ムミョウとラストコア。
己業とアシッドは握手を交わす。
「強いね」
「まだまだですよ」
「まだ、奥の手が有る?」
「いえ。アシッドさんに見せたのが、おれの全力ですよ」
穏やかな笑み。底の知れない男だ。アシッドは、密かに畏敬の念を抱いた。
実際。可愛いアシッドの前で、良い格好をしてみただけなのだが。
己業の実力を先に見せていたのが幸いした。
会場には、ざわめきが漂う。流石に、デイズ・グロリアスを倒す事の意味は、今までとは違う。
リアディウムの、エリートプレイヤー。優勝者が、素人に、負けた。
野牛、戦草寺。部員、仲間である2人でさえ、完璧に良い感情のみを持つ、と言うのは難しかった。自分達から、遠く、憧れる事しか出来ない存在が、呼吸を乱す暇も無く瞬殺された。相手になってない。
リアディウムへの、憧憬が。壊れる。
「アシッド。交代だ」
「ん?」
エンドア?なんで?しかも、怒ってる?
ま、ラストコアの特性なら。相性バッチリかな。
パン
ハイタッチして交代。小さいアシッドと、身長198センチのエンドアだと、中々面白い光景だ。
でかい。父、鬼業より大きい。その肉体が余す事無く鍛えられている。装備は・・・?なんだ?
ボウリングの玉を割って、体に貼り付けたような。丸鎧?まさか、デイズ・グロリアスのメンバーが、見た目だけでも有るまい。楽しもう。初心者の己業でさえ、彼女らの名前は聞いた事が有るのだ。
言葉をつらつら並べた所で、意味は無い。
勝負で語るのみ。
眼光鋭いエンドアに。己業も、その気になった。
なんだか分からんけど、すげえやる気だ。流石。
「2試合目!まさかまさかのエンドア・ワアルド、不動の守護神が前に出て来ました!!鉄壁と新星。勝つのは、どちらの益荒男か!」
試合開始と同時に己業は突っかける。アシッド戦と同じだ。
武器を持っていない。おれと同じ、もしくは鎧そのものに何か仕掛けが有る。
発動前に倒せば良い!
今度は、エンドアの頭上から急襲。今まで見せていないパターン。即応は、不可能。
見事、上空から反転しての蹴りが炸裂。
だが。
「む」
エンドアは、攻撃を受けた事に気付かなかった。はっきり言って、エンドアの動体視力では、己業を捉えられない。消えたようにしか見えなかった。
それでも、エンドアのダメージは100ポイント。己業は、200ポイント。
「己業の速度でも、抜けないのか」
「流石は、エンドア・ワアルド」
2人は知っている。何故、エンドアが大将の座を不動なのか。それは、エンドアを抜ける者が、世界に数名しか居ないからだ。
こちらのダメージ量が大きい。同じ攻撃をすると、負ける。なら、
一旦取った数十メートルの距離を一瞬で詰め、背後に回る。そして、気を放つ。
「ぬうっ」
効いた!押し切る!
銃でも弓でもない。この攻撃は・・。
エンドアは、守っては勝てないと判断。攻撃に移行する。
きゅるり
可愛い音だが。丸鎧が、変化した。こんな事も可能なのか。
そして、突進!
威業は、ここでエンドアをザコだと認識した。スピードが違い過ぎる。先程のように、兄をカウンターで迎え撃つ以外の選択肢は無いだろうに。気をガード出来ないからと、勝負を捨てたか。
変化した丸鎧は、ハリネズミを連想させる。おそらく己業の攻撃と言えど、直接攻撃では、反動が来るのだろう。それを、無意識下でも発動させられる。先程の己業へのダメージは、それか。更に速度ボーナスが発生してさえ、100ポイントしか与えられなかった。高火力の、ムミョウが。
まさか、自滅するだけの突進では有り得ない。何か、有る。
己業は、距離を取りつつ、回るのみ。このまま10秒が経過すれば、戦闘の意思無しとして、己業の敗北となる。
警戒している。ただの馬鹿ではないらしい。ふん。あの正体不明の攻撃を受け続けると、負ける。このおれが、動かされるとは。
エンドア・ワアルド。ブラジル大会優勝。南米選手権優勝。インドネシアオリンピック準優勝。世界ランク6位の男だ。
敵の手が分からん。こんなの、現実の格闘戦では無かった。
・・・・楽し過ぎる。
にいい
己業とエンドアの表情は、常時カメラに映っていた。もちろん、その己業の獰猛な笑みも。
やっても、死なない。おれが、本気で打っても。
ゴ!!
