林密。戦草寺の実力。
ピリ
糸を斬る。
ピッ
糸を張る。
「おそろしく、まどろっこしい相手だ」
「ハマれば強いんでしょうけどね」
敵はどうやら、ワイヤートラップを張っているらしい。
目の前で。
なので、薙刀で切り裂いていくのだが、敵は決して諦めない。良い根性だと褒めてやりたい所ではある。
推測になるのだが、相手はこうも糸を視認されるとは思っていなかっただろう。実際、野牛から見ても、見えにくい。モニター越しでこれなら、対峙している戦草寺には、もっと見えないだろうに。
ピッ
全てを無効化しつつ、お札でちょこちょこダメージを稼ぐ。
おかしい。相手は、罠をしかけている。つまり、そこに仕掛けるだけのタネが有るはずなのだ。爆発物、刃物、なんでも。
それとも、これも必殺技なのか?それが、こうも簡単に解除出来る?ワイヤーから発動させる事によって、条件を軽くした?だから、発生条件であるワイヤー自体は、簡単に切れるのかな。
悩みつつ、泉鬼は勝つ。相手は、イマイチぱっとしなかった。空間に設置されるワイヤーと言う不可思議なシロモノだったが。タイミングが、悪かった。
グレートアトランティスから帰って来てから、戦草寺は、視覚認識能力を更に向上させた。シルエットの、ではない。自分自身の、だ。
己業の動きを捉えきれなかった初対戦。そしてムミョウを操った時も、同じだった。見えない。これでは、勝てない。
以無己業が、どれほどの化け物だろうが、知った事ではない。私が平らげる。
現実なら、己業には何をどうやっても勝てない・・。ふん。しかし、リアディウムなら話は別だ。見て、迎撃して、適切に戦えば。
必ず、五分にやり合える。
だから、まず己業の動きを見極める事から始めた。速い速いと言っても、人間の視力は光速程度は捉えられる。星の光が見える以上は。音速で飛ぶ飛行機だって、はっきりと見えるはずだ。距離が開いていれば、遅く、のんびりとした速度ですらある。よな?
そう、強く思い込む。ヴィジョン内にて、記録されたムミョウの動きを何度も何度も見る。徐々に、目が、慣れて来た。時間を、細かく刻み、己業の見えている世界に近付いた。と思う。
リアディウムの疑似感覚を、戦草寺が更に我が物とし始めたのだ。
今回の相手は、ワイヤーを張る際、少し体の動きが強張る。良く見る癖を付けたおかげで、気付けた。
3人目。大砲持ちか。火力は近距離大型武器並みのはず。注意しよう。
ザ
円を描きつつ、走って近付く。相手は、撃たない。タイミングを見計らっているな。良い覚悟だ。
さて。いつ来る?
距離、10メートル。これ以上近付けば、相撃ちになるぞ?
6メートル。バカな。何を考え・・
ゴ
キイ
・・ふふふ・・。
「これは面白い」
「奇策と言う奴だな」
己業と野牛も、度肝を抜かれた。
カ、キイ
斬り合いが火花を散らす。そう、大砲に見えた大筒は、ビーム発生装置だった。筒の持ち手が、そのままビームブレードの持ち手に変形した。そして、砲口から、斬撃用の刀身が出て来た。
とは言え、絶対に強い攻撃力を持ち一方的に勝つ武器など、リアディウムでは存在出来ない。薙刀でも、十分渡り合える。ただ、相手が高火力武器なら、斬り合いで発生するダメージは、こちらにより深く響いて来ているはず。
ま、先刻承知だがな。
良く見る。相手の癖を、体捌きの呼吸を、武器の得意な動かし方を。
そこ!
