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劇場版ウインドブレイカーPLUS

作者: らく風

人生20年の記憶と苦悩のオリジナル小説。

  1.[夢]



地球とウインドが平和を誓い合って、半年。


私達は穏やかに毎日を過ごしていた。


「・・・無事にウインドに着いたよ、綾さん。いやー、ウインドはやっぱり綺麗な星だよ。今度は綾さんも来て下さい。僕が案内します。・・・今からウインドに、地球とウインドの連合軍を結成する件で、本部に行ってきます。終わったら連絡するので。・・・綾さん、何も起こらないと思いますけど、気をつけて。」


私は直人君のから届いたメールを見て、


「直人君はホント、落ち着きが無いよね。」


と、笑顔でパソコンを閉じた。


「綾ーーー!ご飯食べに行くわよー!」


同じチームの里香が言った。


「里香、ちょっと待ってよー。」


私はあたふたしながら仕事を片付けた。


    ・


「楽風君は成長したよね。なんせ今は地球軍のトップパイロットで、E13隊の隊長さん。みんな噂してるよー。今回のウインドへの出張、地球とウインドの連合軍のリーダーに選抜されたからって。」


里香はご飯を食べながら、喋っている。


「だから言ったでしょ。直人君はいつか地球をひっぱってくれる人なのよ。・・・里香、お行儀が悪いわよ。そんなんじゃ、何時までたっても結婚できないわ。」


私は念を入れた。


「そんなの関係無いわ。男はね、行儀が悪かろーか行儀が良かろーか、ホイホイついて来るもんよ。それだったら綾、あんただって男いないじゃない。」


・・・それはそうだけど。


「あーーーっぁ、楽風君みたいな人が私の恋人だったらなーぁ。」


・・・直人君。


「でも楽風君には真凛ちゃんがいるもんねー。なんで真凛ちゃんみたいなのを選んだんだろ?あんなわがまま娘。」


・・・。


「ホント、楽風君は自分の夢にまっしぐら。綾、あんたも楽風君を尊敬してるなら見習いなさいよ。」


・・・私の夢は・・・。


「・・・分かってるわよ。それより今週から公開される映画・・・。」


    ・


カタカタカタ・・・。


私は仕事場に戻り、最新戦艦ウィーアーの最終テストをしていた。


「どうじゃ、綾さん。ウィーアーの調整は?」


この所、毎日のように吉住さんがウィーアーを見に来ている。よほど待ち遠しいのだろう。


「今日中に正式に地球軍の・・・いえ、地球軍とウインド軍の戦艦として完成されます。・・・この艦は今回のウインドへの出張と関係あるのですか?」


私は吉住さんに尋ねた。


「あぁ、そうじゃ。ワシらの決意と共に、ウインドへと両国の軍を結成するためにな。楽風に頼んだんじゃ。地球とウインドの軍・・・まだその名を皆で考えてるが、私はフレンド軍が良いと言っておるのじゃ!」


吉住さんは、子供のように私に言った。


「・・・それは素敵な名ですね・・・。」


私は顔が引きつって笑った・・・。


「そうじゃろ!なのにあいつ等は・・・!これからは争い事がおこらない世界にしようとしているのに、その軍がおっかない名だったら何の示しもつかないじゃろうが!」


たしかにそうですけど・・・。


「そもそもワシらの方針は・・・。」


私は吉住さんの話を1時間ぐらい聞かされた・・・。


    ・


私はその日の仕事を終え、自室へと帰宅した。


「ただいまーっと。」


そして部屋に灯りが点いた。この仕掛けはウインドが教えてくれた物だ。登録者の声に反応して作動する装置だ。


「直人君から・・・、来てないか。」


私は台所へと料理を作りに向かった。




  2.[闇]



私は何をしたいんだろう。


私はなんで生きてるんだろう。


私は誰かに必要とされているのだろうか・・・。


一人ぼっちの部屋で私は思ってしまった。


きっとこの感情はすぐ消える。明日になればすぐいつもの私に戻れる。


・・・いつもの私・・・?それは本当だろうか。私はみんなから、どう見られているのだろう。私はただ、いつもの私を隠すために明るく振舞っているだけではないか。そう考えれば、今の私が納得する。


「直人君はどうなんだろう・・・。」


直人君も私と同じと思いたい・・・。けど違うだろう。直人君は何か違う。何か・・・。


私は直人君の事を考える。


初めて会ったのが、私が地球軍に入った2年後。それまでは必死に勉強した。そして気付いたら私は直人君と親しくなっていた。おかしな話、そうなのだ。私は直人君を意識したのは、寒い季節の真っ只中だった・・・。


