デイズ・グロリアス。
己業達の前のチームは敗北した。素人だったようで、恐らく必殺技の概念も理解していなかった。まあ、楽しく遊べていたようなので、問題は無い。楽しくなければ、問題だ。遊びなのだから。
「では!次なる挑戦者は、チーム技四王!同じ街の出身、4名による仲良しチームです!」
各会場のスタッフは、それなりに張り切ってくれる。
さて。問題は、順番だ。予選の時と同じで行くか、変えるか。
己業の要望で、最初から全力で行く事になった。そこそこ学べそうなのが居れば、順番入れ替えで。
無いとは思うが。勝ちきるまでに時間切れになって、景品がもらえないと、困る。
「よろしくお願いします!」
3チームを、待機時間含め、6分で下した。
「後、2チーム。そんな厳しくもないな。ありがたい」
「もう・・。何と言えば良いのか」
「すごいですね」
経験者達は、ほけっとしていた。参考にならん。速過ぎる、強過ぎる。
最初は、ヴィジョンでの戦いとの違いを学ぶつもりだった。自分達も初体験の、ドレスを着用しての戦い。いかな己業と言えど、戸惑いつつの初戦だろう。だが、それで良い。今日は、あくまで旅行の一環なのだから。
・・・と、思っていた自分は、まだまだ常識人だった。本当に、己業を地方予選に出さなくて良かった。自分達の実戦修練が一切積めなかった所だ。
威業だけは、真剣に兄の動きを見ていた。技を盗み取り、業を覚えるために。威業が、いつかたどり着く領域を見ていた。
さて。主催者側としては、このまま勝たせても構わない。だが、ワンパターンな試合は、観客が飽きる。あまりにも強過ぎて、緊張感の欠片も無い雰囲気。いけない。と言うわけで。
「さあ!次はどう転ぶか分かりません!チーム・ヘビーアーマー!」
プロ5名による、ちょっと一般客には当てられないチームだ。こんな、こう着状態を打破するための、とっておき。
己業は、ドレスをまとう5人を観察した。
「また、おれで良いですか?」
「ん?」
「土佐女王と、さしたるレベル差が無いように見えます。部長や戦草寺が出るまでもない」
「ふむ・・・」
野牛と戦草寺は、ヘビーアーマー達を知らない。重鎧タイプのプレイヤーなど、いくらでも居るのだ。その中でも、トップクラスや活躍目覚しい者の名は流石に覚えているが。例えば、リボンの騎士団などが有名だ。美麗な男装の騎士達は、男女問わず人気が高い。実力も折り紙つき。ゆえに、名を知らないヘビーアーマー達に、然程の興味も持たなかった。
目の前で見た己業の強さに、強者の感覚が完全に麻痺していたのが最大の理由だが。野牛にその自覚は無い。
狂ったハイペースで試合を消化している。ひょっとしたら、ヴィレッジに間に合うかも知れない。なら、まあ。
「私は構いません。予選で、己業君は戦えていない。勝負勘、実戦の間合いを覚える事も必要だと思います」
「確かに。己業、大口を叩いたのだ。2分以内に決めて来い」
「了解」
合計試合時間は、59秒だった。
とりあえず、スタッフはスカウトを呼ぶしか出来なかった。これほどの逸材を、放っておくわけにも行かない。
そして。観客の間の雰囲気は、勝負の緊張感ではなく。伝説の幕開けを垣間見る、ワクワク。今、全くの無名の超新星の誕生を、自分達は見ているのかも知れない。人が人を呼び、ちょっと混雑し始めた。皆、己業を見ている。
チーム・ヘビーアーマーは、顔を潰された形だが。
とりあえず、全員、自分達の名刺を己業に渡していた。こいつ、必ず優勝争いに顔を見せるレベルになる。だが、その前。プロになりたて、もしくはなって間もない時期。不安も有ろう。相談してくれ。報酬は、「おれ」の名を出すだけで良い。
将来のスターとのつながりは、得がたい報酬だ。負けた事に、何も思わないでもないが。知明と戦った時も、似たようなものだった。慣れちゃったなあ・・・。
4チームを1人で抜き、待機時間含め、20人を10分で倒した。
雲技知明以来の逸材・・?観客は、己業に写真撮影を依頼し始めた。5チーム目が、まだ決まっていないので、時間の余裕は有った。
スタッフは、この展開を最大限に生かす事に決めた。この選手が、リアディウムをずっと続けるかは分からない。まだ高校生だ。色々な進路があるだろう。それでも、活かせるチャンスは、生かす。
観客らと普通に撮影会を行う己業。スタッフの好意により、スタジオを使わせてもらった。そして、10分後。用意が出来たと呼ばれる。
「お待たせしました!!ラストチーム!チーム・デイズ・グロリアス!」
おおおお!
