分集合、1時開始だ。昼食を取った上で、少しの休憩時間も取れる。
技四王は会場内で取る。会場に来る前にコンビニで買い込んだ食料飲料を、先生が保冷バッグに入れてくれている。己業は良く食べるが、それでもちゃんと入りきった。ギリギリだが。
「室内なのに、ピクニックですね」
「あはは」
戦草寺の可愛らしい発言に、己業も無邪気な笑い声を立てた。野牛も千誌も頷いている。本当に、お茶を飲み弁当を食べ。それらをシートの上で行うので、ピクニックだった。無論、周囲も似たような光景で埋め尽くされ、どっちかと言うと、混雑した花見を思い浮かべてしまうが。どちらにせよ、屋外行事だ。問題無い。
己業は1つ目の弁当を平らげつつ、サンドウィッチにも手を伸ばしていた。またもイカ天の入った天ぷら弁当だ。サンドウィッチは普通のカツや卵やハム。これは数を購入し、皆で分ける。戦草寺は、コンビニで富山県産のお茶、蛍光茶を見つけ、嬉々として飲んでいた。光り輝く紅茶だ。味は、まろやかな渋さ。肉料理に合うな。野牛はステーキ弁当を食していた。牛肉とイカの2種類が入っている。イカステーキは初めて食べたが、いわゆるイカ焼きとは違う。パエリアとかピラフとかの味だ。冷めても美味しい。と、弁当に書いてあった。先生は、菓子パンをもぐもぐしていた。コーヒーも美味し。
幸せな昼食の時間は、己業が最後のパンを食べて終わりを告げた。精神疲労は有っても、肉体はまるで動いていないので、食べ過ぎると太る。女子は大変な苦悩を味わいながら、食事量を考えていた。己業は何も考えていない。どうせ、帰ればトレーニングでいくらでも消費する。
各自、歯を磨いたり、本を開いたり、食後の時間を思い思いに過ごしていた。まだ時間は有る。何なら眠ったって良い。
うとり
座ったままの姿勢で、己業はうとうとし始めた。張り詰めた精神を緩め、肉体もリラックス。絶好のお昼寝コンディションだった。
先に己業に様子を見てもらった野牛が、己業の寝る場所を確保し始めた。タオルを枕に置き、自分と己業の座っていた場所で、スペースを確保。シートには、寝る己業と座る千誌、戦草寺。
「もう少ししたら、代わりますね」
「ああ。だが、その必要は無い。正直、座っていると私も眠くなる。そこらを歩いてくるよ」
「なら、付き合います。先生、己業君を見ててあげて下さい」
「分かりました。まだ時間に余裕は有りますが、間に合うように帰って来て下さいね」
「はい。じゃ、行くか」
野牛と戦草寺は連れ立って、お散歩に出かけた。
真夏の会場周辺には、活き活きとした若木達が成長した姿を見せていた。まだ雄雄しさは片鱗を見せるだけだが、有り余る若さのエネルギーが輝いている。
「勝ってしまったら。どうなるんだろうな」
「勝って、しまったら?」
野牛は横を歩く戦草寺に問いかけた。日傘も差さず、若い子女が真夏の太陽の下を悠々と練り歩く。
「お前に言ったっけな。全国に出れるなんて、思ってなかった。そもそも、土佐女王に勝てるなんて」
「初耳ですが」
「そうか。まあ、そうなんだよ。だから、これからの展望が、一切無いんだ」
散歩道を歩む2人。日陰が機能していて、直射日光に悩まされる事も少ない。お喋りの邪魔者は居ない。
「優勝したら。普通にプロに行けば良いんじゃないですか?そうしたかったでしょう?」
「まあ。そうなんだが」
「己業君に、任せっきりなのが、気になりますか」
数十歩歩くまで、野牛は答えなかった。
「私の夢は、話したよな」
「独立」
「そうだ」
割と、衝撃的な発言だ。いや、若者の夢は、だいたいこんなものだろうか?
「家を出て、独り立ちしたい。そのための収入源として、リアディウムのプロになりたい。だが、悔しくもあるが、今年の技四王の躍進は間違い無く己業のおかげだ。お前を困らせる事を言うが。私でなくても、良かったんだ。己業の活躍の場を与えてやれるなら。この、野牛海苔子で在る必要は無かった。己業と、己業を誘ったお前と。それで十全」
「・・・」
野牛海苔子だから、己業を受け入れられた。戦草寺はそれを知っていたが。全部吐き出させてから、言ってやるか。
自身の実力を遥か超える者を、嫉妬しつつでも全て受け容れた。己業のリアディウムへの適正を引き出しきった。それを強さと言うのだと、戦草寺は知っているが。
「全て己業のおかげで、私はどうする。私は、己業のおこぼれに預かるだけの、コバンザメではないのか」
プロになったからと言って、全員が大成するわけではない。デイズ・グロリアスにしたって、5名しか居ないのだ。だから。そんなゴチャゴチャした事は、なってから考えたって良いだろうに。戦草寺の忌憚の無い意見として。考え過ぎだろうよ。
「どうでも良いと思いますよ。己業君も、私も、先輩も。皆が居て、皆で出場して来た。それ以外の事実なんて無いんですから」
戦草寺には、情緒と言う言葉は無さそうだと言うのは分かる。
「そうなんだがなあ」
自立したい人間が、その旅立ちを人に背負ってもらうのは、どうなんだろう・・・。
「まさか、先輩だって、一人暮らしの家を自分で作るつもりじゃないでしょう?いきさつ、成り行き、そんなの適当で良いですよ。出来るチャンスが有るなら、そう言うもの。自由意志で生まれたわけじゃない私達が謳う自由なんて、滑稽なだけですよ」
「無茶苦茶言うなあ・・」