    ・


「あーーー!もう!なんでなの・・・。」


パワーマシンの調整を任されて、ガレージに1人残っていた。まだ自信が無かったけど、ここで成果を挙げたかった。研修でやった事と同じ事をやれば良い。私はそう思っていた。だが、違った。おかしな事だらけだ。


「なんでなの?ここが止まったら、あそこを動かせば正常になるはずなのに・・・。」


私は焦っていた。ガレージの中は外の気温とまったく同じだ。暖房なんか無い。あるのは防寒着のみ。それを着て作業している。私は寒さで震えている手を辛うじて動かし、ノートを見ながら右往左往していた。


「どうしたんですか?何か問題でもあったんですか?」


その時、後ろから声が聞こえた。


私は振り返り、その声の人が心配そうな顔をしていたのを見て、私は何でもないように、


「ちょっと不具合があって、それで直している所なの。もうすぐなの。」


そう言って作業を開始しようとしたが、手が止まってしまう。私は泣きたくなった。


その人が私の隣に来てエラーと表示されているモニターを見て、


「あぁ、ここの調整は・・・。」


私はその人に教えられながら、無事に終わらせる事が出来た。


「ほんとーに、ありがとう。えーーっと、・・・。」


私はその時はまだ直人君の顔を覚えていなかった。


「楽風です。楽風直人。」


「あーーー、そうよね。直人君。ありがとうね。」


私はあたふたしてお礼を言った。


「どういたしまして、綾さん。」


あの時から私にとって直人君は、数少ない私の相談相手であり、直人君の相談役になった。


    ・


・・・直人君、早く帰ってくれないかな。


私はテーブルに着き、直人君へメッセージを送るため、パソコンを開いた。


1人ぼっちの部屋はあまり好きじゃない。聞こえてくるのはテレビの雑音だけだ。私は直人君になんて送ろうか考えてる時に、その雑音がひどくなっているのに気付いた。私はその声が聞こえてくる方へと視線を向けた。そしてそのまま息が出来なかった。


「テロです!今、地球軍本部が何者かに占拠されました!テロリストからメッセージが今届いたので、その映像をながします!」


「ウインド人と言う部外者に頼る、今の地球人は弱者だ!立てよ、国民!地球人は強者でならなければならない!ましてや地球人の手本となりべく地球軍はどうか!弱者だ!それで良いのか!否、違う!断じて違う!我々地球人は、今こそ力で見せ付けならなければならない!我々が求めるのは、地球人の真の心の解放だ!ウインド人に告げる!我々地球人は強者だ!忘れるな!強者だ!宣戦布告だ!我々地球人はウインドへ宣戦布告する!」


私はすぐ地球軍本部へ電話した。・・・応答が無い。


頭が混乱する中、私は地球軍本部へと走った。


    ・


地球軍本部前はすごい人だった。私は知っている人を探した。誰か・・・!誰かいないの!?


「綾!無事だったんだね!」


同じチームの静が私を見つけてくれた。


「静!何でこんな事になったの!?誰なの!?この首謀者は!?」


「分からない・・・。本部にはまだ里香がいるのに・・・!」


なんで!?


私は地球軍本部を見上げた。いつも見慣れた建物なのに、今日は、初めて見た建物のように見えた。




  3.[テロリスト]



辺りは静まり返っている。・・・当然だ。本部が占拠されたのだ。しかも同じ地球軍に。

泣いている人もいる。怒っているいる人もいる・・・。しかし誰かが殺されれば静まり返る。私達は、今は地球軍じゃない。人質だ。


「こんな事は止めるんじゃ・・・!弥彦・・・!」


吉住さんは悲しそうに、このテロのリーダー、弥彦に声をかけた。


「嫌ですよ。吉住さんも分かって欲しいなぁ。僕達の地球軍を。見て下さい。みんな自分の信念を持って、まっすぐな目でまっすぐな姿勢でしょ。見習って下さいよ。今の・・・、前の地球軍はヘラヘラ笑ってまったく示しもつかなかったのに、今の地球軍はどうですか?・・・これが地球に住む人々を正しい道へと導く軍隊ですよ。」


弥彦は大きい声で笑った。


「赤坂は、そんなお前さんを喜ぶ訳ないぞ・・・。」


吉住さんの声も聞かず、弥彦は仲間の下へと戻っていった。


「・・・吉住さん。弥彦って言う人って誰なんですか?」


私は小声で尋ねた


「・・・里香さんか。あいつは片山弥彦。赤坂を尊敬していた奴じゃ。赤坂が死んだと聞いて本部に顔を出さなかったが弥彦め、こうゆう事だったのか・・・。」


吉住さんは何故気付かなかったのかと、自分を責めた。


赤坂さん・・・。ウインドへと戦いに向かって楽風君に倒された人・・・。私はどちらが人として正しいかは何とも言えない。ただ楽風君がした事で何かが変わったのは確かだ。私達はうまく言えないが人だ。1人じゃ生きていけない。


