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神代の英雄  作者: 朧 夕映
西側諸国
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刻まれた魔法陣

「海ーーー!!」


 ヴィルムシュタットの王都を南に出ると、そこは大きな港になっていて、青い海には外国との貿易船が何隻も停泊している。ディオンも船は初めて見るようで、帆船の構造を知りたがったっていたが先に進まないしお金の無駄遣いはできないのでお金に余裕ができたら、と言ってなんとか歩き出した。


「とりあえず、海岸沿いに一日歩こう。小さな村があるから、そこで一泊ね。」

「わかった。」




 王都を出て海岸沿いを歩きながら、ライナは少し前を歩くディオンに話しかけた。


「ねえ、王都に入る前に、なんで私が魔法を使えないか不思議がってたでしょ?なんでなのか教えてよ。」


 落ち着いたら、と言っていたが、結局ディオンが部屋に籠もってしまったので話の何もできなかった。申し訳なさそうな顔で、ディオンはいいよ、と言い、説明を始めた。


「まず、魔法って何か知っているか?」

「...魔法は、魔法じゃないの?」


 首をかしげたライナを見たディオンはそのへんの枝で砂に簡単な人の形を描き、体内を循環するような矢印を書き足して、そこに魔力、と書いた。

 

「俺達の体の中には、目に見えない魔力と言う力が流れているんだ。血のように、全身を循環している。」

「ほうほう。」

「魔力がないと、魔法が使えない。まず、魔力量に個人差はあるが、世界中の人々は全員魔力をもっているんだ。」

「えっ、そうなの?!」


 まさかの事実だった。自分も魔力持ちだったなんて。自分の掌を見つめる。もしかしたら、自分もディオンみたいに火を出せるようになるだろうか?


「そうか、知らないのか。なるほど、ヴァルミアの知識の断絶は深刻だな...。」

「ねえねえ、私も掌に火を出したり、空飛んだりできるの?!」

「結果から言うと、無理だ。」

「......ええ?!なんで!」


 至極真面目な表情のディオンは嘘をついているようには見えない。そんなバッサリあっさり断言しないでほしかった。数秒前のあのワクワクを返して。


「なんで使えないの?私にも魔力あるんだよね?」

「ああ。間違いなく。俺の感覚的に、魔法を扱うのに十分な魔力がある。」

「ますます理解できないんだけど。」


 すると、ディオンは先程描いた人の右横によくわからない模様を書き始めた。その模様と、体内を回る魔力の矢印をつなぐ。


「これが、魔法陣。使いたい魔法の魔法陣に魔力を流すことで、魔法が発動する。」

「え、じゃあ魔法って、魔法陣がないと使えないんだ。」

「概ねその認識であっている。魔獣の中には、魔法陣を介さずに魔力をそのまま打ち出してくる種類もいるが、まあ気にしなくていい。それで、ライナが魔法を使えない理由はここだ。」


 そう言って、魔力と魔法陣をつなぐ矢印に大きくバツをした。


「ライナは、魔力を体外に放出できないんだ。」

「なんで?!」


 予想外の理由に、そう突っ込まずにはいられなかった。絵を消して、歩き始めたディオンが説明してくれる。


「俺にはよくわからない。確かに魔力があって、それを使っているのに、なんで体外に放出ができないのか...。」

「ちょっと待って。...私が、魔力を使ってる?全く自覚ないよ?」


 自分の手を握って開いて、ディオンを見上げた。今まで生きてて、魔力や魔法を自分から感じたことは一度もない。魔法陣のことだって今初めて知ったし。


「無自覚か...。どうやら、ライナは体内でなら魔力を使えるらしい。魔力を体外の魔法陣に流して発動する一般的な魔法とは違い、体内で魔力を使って発動させる力は対象が自分のみに限定される。ライナが使っているのは後者だ」

「...それって、魔法陣が体内にあるってこと?」

「ああ。正確に言うと、体に刻まれているんだ。生まれつきの才能だな。」

「え!すごいじゃん、私!」


 ぱあっと笑顔が戻った。なんだか響きがかっこいい。魔法が使えないと思っていたのでとても嬉しくなった。期待いっぱいに、ディオンに聞く。


「で?私はなんの魔法が使えるの?空飛べちゃう?」


 ライナのキラキラ笑顔を受け止めたディオンは、なんとも言えない微妙な表情で言った。


「...なんか勘が良くなる魔法。」

「...ん?」


 ちょっと、言っている意味がわからなかった。私はからかわれている?それとも嘘?信じられなくて、信じたくなくて、ぽかんとしてもう一度聞き返した。


「ほんと?」

「本当。」

「思ってたのと違うんだけど。」

「俺も。」


...はあああ?!何その魔法!なんかさ、こう、空が飛べるとか、攻撃できるような何かが出せるとか、身体能力が上がるとか、そういうのじゃないの?!勘が良くなるってなに?!思ってたのと違いすぎるでしょ!ゆるゆる魔法すぎるよ!