極論ではあるが。どの程度、何をやるかは、自分で決めれば良いと言う事か。自分の家を、コンクリートや鉄筋を製造する所から建てない以上。確かに、理想的な自由は、絵空事か。
らしくない、かな。戦草寺にとって、野牛海苔子と言う人は、良いお姉さんだった。自分に足りない所を持っている、戦草寺の身近な目標。リアディウム以外、得手とするものが無い戦草寺には、普通には縁の発生しようの無い相手だ。中学で部活に入らなければ、一生付き合う事も無かっただろう。
そんなものだ。部活に入る、入らない。そんな程度で、縁も生き様も決まる。つまり、毎日決まり続けている。平凡なはずの日常が、その人だけのオリジナルの人生を創り続けている。だから、戦草寺は毎日リアディウムを考えている。考え続ける事によって、自分の中の時間をリアディウムに浸らせている。
それを、リアディウムを、戦草寺の前に用意してみせたのが、野牛なのだ。野牛が居なければ、己業を誘った戦草寺も生まれなかった。
言うなれば、野牛が始めたのだ。この3人の戦いを。この全国の最初の一歩は、野牛が踏んだのだ。己業なら、そこに最大の敬意を払う。
何故なら、以無もまた、誰かが始めなければ在り得なかった。以無の「後継者」である己業は、無論、最初の以無ありきだ。野牛は、少し違うが、その始祖と同類なわけだ。
己業は、少しの羨ましさを野牛に覚えている。後継者で在る自分は、絶対に始祖になれない。己業自身の人生の主役ではあるのだが。
スタートを切った勇気。戦草寺や己業が来るまで継続して来た精神のタフさ。華々しい活躍の技四王の背骨は間違い無く、野牛の不断の歩み。
全く。
「予言します。先輩は、プロになっても何も心配要りませんよ。私と己業君で、導いてあげますから」
「言うな?」
いつもの戦草寺の軽口と野牛は受け取った。戦草寺は大人しい子だが、親しい相手には普通に冗談も口にする。
もちろん。冗談ではない。恩返し、でもないが、自分こそ野牛と己業に世話になりっぱなしだ。少し、返しても良い。
少女達は適当にぶらついて、己業と先生の下に帰って来た。
12時40分。そろそろ準備をするか。飲み終えた飲み物や弁当箱を、ビニール袋に入れた先生が車に運ぶ。持ち込んだゴミを会場で捨てるのは、ダメだ。会場の自販機で買ったのなら、もちろん大丈夫。だが主にコンビニで買ったものなので、自宅まで持って帰る。・・いや、学校関連なので、学校のゴミ箱に分別して捨てても良いな?
適当な事を考えながら、千誌はゴミを片付け、新たな飲み物を生徒達と一緒に購入していった。ヴィジョンを使う以上、肉体は過剰な熱を持たない。だがそれでも、真夏の昼間は注意しなければいけない。暑さ対策として、水分はこまめに取る。
準決勝の相手は、香川県オリーブアイランド高校。全く危なげなく、前評判通りに勝ち上がって来た。前年度準優勝、そして優勝経験有り。
特筆事項として、優勝経験の有る雲技知明から稽古を受けている。
まず、戦草寺が行く。相手は、今までのオリーブの順序と同じ。1人抜きをかまし続けて来た奴だ。
「己業。どう見る」
野牛は、戦草寺がゴーグルを付け終えてから聞いた。戦草寺には聞こえないように。
「先輩の判断は間違ってないと思います。先輩じゃ捉えきれない、っての以外は」
「お世辞は要らないぞ」
「言いませんよ。戦いでは」
美人ですよー程度なら、誰にでも言うが。強い弱いで、己業が言葉を誤魔化す事は無い。
戦草寺が1番手なのは、戦草寺なら敵の動きに対応出来ると思ったからだ。相手は、強くて上手い。野牛には勝つ自信までは無かった。
話し合った結果、己業は最後に回す。感情的な理由ではなく、戦草寺と野牛で相手の人数を減らし続ける。そうして、相手の最後の1人2人なら、ムミョウで間違い無く勝てる。もしムミョウを先に出せば、必ず広範囲攻撃が来る。アレへの対抗策は、ほぼ無い。強いて言えば、ラストコアのような素の防御力を底上げしたタイプか。逆に防御ゼロのムミョウは、最悪の相性だ。1戦ごとに削られ、3戦目あたりでムミョウは負けるだろう。そう言う手合いを、野牛、戦草寺の2人で討ち取って行けば、技四王は間違い無く勝てる。
選手の順番は、試合が始まってしまえば変更出来ない。だから、相手方の思惑を推理するしかない。この戦略も、楽しい。戦の醍醐味の1つだな。
最早、個人の強さ如何で勝てる領域ではない。
このレベルの世界で、1度の部位破壊もさせず優勝したのが雲技知明だ。想像も出来ない怪物なのは、理解してもらえたかと思う。
オリーブ先鋒は強敵。その強さは今まで散々見て来た。あるいは、見せられた。ムミョウを当てても不思議は、無い。だが、こちらはオリーブ3番手以降を見ていない。全く未知の強豪を相手に絶対に勝てると言い切れるのは、己業のみ。野牛も戦草寺も、そこまで思い上がっていなかった。
最後の、感情的な理由として。せっかく全国まで来たのだ。
野牛も戦草寺も、絶対に強いと分かっているオリーブや輝光白蛍と戦いたかった。
己業が出れば、下手をすれば、いや上手くやれば、1人抜きをしてしまう。
自分達では、かっこよく勝てないかも知れないが。戦いたい。結局、己業の「遊び」を許容出来たのは、自分達にも、ああ言う部分が有るからだろうな。
全国も、残り2戦。
めいっぱい遊ぶぞ!