「片山弥彦・・・。」


彼の考えは危ない。よくあんな奴に付いていく人がいるのか不思議だ。おかげでこんな事態になった・・・。これもまた人だと言うのだろうか・・・。


「これからどうなるのかな・・・?」


私は神様なんて信じない。ましてや信じている人も・・・。


「嫌だ・・・!私は何かに縛られたくない・・・!」


私の声はテロリストの笑い声に消された。


    ・


「なんでお前らにウインドブレイカーを渡さなくちゃいけないんだ!」


僕は声を張り上げた。


「直人、ここは言うとおりにするべきよ。」


真凛の声が聞こえたが、僕は渡すつもりは無い。この機体はウインドから地球に託されたものだ。こんな奴らに渡せるものか!


「子供みたいな人だねぇ、楽風君。赤坂さんから聞いたのとずいぶんと違う。君は人の上に立つ人じゃない。」


何を悟っていやがる!


「良いか。良く聞け。人質・・・いや、反逆者を殺すぞ。言うとおりにしろ。12時間後にウインドブレイカーを持って来い。いいな?殺すぞ!」


「お前らは何がしたいんだ!・・・切れた。くそったれ!」


僕は机を叩いた。なんで本部はあんな奴にでかい態度とらせてるんだ!そんなに支持したいのか?あいつの考えに!?テロリストはそんなに数が多いのか?


僕はガーネットさんに指示を求めた。


「テロリストの言うとおりに、ウインドブレイカーを渡しましょう。まずは敵を動かさないと。それに言うとおりにしないと殺されてしまうわ。楽風さん、ウインドブレイカーに乗って地球へ向かって。」


今は我慢してと言うようにガーネットさんは僕を見つめた。


「楽風君の気持ちは、みんなも同じように感じているわ。だけどここで私達が力で立ち向かったら大勢の人が死んでしまう・・・。関係ない人もね。だから言うとおりに・・・ね。」


ユーコもガーネットさんと同じように僕を見つめた。


たしかにそうだけど、僕は大切な絆をあんな奴らに・・・!


僕は湧き上がる感情を抑えて、


「分かりました。皆さんも何時でも戦えるように準備していて下さい。」


と、本気の顔でみんなに伝えた。




  4.[地球軍]



私達は食堂に集められ、テロリストに監視されながら何かできる事はないかと考えていた。でも、やはり私達ではあいつ等に立ち向かう事はできないと考えがとまってしまう。地球を守る軍人が何もできない現状は、私達にとって、どこにもぶつける事ができない怒りが湧いてくる。その怒りを自分にぶつける事ができても、その感情で行動したらおしまいだ。殺されるだけだ。かえって不利な立場になるだけ。手足を縛られる事なく監視されている今の現状をチャンスにしなくては。


「ウインドは厭きれてるだろうな・・・。」


1人の男性が静かに言った。


それを聞いた吉住さんは、


「それを判断するには、まだ早い。今後のワシ等がどう行動するかで判断するはずじゃ。心配するな。楽風がウインドに行ってる事が幸いだ。あいつなら良い方向に向けてくれる。ワシ等はその時が訪れれば動くだけじゃ。信じろ。強くもて。いざという時に動けなかったら、おしまいじゃ。」


私は地球軍の魂を取り戻した気がした。その男性も、いや、ここに集まっているすべての地球軍が正気を取り戻した。


    ・


「綾、何かあったみたいだよ。」


静の言うとおり、地球軍のトップクラスの人達が騒いでいる。そして、その中の1人の男性が私に向かって歩いて来た。・・・真田さんだ。


「綾くん、危険を承知で頼みたい。テロリストは、ウィーアーを動かすつもりでいる。その要員として綾くんを指名した。おそらく、戦闘が始まるのだろう。しかし我々は、要求に従う事しかできない。今は何もできない・・・。ただこのきっかけで何かできる事はないだろうかと考えている。我々は地球軍だ。どうか信じて欲しい。私はあなたを信じている。綾くん、行ってくれるか?」


真田さんは自分の本音を隠しているようにみえた。行かせたくない、自分が行くと・・・。その気持ちが伝わった。でも私だってこの状況をなんとかできるのは自分だと思っている。戦艦ウィーアー・・・。この艦の事は地球軍の中で私が一番知っている。


