表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/89

砕落。そして、リアディウムを知る。

 観客と他校の視線を感じる。他の学校も試合前なので、レギュラーがじっと見ていると言う事は無いはず。その代わり、控え部員などが偵察しているのだろう。


 千葉県砕落高校。元々は、リアディウムは盛んではなかったが、各スポーツ分野のエキスパートの能力が活用出来る事に気付き、一気に隆盛した新星。少し、技四王と似ているか。ただ、人口が違う。5人の枠が埋まっているのは当然として、補欠ですらエキスパートだ。


 それでも技四王は勝つ。こちらは、人間を超えている者が師範代なのだから。


 勢いを付ける。敵は、それなりに強いと想像される。


「行って来る」


「頑張って下さい」


「戦草寺とおれが控えてます。なんとでもしますから、めいっぱい遊んで来て下さい」


「ふ。そうさせてもらおう」


 先陣を切るのは、野牛。


 相手は騎士タイプ、ロングブレードを前に突き出し、斜めに構えている。剣道?


 開始!


 速い!剣道家の踏み込みは、尋常ではない。それが更にシルエットのステータスで加速されている!


シイ


 取った!ミノテリオンは、素手で切っ先を捕まえ、力尽くで引っ張り体勢を崩させ。そして千畳海苔を叩き込んだ。


オオ!


 そして止まらない!大地に叩き付けた斧をそのまま振り上げ、胴体、頭部を切り裂いた。


「勝者、ミノテリオン!」


おおおおお


 野牛は、今回の相手の素性を知らない。剣道の研究もした事は無い。だが、剣道に於いての3種の動作、面、胴、小手くらいは知っている。そして、それらの動作に必殺技を設定してしまうと、最早、剣道家としての利点を失うであろうとも思っていた。


 まさか、格闘技者との対戦をイメージしなかったわけではない。いくら何でも。そして、その中での結論として、彼らは基本動作に必殺技を設定しない。絶対的な自信が有るはずのその道の動きで、技を設定しなければリアディウムプレイヤーに後れを取る、とは思うまい。


 これは己業を見て、確信に至った。己業は、蹴りや突きと言った基本動作に決して技を付けようとはしなかった。


 あくまで、通常の攻撃。それ以外は来ない。必殺技特有の、異様な動作が見えなかったのだから。


 敵騎士の速度は、時速90キロには達していただろう。普通に、ここまで走って来た千誌先生の自動車並みのスピードだ。更に言えば、人類の出せる最高速度の3倍弱。・・・だが。


 つまりは、己業がムミョウを操った時のおよそ9分の1の速度。野牛と戦草寺なら、視える。


 砕落側は、驚いているようだ。それはそうだろう。選りすぐったはずのエキスパートが、その分野ごと吹き飛ばされたのだから。


 実際は、そこまで安全な試合でもない。千畳海苔を撃つための条件の1つ、950ポイント以上の決着量の維持。相手の剣を受けた瞬間に、20ポイントは削られていた。もう少し、攻撃力を上げていれば、千畳海苔は不発だったろう。


 敵側は、油断して何の工夫も無く速度のみで迫って来たのではない。速さに目が慣れる前の速攻を決めたかったのだろう。それが、工夫だ。こちらが、その策をものともしなかっただけで。


 ここで1つ解説を入れると、ミノテリオンの防御は、並み。まともに受ければ、実は50ポイントは削られているはずだ。それを20に抑えたのは、野牛の腕前。相手の剣速に合わせ切っ先を掴み取り、そこからより速く腕を引く。体捌きならいざ知らず、腕部動作だけなら、何者にも負ける気は無い。これによって、相手の剣威はほぼ無くなった。剣の切れ味のみがダメージとなったのだ。


 どうやら、相手は本物の剣道家だったらしい。だから、剣には、ほとんど切れ味が無い。竹刀を想定しているからか。


 素晴らしい自負だ。己の磨き上げた物は、真剣でも木刀でもなく。竹刀。それに魂を預けるか。良い武人だ。


「まだ、体が温まらない」


 それはそれとして。礼を交わした後の野牛は、恐れ知らずだった。


「会場は、温まってますよ」


 戦草寺の言う通り。他の試合も同時進行で行われていながら、決着が付いているのは、技四王とオリーブアイランドのみだった。


 己業は、失礼ながら野牛の試合なんぞ見ていなかった。言われた通り、勝つだろうと思っていた。対戦相手の情報を戦草寺から聞きかじり、実際に見てみたが。自分と同レベルは居なかった。


 モニターで見たオリーブの1戦目。速かった。己業が見て速いと言うのは、少々不味い。あれが最強なら、勝てる。逆に最弱なら。大将ともなれば、おれと同格か。


 2戦目。柔道部、もしくは総合格闘技志望?柔道着だ。


「己業君、見ないの?」


「ん。秘策でも無い限り。先輩なら、楽勝」


 己業は、オリーブの動きのみを見ていた。なぜ、そこまで?