以無己業。今日、本気で大地を蹴る。時速800キロは出たか。それでも全く空気抵抗を感じない。プロテクション様様だな。
この速さ。おれとムミョウが、一体化している。明らかに、現実のおれの倍以上強い。戦草寺と部長、リアディウムがくれた力。今なら、父とだって五分に戦える気がする。・・・無論、鬼業がムミョウを使ってしまうと、2人の差は、現実と同じ。今の強さは、リアディウム限定。つい、それを忘れてしまいそうになる。人の事は言えない。
観客の中でそれを認識出来た人間は居ない。己業が全開で打ち込んだ拳が届こうとした瞬間、エンドアの鎧が更に鋭利に尖り伸び、己業の全身を貫く光景を。
リアディウムでなければ、死んでいた。父に、稽古を倍にされる。
でも。良い。今なら、雪尽や戦草寺との逢引きの時間を減らされても。強者と戦いたい気分だ。
己業、150ポイントのダメージ。エンドア、100ポイント。己業は右腕の部位破壊寸前、エンドアは防御力の半分を消失。
残り決着量、己業、650ポイント。エンドアは700ポイント。数字だけ見れば、エンドア有利。なれど。
出来れば、足を潰したかった。おれのリミットコアでも、片腕を獲るので精一杯か。奴の拳圧で、おれの体が後退させられた?それで早くに攻撃範囲を抜け、攻撃回数とダメージ量が減少したのか。
リミットコア。野牛の爆裂する皮鎧と原理は同じ。変化するラストコアの丸鎧。その強固な防御力をそのまま攻撃力に転換する必殺技。戦闘終了まで50パーセントの防御力喪失、完全にカウンターでのみ発動可能。そして、攻撃面は、攻撃された方向のみ。方向調整などは効かない。特色としては、無数のトゲが集中して突き立ったなら、その回数分の攻撃カウントとなる。恐ろしい威力だ。更に、3回まで撃てる。2回目は75パーセントの減少、3回目は100。即ち、防御力ゼロ。撃つたび装甲が減る技ゆえ、防御装甲が無くなるまでだ。
だが。必殺技である以上、必ず重い。
こんな攻撃を連発出来るなら、こいつは、最初から突っかけて来る。次撃は無い!!
この時、己業の推測は少し間違っている。より確実に勝つ方法としての、待ち。それが通じないから、エンドアは突っ込んで来たのだから。
だが、判断は正しい。
今度こそ、己業が跳んだ!
上空から、気、いや、必殺技!
「決まった」
「貫吼」
貫吼。気による必殺技。己業の威力を高め、速度を殺さない事を前提に組み上げた、完全オーダーメイドのスキル。己業の気は、中距離からなら何時でも撃てる。そして防御させる部位も、ある程度選べる。なら、全身への攻撃判定を発生させれば、便利ですよねえ・・。
流石は戦草寺。400ポイントのダメージ、プラス、上半身全部位への攻撃判定。
貫吼は、両の手を正面で組み、掌打の形を取る事が発動条件。効果範囲の全部位へ攻撃判定を発生させる代わりに、ムミョウの防御力を30秒間マイナス100パーセントにする。どう言う状況か、具体的に説明すると、泉鬼の薙刀による通常攻撃1発で、400ポイント削られる状態になる。普通のシルエットの力で、3回攻撃を受けるとゲームオーバー。
己業でなければ、使えない。己業だから、ぴったりの。最強シルエット。
後は、距離を保ちつつ、気を撃ちまくり勝利。部位破壊も、先程の貫吼で容易になった。
終わってみれば、あっけないものだ。
「おれの、負けだ。負けるつもりなど無く、本気で戦ったのだがな」
「おれだって、そうですよ。でも、すごいびびりましたよ。なんで攻撃を受けたのか。攻撃をしかけたおれのがダメージ有るって、何?って。怖かったです」
にこにこ笑顔で言う己業に、エンドアは、少々見方を変えた。
こいつ、オカシイ。なら、しょうがない。悪気は無いのだろう。
「仇討ちは、仲間にしてもらう事にして。また会おう」
「はい。また、お願いします」
握手。やはりエンドアの手は、大きく、強かった。