「承知しました。これより本部へ行って来ます。」


私は真田さんに敬礼した。


「綾!本気なの!?あそこは危険だよ!何をされるか!」


静の言っているとおりだ。だけど私はすべて承知で地球軍に入った。私は軍人だ。


「静、私達は地球軍よ。こんな時に逃げたらダメだよ。私は行くわ。・・・静、私を信じて。あなたが私を信じてくれなかったら、誰が私を信じるのよ。」


私は静の背中を叩いた。じっと立ってたら、震えているのが知られるからだ。


静は私に抱きついた。


「・・・無事でね。」


私は自分の震える体で、静を力強く抱きしめた。


    ・


「吉住さん。こちらに来て下さい。」


食堂に満面の笑顔で弥彦が来た。


「これから面白いものが見れますよ。どうか特等席で見て下さい。」


私は弥彦の純粋な笑顔が怖い。決して私達に良い事が起こらないのは確かだ。


しかし吉住さんはそれを顔に出さなかった。


「ほーぉ、いったい何が見られるのかのぉ。」


吉住さんは立ち上がり、弥彦の方へ歩いて行った。


「吉住さん!」


私は叫んだ。


「・・・里香さん。ワシはワシの道があり、あなたはあなたの道がある。自分を信じる事じゃ。」


吉住さんは立ち止まり、私を見る事もなく言った。その背中は楽風君に似ていた・・・。


    ・


弥彦に連れられて着いたのは、戦艦ウィーアーだった。・・・そしてブリッジに案内された。そこには綾さんがいた・・・!


「綾さん・・・!どうしてここに・・・!?」


ワシの声に綾さんはこちらに気付いた。綾さんは一瞬泣きそうな顔をしたが、すぐ平静の顔に戻り、ワシに頭を下げた。


「何をさせるつもりじゃ!」


ワシは頭にきて、弥彦の胸倉を掴んだ。しかし弥彦は嬉しそうに、


「何って?それは地球の未来のために働いてもらっているのですよ。彼女は素晴らしい。私の妻にぴったりだ。彼女は快く僕の気持ちを受けとってくれたよ。」


なんじゃと!?


ワシは弥彦を投げ飛ばそうとしたが、


ゴッ!


後ろから弥彦の仲間に頭を強打され、床に手をついた。


「・・・逃げろ・・・、綾さ・・・。」


ワシはふらつきながらも綾さんの所まで行こうとした。綾さんは立ち上がり、


「吉住さん!」


その声を最後に、ワシは意識を失った。




  5.[カウントダウン]



「私は君を愛していた。初めて君を見た時からね。」


片山弥彦は私に言った。


「この先の我々地球軍のために、私に・・・地球軍に尽くして欲しい。」


私の人生は終わった・・・。


    ・


「吉住さん・・・!」


床にうつ伏せになっている吉住さんを私は近寄る事も許されず、ウィーアーの発進作業をさせられていた。


私は何時もこうだ。周りに流されて生きてきた。唯一、周りから反対されつつ軍人になると言う事を決めた。しかし、結局は変わらない。私はダメな女だ。


なんで私は・・・!


私は今までなんのために軍人になったんだ。これじゃただの人形だ。私は認めて欲しかった。しっかりした女性だと。


私はむいてないのかな・・・。


私の心はどこにも無い。


    ・


「1番隊!準備は良いか!?」


「準備完了です!」


「2番隊は!?」


「準備完了です!すべての艦、いつでも発進できます!」


私は最高の気分だ。私には今、すべてのものを手に入れている。


「では綾さん。発進の合図を頼みたい。」


私の妻に求めた。


「・・・本当にこれで世界は救われるのですか?」


妻の表情、声・・・。私はぞくぞくする。


「綾さん、君の言いたい事は分かるが見たまえ。ここにいるすべての者が今か今かと待ち続けている。私は間違ってなどいない。腐敗した世界を救うには、どうしても力が必要だ。そして力を見せ付ければ、人は従う。今まで世界を導いてこれたのは、力があってこそだ。その力を今、見せ付ける時なんだ!綾、発進だ!」


「しかし・・・。」


「私に逆らうな!」


パンッ!


私は抑えきれない自分の感情を、つい妻に手を出してしまった。


「・・・カウントを開始します。」


「それで良いんだ。・・・すまなかったな、綾。」


私は最高の気分だ。


    ・

助けて・・・。


「綾さん・・・!」


僕は綾さんの声を確かに感じた。ウインドから月へとワープし、ウインドブレイカーを地球へと向かっている時だった。


「・・・待ってて下さい。今・・・今向かいます・・・!」


ウインドブレイカーを最大出力で地球へ、綾さんの所まで急いだ。


「必ず、僕が・・・!」


僕はもう、誰にも死んで欲しくない・・・!