 それは、雲技知明の母校だからだ。


 知明は、2年前に卒業した。だから、今の3年生は知明の居た頃の1年生。共に鍛錬した仲と想像する。そして知明は、たまに母校に稽古を見に行っているらしい。リアディウム公式の情報コーナーに載ってた。


 かなり期待出来る。


 野牛は、勝つ。柔道着が、まさか伸び、襲い来るとは思っていなかったが。泉鬼の千刺万観の速度に比べれば、やはり遅い。あれは一瞬で来るからな。ミノテリオンの斧の振りでも、容易く道着を切り払えた。掴む事も許されない柔道家は、何も出来ず。


 そして千畳海苔。相手の動作は機敏で、普通なら決して遅くもないが。


 リアディウムでは、一手遅い。


 戦草寺なら、いつのまにかお札や千殺万札をバラ撒き、勝利までの布石としていただろう。薙刀を振るうのと、全く同時に。


 彼らは、1つの動作を綺麗に丁寧に起こしている。まるで、現実の写し絵のように。それは、現実なら正しい。二手を同時に起こせば、その分精度は落ちる。


 だが、ここでは、強く思えば、その通りに動く。理想以上の動きが可能となる。現実では、戦草寺は薙刀を振る事すら出来ない・・長物は、重いからな。それが、シルエットをまとえば、パワーの有るミノテリオンの斧より早く振るえる。それが、リアディウム。


 3人目。木琴?鉄琴?・・・・吹奏楽部?まとった装束は、ブラスバンドのような、マーチングバンドの参加者のような。


「・・・見て、己業君」


「ん・・」


 戦草寺は、まず己の目を疑った。現実の光景と認識すると、すぐ横に居る己業に声をかけた。己業は素直に首を技四王のモニターに向け。目を離せなくなった。


 なんだあれは・・・。


 野牛は、血が騒いだ。こいつ、絶対に面白い。先の剣道部や柔道部と同じ、その道で積み重ねた者だろうが、楽器を持ち込んだか!!


 尊敬に値するバカだな。


 開始!


じり


 丁寧に距離を詰める。相手は動かずタイミングを計っているようだ。


 この好敵手に敬意を払い、全身全霊で、この身に蓄えた技巧を味わわせよう。


キン


 音。


 相手が鍵盤を叩くのを見た野牛は全速で足を動かし、その場を離脱した。


オン!


 野牛の居た辺りの空間に、衝撃が響いた。


 ・・・連発、しないな。必殺技の鍵盤が存在しており、今のがまさにそれだった、か?


 音速で飛び込んで来なかったのも助かる。鍵盤を打つ瞬間を見極めるのは、厳しい。それに、連打されれば、かなり不味い。


 まだ、相手は撃たない。野牛はじりじりと詰めているのに。


 野牛の推察は、当たっていた。いきなり撃ったのは必殺鍵盤、ダイレクトフォーン。200ポイントのダメージプラス部位破壊。受ければ危なかった。ただし自身の行動制限として、1分間、移動速度が50パーセント下がる。


 7メートルまで接近した所で、野牛は走った。もう少し楽しみたいが、相手は積極的になってくれなさそうだ。こちらから行こう。


 木琴使いは一体、どんな策略を?


