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新しい世界。

 都合、5日目。今日から各自自由行動。なぜなら。


「今日から、本気で行く」


「はい」


「はい!」


「はーい!」


 ヴィジョン対戦を、武者修行。この地は、リアディウムの本場。大きな会場に行けば、あるいはフリーの舞台に行けば、プロのデータと戦える。


 今日の予定表によると、「ア・リトル・ヴィレッジ」にて自由対戦、5対5によるプロの優勝チームのデータと戦えるらしい。当然のように、順番待ちが発生するだろうが。これは、絶対に出たい。次に、同じエリアで、プロのベストシルエットとの自由対戦。これも、是非。


 そして、「ブルー・ユニオン」にて、実際にリアディウムで戦う、ヴィジョンではない試合。


「ブルー・ユニオンに出れば、ヴィレッジには行けなくなると思って良い。おそらく、間に合わない」


「どちらかだけ、ですね」


 高校全国大会を本気で目指すのであれば、プロしかない。今回の挑戦の機会を逃す手はない。


 だが、これからもリアディウムに触れたい、ずっと続けて行きたいなら、本物を体験しても良い。ヴィジョンの世界に留まらない、本物のプロの世界。


「せ、先輩と戦草寺は、どうしたいですかね?」


 弱気、いや、ごまをする己業。


「私は。本気で戦いたい」


 掛け値無しの本音。本番前に、全力全開でブチ壊れておきたい。そして、全国大会では、力み無しの本気を出せるようにしたい。


「私は、両方です。でも、あえてと言うなら、本物のリアディウムを」


 正直、戦草寺の感覚では、プロ優勝クラスと戦っても瞬殺されるだけで、実りは少ない。それよりも、自分達より、少し上のランク。プロで、まあまあ・・。失礼だが、その辺を狙うのが得策と思っていた。


「なるほど!五分五分!ならば、どちらでも良し、いえ、どう転んでもハッピーエンド!!」


「はっきり言うんだ」


「景品が欲しいのでブルー・ユニオンに行きたいです」


「なるほど」


 様子がむやみに可笑しかったのは、そのためか。だが、隠し立てする必要も無いだろうに。


「あーと。すみません」


「謝る必要は全く無い。今回の機会は、逃したくない。だが、これは、君の妹と、君がくれたチャンス。君達が、メインだ。何恥じる必要も無く、堂々としていてくれ。でなければ、私達が恥知らずになってしまう」


 恩を仇で返すとは、この事だ。


 ・・だから、言いたくなかった。先輩や戦草寺なら、必ず遠慮してくれる。おれは、全員で楽しみたい。威業の希望も、皆の希望も叶えば良いのに。そうして、おれはモテる男になる!!


「その。ブルー・ユニオンの会場でも、普通にプロも参加するんじゃないんですか?もちろん、トップクラスは出ないでしょうけど」


 出場制限は、確か無かった。素人玄人問わなかったような気がする。


「そうなのか?」


 野牛は、完全に脳をヴィレッジに持って行っていた。


「確かめて来ます!」


 己業が駆けた。人に当たらないように、建物の壁を走る。


「この光景を見慣れた自分が嫌だ」


「私は、そんなに」


 2人は、部員で一番学校に近い所に住んでいる己業の家に遊びに行った事が有る。土曜日だったか日曜日だったか、とにかく休日だ。ヴィジョンと現実の違いを知る、と言う題目で。己業の強さの秘訣を学びに行った。


 そして、己業達の修行風景を見たのだ。別段、普段は秘密にしていないので、友達が見ているぐらい問題無い。現実に、実際に気を撃つ所も見た。それは、リアディウムの強さも納得させられる。大概たいがい、人間じゃなかった。


 威業は、兄を見送りつつ、2人にお辞儀をしてみせた。


「どうした?」


 野牛が聞く。威業の印象は、小さい己業。まさか、謙虚なわけがない。


「ぼくが、お兄ちゃんに、犬が欲しいって言ったから」


「ふむ」


 どう言う事だ?ちらりと戦草寺を見る。戦草寺は、そこらの掲示板からアクセス。今日の予定表の詳細を見ている。


「ああ。ユニオンの景品は、ロボット犬。優しいわね、お兄さんは」


 野牛に聞かせつつ、威業に気にしないように言い聞かせる。何せ、戦草寺には全くデメリットは無い。これは、己業のポイントを稼ぐチャンス。


 野牛は、情報を仕入れてくれた戦草寺に感謝しつつ、その真意にも、もちろん気付いている。伊達に長い付き合いではない。




「危険ですよ」


 同じく壁を行くロボットが忠告してくれる。これは、クモ型ロボットだ。ただ、クモを連想させる特徴は取り除かれている。嫌悪感を抱く人間は、多いからな。外観のフォルムが丸みを帯びると、どうしても虫をイメージさせてしまうので、わざと四角くしてある。そして、カラーリングは蛍光ブルー。青空に溶け込む色合いかつ、明らかに自然界のモノじゃねえ完成度。その甲斐あって、人々に怖がられず、清掃活動にいそしんでいる。