  6.[対立]



地球軍本部の上空に、戦艦が10隻。その真ん中にウィーアーがいた。


あそこに・・・!あそこに綾さんが!


静さんから、綾がウィーアーの補佐官として片山に指名されたと連絡してくれた。


僕はウインドブレイカーを、距離をとり、ウィーアーの真正面にして待機させた。


    ・


「良く着てくれました、楽風君。君を見直したよ。」


片山弥彦は心の底から、笑って言った。


「・・・綾さんを帰せ。」


「何を訳の分からない事をいってるんだい?綾は僕の妻だ。君に言う資格は無い。」


「ふざけるな!綾さんはお前なんか好きになる訳が無い!」


「面白い事を言うねぇ。なんなら綾に聞いてみるかい?君が納得がいくまで聞くと良いだろう。」


そう言って片山弥彦は私の所まで来た。


「さぁ、綾。楽風君に言ってあげなさい。彼は君を勘違いしている。そして私はまるで悪者だ。綾、助けておくれ。」


私は床に倒れている吉住さんを見た。・・・私には選ぶ事すら許されない。私の人生は決まったのだ。でも、直人君がいたら・・・!


・・・私の心を直人君に伝えよう!


「直人君!本当は私は・・・!」


バンッ!


「・ぐあぁ!」


私は銃声を聞いた。その声の方へと振り向いた。


「吉住さん!」


右腕を押さえ、吉住さんは震えていた。


なんなの・・・!なんなのこの人!


私は片山弥彦を睨みつけた。


「綾、撃ったのは僕じゃない!・・・おい、お前ら!止めたまえ!」


片山弥彦は混乱しきったように言った。


「はっはっは!」


他の仲間が笑った。


「・・・そこに吉住さんがいるのか!お前ら・・・!どうしてそこまで人を信じられないんだ!お前らの自分勝手な考え方を直せ!」


「・・・ホント君は訳が分からない。」


バンッ!


「ぐっ・・・!」


吉住さんの周りは血だらけだ。


「・・・もう止めて!私はあなたを信じます!だから・・・!」


私の懸命な声も、


「・・・だから?だからなんだ!」


パン!


「・・・だ・・から、あなたを・・・信じ・ます。」


私は泣きながら答えた。


「・・・だったら主砲準備だ。あの腐ったウインドブレイカーを落とせ!気分が悪い!」


・・・私の夢はお嫁さんになる事。


私は声に出して泣いた。・・・止まらない。涙が、声が・・・、止まらない。


「いい加減、聞き飽きたんだよ!」


パン!!!


私は床に倒れこんだ。


「おい!楽風!動いたら綾を殺すぞ!・・・アースキャノン、発射!」


ブォォォーン!


ウインドブレイカーへ放たれた。




  7.[愛]



「なんで・・・!」


ドーーン!


「なんでこうなるんだ・・・!」


ドーーン!


「僕は・・・!」


ドカーーン!


    ・


「おい、見たまえ!ウインドブレイカーを撃破したぞ・・・!」


片山弥彦は嬉しそうに言った。


「これで・・・!これで私は世界の・・・全人類を導く者だ!」


ウインドブレイカーが爆発し、粉々になって堕ちるのを見て、私は希望を失った。


「・・・なんで?なんで攻撃しなかったの?吉住さんがいたから?私が・・・いたから・・・!?」


私は深海の中にいる。寒くて、暗くて、息ができない。・・・押し潰されそうだ。


「・・・楽風。ワシが・・・!ワシのせいじゃ!」


吉住さんは泣いていた。


「くだらないセリフはやめて欲しいな。楽風君は理解したのだよ。私のすべき世界の統一を。自分達が間違っていただとね。楽風君の死を無駄にしないために、私は動く事にしますかね。」


