いよいよ。
暑い。8月の太陽は、たまらねえ。グレートアトランティスから帰ったばかりだから、余計に暑く感じる。
そして、夏休みの宿題を終わらせる事に、毎日を費やしてしまった。1日1時間、稽古とリアディウムの訓練後、みっちり。
「己業。己業・・」
当然、眠くもなる。例によって、雪尽に勉強を見てもらっていたが、量が多い。毎日コツコツ消化していなければ、恐らく投げる。
エアコンを切り、己業を横たえる。自分は、ベッドに。いつもの休日だ。
己業は、プロになる。リアディウム方面へ進む。
自分は?
雪尽は、学生としての分を全うしていた。授業で習う事は、努力して来た。だが、未知の領域を得手とはしていない。
僕は、何をするんだろう。
もし己業が稼げなくなっても、僕が養ってあげられれば良い。でも、どうやって。何をして。
何をしたいんだろう。
何雪雪尽は、満たされた人生を送っていると言って良い。毎日そこそこ時間を使う事が有って、大好きな恋人が居て、その恋人の家族とも家族ぐるみのお付き合いが出来ている。何一つ不満は無い。
しかし、不安だけは有る。己業が居る。己業だけは、ずっと自分と一緒に居るだろう。だが、それ以外が分からない。
なまじ頭の良い雪尽は、考えて答えの出ないタイプの問いが苦手だった。
「オオ!!」
「フッ!」
踏み込むミノテリオン、それを迎撃する泉鬼。どちらも、読み合いの結果飛び込んだ。千殺万札を撒く、それを確信しつつ大振りで何もかも叩き壊す!
無論、戦草寺も、それを確信している。ぶつかり合いなら、ミノテリオン絶対有利。薙刀を真っ直ぐ構える。斧のラインを見極め、ずらす。斧の振りは、泉鬼よりは速くない。同じタイミングで発動させ、経路を読み負けなければ、ずらせる!千殺万札は、ミノテリオンの行動を阻害するためではない、薙刀を構えた事を悟らせないためだ。
・・来ない!外された!!
飛んでいた!!!
千殺万札の効果範囲を抜け、そして、全力。何もかも、壊す。
千畳海苔。ミノテリオンの代名詞的必殺技。火力に割り振ったパラメータを全て必殺技に乗せた、これを撃つためだけのシルエットと言っても良い技。
上空から上段、振り下ろす!!
・・・カウンター!!
爆裂する皮鎧、そのオリジナルは、こちら!!
巫女服を鋭化、お札で引っ張らせ結界と成す。近距離なら串刺しだ。
反応したか!流石だ!!だが、構わない!!!当たれば勝てる!!!
「おお・・」
必殺技同士の激突。己業は初めて見た。その前の読み合いは、己業でもおぼろげにしか分からない。試合後、確認しよう。
千畳海苔の威力は殺がれた。泉鬼は生き残っている。それでも、防御のために前に出した左腕が破壊されている。薙刀は、無事か。対するミノテリオンは、斧を失っている。更に両手両足に攻撃判定。全力で突っ込んだために、多段判定を食らったな。
武器を失ったミノテリオンの方が突っ込む!泉鬼には、薙刀が健在なのに。
冷静に構えれば、勝てる。つまり。負ける。
目の前の先輩は、勝ち目も無く突っ込んで来る馬鹿ではない。必ず勝機を見ている。なら、私は。丁寧にお相手しよう。
下がった。臆病とすら言える態度。戦草寺は、武器を持たないミノテリオンを相手に、距離を取り、お札を撒き続ける。時折薙刀を繰り出し、削り続ける。
参ったな。距離を取られては、万が一の勝機も消える。
楽しいなあ!
オ!
走る!お札を突っ切り、薙刀を直撃で受けても!走る!!
詰められた。もう、千刺万観は撃てない。1度きりのカウンターを最高のタイミングで発動させられた。それを収穫とするか。
片腕では、格闘戦で勝てない。ミノテリオンのパワーと相まって、泉鬼は敗れた。
勝因は、泉鬼とミノテリオンの違いを、野牛が理解していた事。小回りの利く泉鬼だが、どうしても、引き足は前方へのダッシュより遅くなる。更に、ミノテリオンは全重量をかけた走りだった。そのおかげで、薙刀の直撃は食ったが、転ばされる事無く、前進出来た。重量級の取り得だな。
それでも、ギリギリ。もう一撃、どこかの部位に食らっていれば、部位破壊されている。これもまた、食らう部位を散らした野牛の巧さか。戦草寺が弱いのではない。野牛が強かった。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「2人共お疲れ様です」
全国大会前の部活動の、締めだ。明日、全国大会会場に向かう。そして、明後日1日で決着が付くのだ。
部活は昼前までで終わらせて、午後からは完全に休む。明日を休日と当て込むのは、無理だろう。移動で恐らく疲労する。
「明日は、我々は忙しくないが、忘れ物はするなよ。気分を落ち込ませて戦いに挑むのは、遠慮したい」
「はい」
「大丈夫ですよ。おれには、雪尽が居ますから」
旅行で、雪尽は、部の人間と面識を持った。確かに、己業だけなら、野牛か戦草寺が、家に向かい点検した方が良いかも知れないが。雪尽が居るなら大丈夫だ。
「まあ、己業が居る以上、楽勝だがな」
「ふふ」
「はは」
無論、そのような事、誰も1ミリ足りとて思っていない。己業が居るからこそ己業を出さずに勝ちたいとは思っている。プロに勝った男が居るから、そいつにしがみついてたら勝てました?論外だ。出来れば、己業を出さないようにしたい。そこまで甘くはないにしても。
真意は、己業が居るから、発奮出来る。だ。野牛も戦草寺も、自負が強くて、好きだ。
「先輩も戦草寺も、大好きです。勝ちましょうね」
「ああ」
「うん」
各々の思いは有れど、この大会を一丸となって勝利を目指す事だけは、一致していた。
勝つ!