 実は、ただ恐れ、すくみ上がっていた。自分より強い剣道部と柔道部を造作も無く屠った敵。近寄ったら、終わる。だが、遠距離で攻撃をかけても、当たらない。不可視の攻撃を、回避された。


 動けなくなってしまっていた。


 その後、抵抗も出来ず、吹奏楽部は落ちた。


「ありがとうございました!」


「ありがとうございました!」


 礼。この時、何か特別な挨拶などは必要無い。が、野牛は握手を求めた。


 戸惑いながらも、相手も差し出して来た。


「私は野牛海苔子。あなたのような楽しいシルエットと対戦出来て、とても嬉しかった。また、お会いしましょう」


「え、いえ。私は、甘辛あまがら 真夜まよ。すごく、強いんですね」


「あなたが音楽の道を極めんとしているように、私もリアディウムを邁進まいしんしていますから」


 なるほど。真夜は納得した。自身と同じ女子が、男子2人を打ち破ったのも、1度戦いから離れてみれば痛快だった。ゲームが得意と言う事で、駆り出されて来てみたが。面白い人に会えたな。


 握手を交わすスポーツマンシップ溢れる光景は、会場の好感を誘った。


 4人目。野球部。ピッチャーか、バッターか。


オ!


 いや、ソフトボール部か。投げ方が違う。しかも、良く曲がる。変幻自在の変化球と言う奴だな。


 驚くべき事に、駆けるミノテリオンを追尾して来る!


 こいつは、研究して来たようだな。斧で叩き割るには小さ過ぎる。斧を持った右手は温存、左手で砕く!100ポイントのダメージプラス左腕に1回の攻撃判定。必殺技でなかったのは好都合。


 では、何を隠し持っている?出してみるが良いさ。


 ピッチャーは、先程投げたボールとは別の種類、赤い玉を取り出し投げた!投げ方は同じ、ソフトボール特有の、下から投げるフォームだ。


 赤からイメージ出来るのは、火気。爆発性のボール?触れない方が良いが、誘引されるんだったな。どうする!


 やはり、強敵は楽しい!


 千畳海苔が使えなくなったと言え、火力で負ける気は無いぞ!


オオ!!


 敵ボールの速度は、恐らく時速200キロ付近。ミノテリオンでは残念ながら躱せない。だから、左腕で受ける!部位破壊された!だが、承知の上よお!!


 右腕の斧を問題無く、全開で振るう!距離は、既に近接戦!私の領域だ!!!


 ピッチャーは、しかしバッターでも在り得る。バットを出現させ振るう。が。


 バットで殴り合った経験は無いようだな。素晴らしい事だぞ。


 斬り合い、にもならず、片手のみでミノテリオンは、ソフトボール部員を叩き切った。


 ちょっと、申し訳無い気持ちになるよな。まともに別活動に励んでいる生徒を、自分の領分でいたぶるのは。ま、これも巡り合わせだ。


 しかし。


「リアディウムを、おれは全然知らなかったんだな。あんなに面白い奴らがいっぱい居るなんて」


「私だって。世界ランカーには、無茶苦茶なドレスがいっぱい有るのは知ってた。でも、同じ高校生でも、こんなにバリエーション豊かだったなんて」


 己業も、もう夢中で技四王と砕落の試合を見ていた。


 リアディウムは、データを公式に送り認められれば、全てが叶う。伊達にトライアスロンを企画していないと言う事だ。


 ラスト。バレー部か。ボールを見て判断したが、今までの部員で、リアディウムらしかったのは、最初の剣道部が用いた騎士だけだ。こいつら、防御を捨てているのか?まあ、見た目からはパラメータの割り振りは分からない。


 開始!


 と、同時に敵は飛んだ!


バァシィ!


 良いスパイクサーブだ!音速が見えているな。


 だが、打つモーションが見えている以上、ミノテリオンの瞬発力でどうとでもなる。


 打ち込んだボールは回収せず、そのまま新たなボールを発生させる・・。


 なるほど。野牛は、少し理解出来た。奴らは、防御パラメータを発生させず、得物の補給に専念しているのか。部位破壊されるはずの武器が、どんどん新しく出現など、許されないレベルのバランス崩壊っぷり。それを可能とするため、わざと防御を捨てているのだ。だから、総合ステータスとしてのバランスは取れていると言うわけだ。


 本当に、勉強になるな。有り難い。感謝しよう!礼として、私の攻撃を受け取ってくれ!!


イィ、オ!


 ぬう!