そう言って、マイクを手に取った。


    ・


「私の名は片山弥彦。全世界を導く者だ。皆もご覧のとおり、たった今、ウインドブレイカーは地獄へと堕ちた。これで皆の不安も消えた事でしょう・・・。」


私はテロリストの映ってるテレビを見て、怒りを覚えた。


「どこに行くのかね!?静君!」


真田さんは言った。


「どこにって、決まってるでしょ!本部よ!」


「本部の中へ進入はダメだ!人質がいるんだぞ!」


「地球軍よ!」


「人質と変わりない!」


「本部にいる地球軍は仲間が来るのを待っているはずだわ!仲間だって分かってる!例え自分が殺されても、こんな腐れきった奴らに好きにさせてはいけないって!」


私は感じる。今が動く時だと。そして皆も感じてるはずだ。


「・・・これを持って行きなさい。」


そう言って真田さんは本部の見取り図を渡した。


「これは!?」


「ただの紙だ。」


そう言って苦笑いし、


「頼んだぞ。」


真田さんは私の両肩に手を置いた。


・・・暖かった。


    ・


「全システム。正常に起動。」


「・・・。」


「悪くない。・・・行けます。」


「・・・。」


「・・・大丈夫ですよ。俺は何時だって俺ですから。」


「・・・。」


「・・・了解しました。」


「・・・。」


「アナザーアースクロスブレイカー!出ます!」




  8.[LAST IMPRESSION]



「はっはっはっ!これで我々の時代が来たな!弥彦!」


「まぁ、神はいつも我々を見ていたと言う事だよ。」


私は吉住さんを手当てしながら、黙っていた。


「・・・綾さん。この状況で言うのもなんだかのう、楽風は生きているぞ。」


吉住さんの言葉に少し反応したが、私は黙っていた。


「・・・綾さん。良く聞け。今から何かが起きるぞ。」


私は泣き顔のまま、吉住さんを見た。


「何故、そう思うのですか!?私はこれからの地獄を少しでも良くしようと考えてるのに!」


私は静かに、強く言った。


「・・・綾さんよ。楽風がこんな死に方をするか?」


そう言われて私は直人君を思う・・・。死なない。彼はこんな事じゃ死なない。


私は吉住さんを見た。もう泣き顔ではなかった。


「信じろ。強くもて。そうすれば自然と体が動く。」


私は頷いた。


「・・・弥彦。何かおかしくないか?」


テロリストの1人が言った。


「・・・お前もか。こんなに愉快な事は無いのに何故か・・・不愉快だ。」


片山弥彦は言った。


私は違う・・・。何か・・・、力が湧いてくる!


そして周囲に緑色の粒子が見えた。・・・少しずつ、少しずつ増えていく!


「弥彦・・・。この光はもしや・・・!」


ドーーーン!!!


艦に振動が起きた。


「何が起きた!?」


片山弥彦は怒鳴った。


「弥彦!敵だ!ビームが来た!」


ドーーーン!!!


また大きく艦が揺れた。


「どこからだ!?」


・・・私は見えた。太陽の正面に緑色の光に包まれた直人君がいた。


    ・


「俺はどうすれば世界が幸せになるかを、ずっと考えてきた。」


ピピピ・・・。


「1人1人の考えを、理想を、どうすれば1つに出来るかを・・・。」


ブォーーン!


「その考えは、間違ってたのかも知れない。」


ピピピ・・・。


「俺達はただ、1人1人を尊重すれば良いのだと、そう思う。」


ブォーーン!


「そして俺達はただ、その手助けをすれば良いのだと。」


ピピピ・・・。


「俺達が世界を導くのでは無い。1人1人が導く。そして・・・、幸せな世界を創る!」


俺はブレイカーライフルを放った。


    ・


ドーーーン!!!


「・・・くっ!人質を殺せ!今すぐにだ!」


「いません!逃げられてます!」


「ふざけやがって!!!お前らは迎撃しろ!全パワーマシン、出撃させろ!俺があの2人を殺しに行く!!!」


    ・


「大丈夫ですか?吉住さん。」


私達はブリッジから抜け出し、走りながら吉住さんに聞いた。


「ワシは大丈夫だ。それより綾さん、先に行け。ワシのペースに合わせなくても良い。」


私は吉住さんを見た。すごい汗だ・・・。顔が青くなっている。後ろを見ると血が落ちている。また出血したのだ。


「私は1人じゃ生きられないんですよ。だから・・・。」


「・・・実はワシもな。」


私達は笑った。


    ・


バンッ!


私達は食堂から銃声を聞いた。


「うぉぉぉーーー!」


私は音がした方へ走って行った。


「里香に続くぞ!」


「うぉぉぉーーー!!!」


そこには外から進入した仲間が戦っていた。その中に静がいた。


「静!どうやってここに!?」


「説明は後!とりあえずテロリストを確保するわよ!」


私達は笑い合い、そしてテロリストに立ち向かった。




  9.[反撃開始]



「各員、準備は良い?」


「オッケーです!」


私はウインドハートのコクピットに乗って待機している。


「頼りにしているわよ。ユーコ指揮官。」


ガーネットさんに言われて、私は気を引き締めた。


「了解しました。各員、負けるな!」


「了解!!!」


私達ウインド軍・・・いや、私がいるから地球とウインドの連合軍だ。初めての戦い・・・。負ける訳にはいかない!