観衆が、一気に沸いた。そして、野牛と戦草寺は、驚いた。
バカな。何故、こんな所に。
「デイズ・グロリアス!ご存知の方も多いでしょう!プロ優勝者で組み合わされた、ゴールデンチーィィィッィッム!!!」
プロの大会は、各地で開催されている。日本でも、年に数回。その全世界中の大会のいずれかで優勝経験の有る人間で構成されたチーム。それが、デイズ・グロリアス。素人を相手取って良いチームではないはずだが。
公式スタッフは、管理センターは、己業を本気でスカウトする事に決めた。己業が勝てば、堂々とおおっぴらに宣伝までしてスカウト。負けても、相手があまりにも悪過ぎた、仕方が無い、と言う事で、やはり堂々と景品を贈る。そしてその事を借りに思わせる。ゆっくり、こちら側に引き込む。
管理センターは、監視カメラの映像から、己業の視線が、景品と参加賞をうろうろしている事を確認している。両方渡して、完全にこちらの意思を見せる。リアディウムに取って、価値有る少年。可能な限りの手段を用いて引き入れたい。
デイズ・グロリアスは、本来、明日のエキジビションマッチのために呼ばれていたのだ。戦う相手も、普通にプロトップクラスを予定されていた。デイズ・グロリアスは、優良チームだが、最強ではない。上には上が居る。その前哨戦とするつもりだったが。
「どうする?」
「私は名刺を用意しました」
「あたしも」
「おれも」
「ククク・・・。私も」
「そうか。私も、もう何時でも取り出せるようにしてた」
ヘビーアーマーの立ち回りは上手かった。自分達も真似させてもらおう。
なんで、あんな怪物が素人でやってるの?
デイズ・グロリアスの総意であった。声をかけられてから、ちらりと戦闘風景を見てみたが。勝てる気がしねえ。
それでも、嫌な気持ちを抱かなくて済むのは、前例が有るからだ。雲技知明。現在もなお、単独でプロリーグに出場、それでいて9割以上の勝率を誇る、いかんともしがたい化け物。あれの類だろう、目の前の青年は。仕方無い。時には、こんな事も有るさ。
「まあ・・」
息を吐く。大きく、吐き、吸う。
「しょうが、ねえさ!先輩として、教えてやろうかい!!」
先鋒、アシッド・アリオラ。カナダ、アメリカ合同大会である、五大湖大会での優勝者。使用シルエットは、ハンマーキング。名前から、一撃必殺をイメージしてしまうが、そうでもない。小刻みに削り、隙を突いての必殺技を得意とする、リーチの短い泉鬼のようなシルエットだ。
「お願いします!」
強い。戦草寺と野牛にもやらせたい程の、強い雰囲気。だが、おれをご指名のようだ。
全部、もらおう。
完全にスイッチの入った己業を見て、野牛は諦めた。戦草寺は勉強の機会を得たと思った。威業は、ますます兄を好きになった。
今日。以無 己業の名前が、人々の意識に現れ始めた。
リングの広さは、50かける50メートル。ヴィジョン内の道場と、全く同じだ。こんな物が、このブルー・ユニオンには8つも有る。流石に、学校の空き教室を用いている部室とは、比べ物にならない。
その中で対峙する己業とアシッド。
眼鏡をかけて、戦草寺より更に小柄。身長150センチ、おそらくないだろう。ショートカットの髪に、ミニスカート。色々短い。
その身を、金属鎧が包み込む。そして、得物は小槌。
己業もまた、名前を聞いた時、大金槌を想起したので意外だった。
「手加減は、しなくて良いよ」
「そんな舐めた真似はしませんよ」
己業の姿が、消えた。
来た!戦闘を見ていたが、接触まで1秒半の間が有る!おそらく、何処から来るかの幻惑のためだ。その間に、カウンターを!・・
「勝者、以無己業!」
ショートハンマーを収めつつ、全周囲にカウンターを張る、つもりだったアシッドの右後方、視野の外から、己業の強襲。
1秒の半分の時間。それで己業はアシッドに接触、必殺技を1発、通常攻撃を4撃、ほぼ同時発動。決着量に換算して、1300ポイント削り倒した。
こいつ、ヘビーアーマーを相手にしていた時すら、手加減してやがった!!
アシッドのチームメイトは、まず己業の度胸を賞賛した。初対戦の相手に、躊躇なく突っ込んだ。カウンターが発動していたら、どうする。実に潔い。
だが。それだけでは、済ませない男も居る。
「次はおれが行く」
「え」
言い出したのは、エンドア・ワアルド。シルエットは、ラストコア。いつもなら、大将として最終盤まで不動、なのだが。
確かに。知明並みの怪物。それでも。
「あのガキは、舐めている。許せん」
「まあ・・・がんばって来てください」
メンバーの軽い応援を背に。
怒りの男が立つ。