こっそり忍び寄らせていた、ダメージを与えず、回り込ませるだけに留めて置いたお札を、完璧なタイミングで相手の足に貼り付ける。意識の行き届かない力を働かされれば、高火力武器を用いる事の出来る重量級と言え。転ぶ。
まず大筒を蹴り飛ばし、無力化。敵は、林密。2戦で既に特徴は分かった。下手をすれば、自爆トラップぐらい持っているかも。
だからと言って、接近戦を止める事も出来ない。あのビームブレードを使われ続けるのは、不味い。
泉鬼が薙刀で斬り付けている間、敵の抵抗は、無かった。いや、正確には、動きのようなものは有った。全て、泉鬼が蹴り飛ばし、手榴弾やら何やらの発生を抑止した、のだろうな。恐らく、手を使う事が条件に含まれていたな。重量級である以上は、泉鬼の動作の発生速度の方が速い。これは、野牛との稽古で知っている事だ。やはり、読み負けなければ、相手の動作を潰せるのだ。
大会直前の野牛との試合を思い起こす。身内に、全国レベルが居るのは、悔しくも有るし、頼もしくも有る。全く。
問題無く決着量を削りきり、勝利。必殺技を出されずに済んで助かった。
まだ、まだ喜んではいけない。千誌は、野牛の勝利の際も、少しばかり喜びを露にしただけで我慢した。なぜなら、まだ1回戦は終わっていないのだから。あと、2人。身を震わせながら、千誌は教え子達を見守る。
4人目。長剣持ちか。これまた何かギミックが有るかも知れないが。今までの迷彩服とは違い、いわゆる軍服。正装っぽい。
正統派の斬り合いになっても、不味い。薙刀の限界が近い。先のビームブレードが響いている。
こんな時は、こうするんでしたっけ?
開始!
即、全速力で接近!
相手はカウンターを撃つ!抜き撃ちにて、前方へと剣閃を走らせる!
オ!
だろうなあ。だが、躱す。気持ちは分かるが、縦の斬撃など当たるものか。横になげば、まだしも。
剣身が見えた。軍用サーベルか。見上げたこだわりだ。
縦斬りの後、横なぎに移行した。悪くない。決して悪くはないのだが。その程度の動きなら、いくらでも読めるわ。
横なぎの通り過ぎた後に合わせられるよう、ほぼ同時に薙刀の斬撃を発生。薙刀で以って、長剣を押す。腕部可動限界を超えさせ、相手の長剣を弾き飛ばす。パワーは無さそう、つまり握力も。上手くハマった。が。
ピシ
薙刀も、破損。ここからは、シルエットの素の能力とプレイヤーの能力次第。
たん、たん
薙刀を放り捨てた泉鬼の前で、敵はリズムを踏む。相手にも格闘戦の心得は有るようだ。不味いなあ。私は、格闘技なんて知らない、か弱い女の子なのに・・・・。
高知県予選を見た人間はご存知の通り。技四王は、ここからが本番だ。
野牛との会話でも、何度かテーマになった。己業を相手に本気で勝つなら、どうすれば良いか。答え。真面目に格闘戦に付き合ってはいけない。斧を使おうがお札を使おうが、とにかく自分の得手を押し通す。そうしなければ、活路は無い。
自分の動きを強くイメージ。拳のリーチを認識、蹴りのインパクトの瞬間を把握する。
「入ったな」
「ええ」
戦草寺が、殴り合う気になった。同じ部の2人なら分かる。大人しく、気弱そうに見えるあの子は、その実、旺盛な闘争本能を抱え持つ、己業と本気でやり合う事を望む戦士。
薙刀を無くし、飾りを捨てた。
動く。
お札を、拳に足にまとわり付かせる。さあ、行こうか。
相手には、遠距離での技は無いらしい。今まで動きが無かった。近距離で、ケリが付く。
たん
戦草寺から踏み込む。相手は、待ち、か。
「勝った」
己業の言う通り。そう野牛も思った。自信が有るなら、戦草寺の考えのまとまる前に動けば良い。そうしなかったのは何故か。今までの動きを見ただけでは、不安だった。自分から動いて、相手の動きを見定める時間を減らすのは嫌だったから。
詰まる所、戦草寺と同程度にしか心得は無いな。己業なら、もう泉鬼を追い込んでいる段階だ。これは強さの問題ではない。自負の問題だ。己の磨き上げた物に、どれだけ自分を託せるのかと言う。
お札は、正確に言えば、体に触れていない。いつぞやの格闘家タイプとの戦いと同じ。厚く防護させたように見せているだけだ。
自分の体の動きに合わせ、正確に、堅実に、お札を動かす。それは、右手で書いた文字の上を、左手に持った鉛筆で正確になぞるようなもの。更にそれらを同時に行う、難解な動作。だが、戦草寺は、それをやるのだ。リアディウムに浸かりきった、それしか取り得の無い女は、現実にやってのけてしまう。
この実戦で出来ると信じ、本当にやる。これが、己業の好きな、戦草寺だ。
さあ、負ける覚悟は、もう決めたのかい?
泉鬼の右ストレート、更に左の蹴り。相手は、距離を取って避ける。そして踏み込んで来た。今更・・
カ!
電撃!!