「エターナルワープ発動!」


ガーネットさん率いる、戦艦メモリーズは、楽風君が戦っているであろう本部上空へとワープした。


    ・


「さすがにこの数は、1人では厳しいな・・・!」


僕は冷静になり状況を判断した。


ビュン!ビュン!ビュン!


避けるのに精一杯だな・・・。


「まー逃げても良いんだけど・・・!」


このアナザーアースクロスウインドには、エターナルワープが搭載されているため、一度記憶した場所にならどこでも行き来できる。


「・・・来たか!」


振り向くと戦艦メモリーズが見えた。


「・・・さて、反撃開始といきますか!」


僕はブレイカーソードを手に取った。


    ・


「待て!この、この!」


バンッ!バンッ!


片山弥彦が銃を乱射して走って来た。


バンッ!


「うぅ!」


「吉住さん!」


乱射した弾が吉住さんの左足を貫いた。


「しかっりして下さい!吉住さん!」


私は吉住さんを肩に担ごうとした。


「早く行け!ワシはもう老いぼれじゃ!逃げろ!」


「出来ません!私は・・・!」


パチパチパチ。


「よくここまで生きてきましたね、吉住さん。そうですよ、綾。こんな老いぼれなんか置いて行ったら良かったんですよ。まぁ、どちらにせよ死ぬのですがね!」


・・・もうダメだ!


私は目を閉じた。


バンッ!


・・・生きてる?


目を開けると、そこには片山弥彦が倒れていた・・・。死んでいる。


私は後ろを向いた。そこには真凛ちゃんが拳銃を片手に私達を見ていた。


「よーやく見つけたわ。遅れてごめんなさい、綾さん、吉住さん。」


真凛ちゃんは安堵した。


「真凛ちゃん、助かったわい。おかげで今日も良い夢を見そうじゃ。」


吉住さんは笑い、痛みで顔を歪めた。


「ホント、良く生きていましたね。」


そう言って真凛ちゃんは、吉住さんを背負った。


「綾さん。行きましょ。追っ手が来ない内に。」


私は呆然としていた。


「・・・はい。」


「どうしたんですか?綾さん?」


真凛ちゃんが不思議そうに私を見た。


「・・・直人君にぴったりね。」


「・・・な!」


「さー、行きましょ。早くしないと追ってが来るわ。」


そう言って、私は立ち上がった。


「ちょっと待ってよ。私がどうやってここに来たか、知りたくありませんか!?」


・・・そんな事は分かっている。このウィーアーで一部、空白のスペースがあった。そこにあるのだろう。ワープ装置が。


私はその場所まで歩き出した。


「場所分かっているんですか!?・・・あってますね。」


真凛ちゃんは不思議そうな顔で、吉住さんを背負ってついて来た。




  10.[終戦]



「レナとクリスはあの艦を止めて!シャルは私について来て!パワーマシンを再起不能にさせるわよ!」


さすが地球軍のパイロット。私達の生半可なパイロットとは違う。


「分かっています。でも敵の攻撃が激しくて、・・・近寄れません!・・・けど!」


レナは敵の攻撃をかわしつつ、艦へと向かった。


「まいったな。これじゃ、男が台無しだ。・・・でもやる時はやるよ!僕はねっ!」


クリスはレナの後を追った。


それでも私達は自分の力を信じている。例え毎日訓練して強くなろうと、私達は負けない。なぜなら私達には・・・。


「ユーコ!行かないの!?早くこんな争い止めようよ!」


シャルは私に言った。


「ゴメン・・・。シャル、練習通りに動くのよ。・・・私達がこんな世界を止めるわよ!」


「了解!」


私達は平和を胸に戦いに向かった。


    ・


「真田!本部を取り戻したぞ!」


「ヨシ!我々も本部へ向かうぞ!」


私は本部へと走った。地球軍すべての者が私につづいた。


    ・


「静君!」


真田さんが走って来た。


「真田さん!やりまし・・・!」


「全パワーマシン、発進だ!急げ!」


「了解しました!」


一言ぐらい感謝の言葉をくれたって・・・。


私は自分の持ち場に急いだ。


「ホント偉いさんはこれだから・・・。」


私は走りながらため息をついた。


「良いじゃない。あー言ってるけど、喜んでるわよ、真田さんは。」


里香は笑って言った。


「もー、どーでも良いわ。私は地球軍として当然の事をしただけ。」


「その通り!」


私達は前を向いて走った。


    ・


「直人!吉住さんと綾さんを取り戻したわよ!」


真凛から通信が入った。


「・・・そうか。ありがとう、真凛。」


僕は一呼吸した。これで後は・・・。


地球軍本部を見た。・・・見るとそこからパワーマシンが出て来る・・・。出て来る!?