 再び飛んだバレー部。だが、そのままでは、ミノテリオンの斬撃が間に合ったはず。それを防ぐため、完全に飛び終える前、中空に在った状態にて体をひねり、遠心力を発生。上に向かうジャンプのパワーを横なぎに出力。回転サーブが来た。


 何とか弾いたが。斧に1回の攻撃判定。更に、球威によって、ミノテリオンの前進の勢いを止められた。


 その意味、戦草寺と己業には分かる。


 こいつ。強い。


 突発的な技だったはず。完全に力を込めたのでなく、つなぎの技で、重量級のミノテリオンの足を止めたか。


オ オ


 野牛は、本気にさせられた。


ゴ!!


 今度こそ。回避は一切考えない!潰す!!!


「あー。完全に火ぃ点いちゃったな」


「うん。でも、楽しそう」


「確かに。良い相手に恵まれた。1回戦は、幸運だ」


 最早、相手もボールを上に投げる動作を取れなくなった。顔の前に位置させたボールを、そのまま回転打ちで飛ばす。


 弾く?必要無い。本気のミノテリオンの踏み込みを止められる者など、おらん!!


 バレー部は、接近されてなお、ボールを盾にして、形勢打破を諦めなかったが。いくら何でも、焼け石に水だ。


 ダメージを食いつつも接近に成功した以上、ミノテリオンの勝利以外の結末は、無い。


「ありがとうございました!」


「ありがとうございました!」


 野牛の5人抜きで、技四王は砕落を破った。


 恐ろしく楽しく、素晴らしい戦いだったが、彼女らは、もう少しリアディウムを積む必要が有るようだ。この世界では、我らに一日いちじつちょうが有る。


 勝利した学校は、続けて2戦目に移行する。


 青森県林密高校。特に有名な学校ではないはずだが。砕落のように、ワクワクする戦いになるやも知れぬ。


「私が行きます」


「頼む」


 試合ごとの休憩時間は短い。1回戦の最中は存在しないし、2回戦に移る際も、移動時間のための10分間しかない。


 これは選手の精神的疲労を考慮しての事だ。プロテクションを利用している以上、肉体疲労は存在し得ない。だが、集中力は、間違い無く必要となる。そして人間の集中力は、長時間持たない。短期決戦こそ至高。それに、生徒達の精神を緊張させっぱなしと言うのも、いかがなものか。そんなわけで、リアディウムに於いては、可能な限りの短時間での決着を推奨している。


 だから、インターバルはチーム自身で取らせる。今回の場合、野牛の次に戦草寺、更に野牛と言った具合に。


 野牛と戦草寺の戦術は、既に地方大会で見せている。今更隠し立てする必要は無い。己業も、もう隠さなくて良いが、相手への心理的衝撃を期待し、可能な限り温存する。相手方とすれば、使い物になる人間を1度も出さないなどとは思えない。隠すより、実戦経験を積ませた方が良い。そして、それは正しい。己業でなければ。


 己業には理解不能な実戦経験が有る。野牛も、あまり聞きたくないので、詳しく聞いていないのだが。


 林密は、ミリタリールック?緑色の迷彩服。銃器、爆発物、ナイフ辺りが得物だろうか。


 とりあえず、接近して仕留めるか。


 開始!


 薙刀を構え、前進。相手の手の内が分からない以上、こちらの最有効距離、中距離を保つのがベスト。


 敵は、こちらに合わせて後退しつつ、懐から何かを投げた。


ポン、ポン、ポン


 いきなり手榴弾か。手加減の欠片も無い。


 さらっとお札で処理した戦草寺は、もう一度接近を試みる。


 と。


 またしても敵は、何かを投げた。それは、敵味方の中間地点に置かれた。


 ポンポン技を撃ってくるな。地雷か。目に見えるが、乱戦になれば踏んでしまう。処理しておこう。


 またしても、お札で巻き付け起爆。しかも、相手側に近付け。敵は手榴弾、地雷合わせて、350ポイントのダメージ、両腕に1回ずつ、両足に2回の攻撃判定。よほど、兵器に愛着が有るのか?何も、現実と同じ設定にする必要は無いのに。しかし、自分が巻き込まれるタイプの技か・・。勉強になる。あれなら、恐らく他の条件は軽くて済むはずだ。己業の貫吼のように。


 その後出てきたナイフを薙刀であっさり完封し、勝利。


 強くはなかったが、面白い。お札を手足同然に動かせる戦草寺には通用しなかったが、見るべきものは有った。


 次も迷彩服。今度は、何が出る?


 戦草寺のゴーグルで隠されている顔。だが、見える口元は、確かに笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