「こええ・・」
「己業って、微妙に臆病なとこ有るよね」
自宅。1泊分の荷造りをした己業は、雪尽にチェックをしてもらっていた。
己業は、ストレスで弱っていた。昼ご飯のお代わりを1杯しか出来ていない。
いざ戦いが始まってしまえば、戦うだけに全てを使えるのだが、この待ち時間が怖い。
「一緒に来ない?」
「僕は料理部だもの」
半分は、本気で言ってみたが。
始業も威業も昼寝の時間。静かな家。まるで、2人きりのようだ。
「勝って帰って来たら、お祝いしよう。皆で。負けたって、残念会すれば良いし。己業は、己業。精一杯やって来たら、それで良いよ」
雪尽のぬくもりが。真夏だと言うのに、心地良い。
「この春始めて、何となく出来る気になってるけど。まだ、全然自信なんて、ねえ。何かのきっかけで、どうにもならなくなるんじゃないかって」
リアディウムを、己業は積み重ねていない。いつだって自信満々に見えるのは、それが己の領域と認識出来てればこそ。触れ合っていれば、そこは戦いの、自分の世界。だが、こうやって離れると、客観視してしまう。おれは、未熟者でしかない。先輩や、戦草寺の足手まといにならずに済むだろうか。
実績から言うと、舐めた感覚だが。己業は、経験の浅さを、地力でカバー出来る世界にしか居ない。泉鬼のお札のような、リアディウムならではの強さを持っていない。それもまた、己業の臆病さの原因の1つだった。全国まで4ヶ月の状態で、何でもかんでもやらせるのは何も出来ないプレイヤーを作ってしまうと野牛は懸念し、己業も同意だった。初めは、簡単な事から。何だってそうだ。そして。己業は、まだその段階なのだ。今すぐ、絶対的な自信を持てと言う方が無茶だ。
「明日、見送りに来るね」
「ああ。朝8時学校前集合だから、7時半くらいに来てくれ」
「ギリギリに行くつもりなんだ」
「だって、待ってたら、こええじゃん」
「全く」
怯える己業を慰撫するのも、幸せではあるけれど。
まさか。行けると、思っていなかった。
自分は、そこそこだとは思っていた。学業も運動も、優秀とまで言えなくても、まあまあ。そんなものなのだろうと思っていた。これからも、そうなんだろうなと。
高校に入り。2年になって部活を作って。怪物に出会った。後輩が連れて来た数合わせ、のはずが、主力になった。
カルチャーショックと言うか、知らない世界を知った。この時代に、いや、昔でもそうだけれど、あんな無茶苦茶な生き物が居るだなんて。恐竜か、奴は。いわく、ライオンは実際には、そんなでもない。常人でも槍が有れば勝てます。やばいのは、象、それに水獣の類、あーいうのは、武器有りでも勝負は挑まない方が良いですよ・・・。普通に、笑い話ではなく、世間話として言われてしまった。6月は雨多いですねー、とかそんな感じで。
下級生、年下に、あんなモノが居たとは。戦草寺もたいがい、ヘンだったけど。ケタが違う。同じ人間と思えん。
口説かれたし。少し、正直、照れた。先生と戦草寺を同時に口説いていたどうしようもない男でも、惚れられたのは、照れる。
現在、付き合ってるのは戦草寺だけ。泊まる間柄は、雪尽だけ。これも、普通に言われた。
本当に、同じ人間とは思えない。大丈夫なのか、あいつは。強さは関係無く、心配だから、見ていたくなる。
恋だったらロマンチックだったがなあ。残念ながら、庇護欲だ。
全国大会。初めての経験だが。私自身を出すに、不足無し。
以無己業。面白い男と会えた。この先どうなるか分からないが、付き合っていればもっと面白くなるかも知れない。
強くなりたい。先輩もそう思っているだろう。高知大会の最中、明らかに私は強くなり続けた。あれをピークに達したとも言えるが。そんな事は無い。なぜなら、私が強くなると思っているからだ。
戦草寺は、起きていれば戦術を考え、眠りに付く前は動きのイメージをし。全てをリアディウムに注ぎ込んでいた。
なぜ?知らない。中学の時は、ここまでやっていなかった。正確には、高校1年1学期2日目までは。
目標に出会った。私も、あんな風になりたい。あれだけの力が有れば、何でも出来るだろう。私にだって。
己業君のシルエットを構築出来たのも、良い立場だ。チームメイトでシルエット製作者。悪くない肩書き。
この、凡人が成り上がるには、悪くない。精々利用させてもらおう。そして、利用した借りは、私の栄光の人生で返そう。
何はともあれ、全員が初の舞台。何もかもが上手く行くとは限らない。だが、やれるだけやって来い技四王高校リアディウム部!