「楽風君!地球軍が本部を取り戻したみたいよ!・・・テロリストを攻撃してる!」


僕はもう一呼吸した。


そしてテロリストは攻撃を止めた。




  最終話.[私とワルツを]



1ヵ月後。


「・・・ウインドの皆さん、僕達の地球にようこそ。地球とウインドの両軍、フレンド軍の結成を記念して、今日と言うこの日を祝いましょう。そしてもう一度、平和を誓い合いましょう。争いの無い未来のために!」


「争いの無い未来のために!!!」


この日、地球はウインドを招き、パーティーを開いた。僕はスピーチを終え、席に着いた。


「なんなのよ直人。急に真面目に喋ったりして。今日はパーティーよ。そう言う話はお偉いさんに任せれば良いのよ。・・・ほら、おいしいウインド料理を食べに行くわよ。」


僕は真凛に急かされて、僕は仕方が無くウインド人がいる席へと向かった。


「楽風、しっかりしろよ!女に負けるなよ!」


周りが騒ぎ始めた。・・・僕はため息をついた。


「・・・。」


・・・綾さん。


僕はその中に綾さんを見つけた。里香さんと静さんと一緒にいた。だけど、なんだか元気が無い。


「何突っ立てるのよ!」


ゴン!


「・・・分かってるよ、真凛。」


僕は情けないと思った。


    ・


「楽風君に真凛ちゃん。ウインド料理はこちら・・・。」


私は楽風君を見つけて声をかけたが、


「直人さん!この料理、食べて下さい。私が作ったんですよ。」


何故かレナが割り込んで来た。


「レナの料理は美味しいからな。どれどれ・・・。うまい!」


「本当ですか!?そのーー、私、頑張ったんですよ?」


この女はなんとかならないか。楽風君にだけ、あんな態度とって・・・!


「いやー、毎日作って欲しいよ。レナは良い奥さんになれそうだ。」


「・・・。」


おっ。レナめ、ざまーみろ。


「そんな・・・。直人さんの妻は、荷が重過ぎますよ。」


消えろ。


「・・・ゴホン。直人のご飯は私が作ってあげるもんね。悪いけどレナさんには、ユーコさんのご飯を作ってあげて。きっとユーコも喜ぶわ。」


ブチッ!!


「・・・。まぁ、なんだ。今日はパーティーだ。楽しく行こう!」


「そうよね!!!」


私はまだ諦めてなんかいない。


「えー、皆さん。今日はとても良い日ですね。こんな日はダンスでもしてはいかがですか?これから皆でダンスをしたいと思います!二人一組!皆さん、ペアをつくって下さい!」


ガーネットさんは高らかに言った。


「へぇー、ダンスか・・・。」


楽風君は呟いた。


そして私は楽風君に視線を送った。


楽風君・・・!私を選んで・・・!


「綾さーーーん!僕と踊りましょう!」


・・・なぁ!!!


会場は静まり返った。


「・・・百回死ね!!!」


ゴン!!!


真凛ちゃんが楽風君の顔面を殴った・・・。


    ・


私は直人君に呼ばれて驚いた。


「・・・行って来い!綾!」


里香に背中を叩かれた。静も頷いた。


・・・直人君がまた呼んだ・・・。


私は良いのかな・・・。私は・・・。


そう自分に言いかけているが、体は直人君の方へ向かっている・・・。


私の夢は、お嫁さんになる事。


「綾さん、僕と踊りましょう。」


私はまだ夢を忘れた訳では無いし、諦めた訳でも無い。私は必ず夢を叶える・・・!


「お姉さんが踊ってあげましょう、・・・直人君。」


直人君は大きかった。それでも私は彼のそばを離れない・・・。


音楽が流れた。


「・・・綾さん。」


直人君は私に手を差し伸べた。


「・・・ありがとう。」


私は直人君の手を握った。


    ・

    ・

    ・


・・・なんであの時、死ななかったの?


ウインドブレイカーは死なないんですよ。


・・・何それ。


死んだら困るんですよ。


・・・


何度でも蘇る。・・・そこに助けを求める人がいる限り。


・・・じゃあ、また私が苦しんでいたら助けに来てね。


・・・必ず行くよ、綾さん。




最後まで読んで頂きありがとうございます。レッツエンジョイ。

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