スタンガン?あの服そのものから、放たれたような気がした。技を隠し持っていたか。それに、これは・・・!
「硬直効果!?」
「これが。初めて見た」
野牛、己業共に、初体験。まさか、実戦で使う奴が居るとは。
スタンコート。ダメージ100ポイントに10秒間の運動停止効果。ただし、使用シルエットの現時点での決着量の99パーセントを消費。プラス、武装全ての破棄と、防御力100パーセント試合終了まで完全喪失。自分の有利を願うなら、使えない。これは、チームのための必殺技。残り1名のチームメイトに、野牛と己業の片付けを頼みつつ、自分は、戦草寺を確実に倒すつもりなのだ。トドメには、最適か。
良い根性だ。気に入ったぞ。
スタンコートを登録した時点で、武装は長剣のみと決めていた。こちらに、心理的ショックは無い。だが、武装が消え失せたのは事実。殴るしかない!敵は、全力で泉鬼に突っかかり、そして。動きを止められた。
悪いな。まただ。
硬直効果は、シルエット本体への効果。既に出し終えたエフェクトまで凍ったりはしない。つまり。
出現しているお札は、動いてしまうわけだな。
手足を補強しただけに見せかけた意図は、別の所に有るが。結果オーライ。これが、手持ち武装である所の薙刀なら、動かなかっただろう。しかし、出し終えた副武装は、動いてくれるのか。戦草寺にとっても、初体験の硬直効果。突破策など、持ち得るわけ無し。幸運以外の何者でもない。
だが、硬直した本体に合わせ、お札の動きまでも留め置いたのは、戦草寺の判断であり、業。よくもまあ、そんな機転を。
お札のみで、相手の動きを牽制する。攻撃力は、ほぼ無い。まず、相手の視界を塞ぐ。ここで、敵はこちらが何故お札を動かせるのか、戸惑うはずだ。そして、足元を始め、敵周囲に満遍無くお札を配置。今は、追加で出せない。1枚も無駄にせず、使い切る。相手の出足を潰し、相手の腕の振りを加速させてやりバランスを崩させ、動きを封じるのみ。
言うほど容易い業でもない。自身の行動制限をかけられた中、唯一動く指先一本で、相手を止め続ける。そんな技巧だ。
最早、戦草寺も、常人の域を超えていた。
ふう。10秒とは、長いものですね。
8秒を経過した辺りで、お札のみのダメージによって、敵決着量はゼロになっていた。防御力ゼロで、しかも99パーセントまで削ったら。なあ。
己業も野牛も千誌も。戦草寺の、真の実力を思い知った。
5人目。1番立派な服装だ。手持ちの武装は、見えないが。小型の銃でも懐に有るのかな?
こちらは武器は無く、お札を使う事もバレている。勝率は限りなく低い。が、まあ、先輩も己業君も控えている。適当に遊んで、
勝つか。
開始!
ヴァ、ア
光。
一瞬で、泉鬼の全身全部位に1回ずつの攻撃判定。
広範囲多判定攻撃だ。あの、盆水のような。
「今度はレーザーか」
「近代的ですね。それに、あれはおれでも避けられない」
モニターにも圧倒的光量が見えた。音速をはるかに超える攻撃速度。その上、範囲が、広過ぎる。そして相手にはダメージが全く無い。つまり、今までの手榴弾や地雷とは違うのだ。条件は、洒落になってないほど重かろう。
大動雫のシルエット、穿始と同じく、武器を持たないのであろうか。そう言えば、あの人も警護の仕事と言っていたな。同じ、現実でも武力を用いるタイプとして、あの人を見習ったのだろうか。それとも、守護を志すと、同じ道にたどりつくのか。
スタンコートには、部位破壊系の効果が無かった事が幸いかな?今すぐ、終わるわけではない。手も足も動くのだから。
残り決着量700。全部位に攻撃判定。そして、相手はノーダメージ。不味いどころではない、が。
甘い。
滴が盆水を使ったのは、己業の動きを封じるため。あの時は、戦いを長引かせる目的が有った。今回、こんな決定打にならない技を戦い始めに繰り出す事に、戦術上の意味など無い。
泉鬼が薙刀を持っていれば。泉鬼の、どこかしらの部位に攻撃判定が溜まっていれば。相手に、削りのためのメイン武装でも有れば、話は別だが。
レーザー以降、動かない。カウンター重視か。
この状況下で、戦草寺含む技四王の全員が、戦草寺の勝利を全く疑っていなかった。