 この「クリーニング・アラウンド・ザ・ワールド」と己業の出会いは、この島に上陸した初日に既にあった。たまたま、渡り鳥の飛来するさまを捉えた己業。その鳥達が、島の建物に止まったわけだ。んで、まあ、なあ。フンもするわけだ。さて、それを普通の世界なら、人間のビル清掃業者を呼ばなければ掃除出来ない。だが、この都市には。イカした清掃野郎が居た。それが、あのクリアードだ。クリアード達の活動は、目立たず、しかし確実に有った。そこから己業の推測した事実として、ビルの外壁はそれなりに頑丈。少なくとも、直径1メートルの機械が張り付いても、はがれ落ちない程度には。


 なら、おれ達が蹴っても、平気だよな。


「っすみません。やっぱ、ここは歩かない方が良いですか?」


 壁を走りつつ、己業が問う。


「いえ。ここはホテルでもショップでもないので、他のお客様のご迷惑にはならないでしょう。ですが、あなたに万が一の事が起きては、我々の面目が立ちません。出来れば、路上を歩いて頂きたく存じます」


 この建物は、管理センター直轄の修理場兼休息地だ。ロボットの。工場まで向かわせる程の損傷でない場合、各エリアに在る簡易修理場で済ませる。夜間や、隙間時間のメンテナンスも、基本的にはここで行う。全とっかえ、と言うか、リサイクルに回す場合は、工場行きだ。そして、また、材料から生まれ変わる。彼らの輪廻転生は、人間より多少早い。


「なら良し!ご心配感謝!なれど、この己業!やるべき事が有りますれば!!」


 彼女と、彼女候補の!ご機嫌を!伺う!!おれがやる!!


 やたら熱量を発している人間。何かに集中しているのだろう。ならば、我は、その手助けをするのみ。


 クリアード、レスキューモード。目の前の人間は、危機的状況にあらず。されど。目的と、時間制限有り。我、全機能を使うに足る状況と判断す。


「では。お手伝いしましょう」


「はあ」


 道案内?


ガコン


 中央カバー開放、高密度直線化ワイヤー発射。レールが出来た。


「掴まって下さい」


 言われるまま、クリアードの胴体部両サイドに在るグリップ部分に掴まる。


「行き先は、隣のエリアで構いませんね?」


 己業の進行方向から割り出した推測。


「はい。ブルー・ユニオンとか言う所に」


「了解」


 この人間の肉体なら。耐える。


 ワイヤー加速。そして、最速で巻き上げ。


オ!


 時速300キロの専用ロープウェイだ。空中走行を楽しんでもらいたい。


 クリアードからの知らせを受け取った管理センターは、他のロボットへ行動範囲に立ち入らないよう通達。移動経路付近に存在した全ロボットから了解の返答を得た。


 終着点まで、およそ1分。景色は、星のように流れて行った。己業達が話しをしていたのは、建物の側面。だが、この街には電柱は無い。看板も見えない。表示は、立体映像ディスプレイとロボット犬の領分だ。そして樹木も、マシンの、人の邪魔にならないよう計画的に植えられている。だから、何にもぶつからず、自由に飛べる。


「すっげえええ!!」


 歓声が聞こえる。久しい音だ。今や、おなじみの我が身。だが、これでも人々の目を楽しませた時期も有った。それは、もうロボット犬にゆずったが。


 いものだ。人間を助けられた。きっと管理センターは、我が身をギアの一片に至るまで再利用してくれるだろう。また、人のために生きたい。子供達の喜ぶ声が聞きたい。


 やはり隣接エリアの修理工場の側面に貼り付けておいたワイヤーに到達。ゆっくりと減速しつつ、停止。


「ご乗車ありがとうございました。次は、ごゆっくり地上をお歩き下さい」


「ありがとうございました!」


 頭を下げ礼を述べた己業は、そこそこの速度で急がず飛び降り、ブルー・ユニオンを目指した。地図も、クリアードが示してくれてた。親切にも、到着箇所からのルートを。


 飛んだ!己業は、子供の遊び場で、ロープを滑車で渡って遊んだ事が有る。自分の足でなく道具で移動するのは、存外楽しく愉快だった。今回は、あの時より、もっと速く、もっと面白かった。本当に、来て良かった。


 使命を終えたクリアードは、自身の消耗具合を確認。ワイヤー表面が、怪しい。脚部も、少々疲労した。時期が来たのだ。部品交換で済ませられなくもない。だが、それでは結局、潜在的な不安要素を消せない。目に見えない不安である、金属疲労、新しいパーツとの噛み合わせチェック、それらの要素を一つ一つ潰して行くよりは、新しく作った方が早く、確実だ。簡易な、表面の塗り替えレベルならともかく。万全を期す。多分大丈夫程度で、終わらせない。


 生まれ変わったら。またロボットになれますように。


 己業は知らぬ。誰かが、己を助けた後、逝った事など。


 これが、この都市の日常。人間より遥かに早いサイクルを繰り返して、永遠の時を人に捧げる生命の住む街。


 グレートアトランティス。現在の地球で、最も進んだ街だ。

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