 その場でむきーっと頭を抱えたライナは心の中で色々独り言を発散した後、少し先を歩くディオンに追いついた。一人でのたうち回るライナを見ていたディオンは笑っていて、むすっとしたライナを頭をグリグリと撫でる。


「今まで、なんとなく違和感があるな、とか根拠のない自信とか、あったんじゃないか?」


 そう言われて思い出す。魔族の大鎌の攻撃を首筋に感じた時、初めてディオンを見た時の違和感。思い出して、どうしようもなく、ディオンの言葉が正しいんだと思い知った。


「図星か。」

「認めたくないんだけど。」

「戦闘において、勘がいい、というのは武器になる。いい魔法陣を持ったな。」

 

 そう言うディオンはなんだかちょっと、寂しそうに見えた。いや、懐かしんでいる?これも「感が良くなる」っていう魔法だろうか。


「私、意識して魔力を動かしたことはないよ?発動条件とかあるのかな。」

「俺が見たときは集中しているときだったが、よくわからないのが正直な感想だ。修行すれば、体内の魔力もをコントロールできるようになるのかもな。」

「じゃあ、ディオンが教えてよ!魔法使いなんでしょ?」

 

 そう言うと、ディオンは困った顔で首を横に振った。聞けば、魔法使いではあるが、その殆どが独学で、他者への教え方がわからないのだそう。なんと不器用な。試しに無理言って教えてもらったが、ぎゅっ!とか、こう!などの擬音と身振り手振りばっかりで全く参考にならなかった。




 自身についての衝撃的な事実を知ったこと以外は順調な道のりで、無事に目的の村についた。王都のすぐそこの村なので、比較的人が多く、治安もいい。宿で二人部屋をとって、村に情報収集へ出かけた。

 ちなみに、ディオンは楽しそうに知らない物を探しに行った。あの調子じゃ、すぐにお金が尽きそうだ。早めにいくつか依頼をこなさなければなるまい。


 市場でここらの名産品を買っていた時、気になる話を聞いた。なんと。ノルトブランド山脈を超えてヴァルデンメーアにいく街道が使えなくなっているらしい。


「それ、本当なんですか?」


 立ち話をしていた村人に話しかると、市場のおじさん達が気前よく教えてくれた。


「詳しいことはわからねえが、隣の村から来た商人がそう言っていたんだよ。」

「その商人は、今どこに?」

「数日前のことだからねえ、もう王都に行っちまったんじゃねえかな。」

「そうですか。ありがとうございました。」




 その日の夜、宿の下のごはん屋さんで、ディオンと得た情報を共有しながら食事をした。


「村の人から聞いたんだけど、山脈を超えて向こうにいく街道が使えなくなってるかもしれないんだって。」

「あの辺りは昔から深い森に覆われているからな。」


 ディオンが昔から、と言うのだから、ずっとずっと前から、森があったことがうかがえる。深い森の中には、長く生きた魔獣がいることが多い。たいていその手の魔獣は他に比べて体が大きく、扱う魔法も強力になる。ライナはまだ相対したことがないのでなんとも言えないが、見てみたい気がしなくもない。


「みないとわからないことが多いし、魔獣を相手にどれくらい戦えるか確かめるのもいいだろう。俺はこのままその村に行ってもいいと思うが。」

「わかった。じゃあ明日は隣の村に行こう。」


 もぐもぐ食べるディオンの横には、この村で使われている地図が置いてある。さっき見せてもらったけど、王都で買ったものと、微妙に形や場所が違う。旅をしながら商売をする旅商人や冒険者、輸送の馬車なんかはいくつも地図を持っていて、それを元に自作する人が多いのだとか。ディオンも、資料は多いほうがいいとか言って色々買っていた。


「ちゃんと依頼、こなさないとな。」




 翌朝、村を出発して一週間ほどで隣の村についた。ベルガウと言うこの村は、ヴァルデンメーアへ行くための深い森に続く街道の入口にある。


「なんか...元気ない?」


 本来なら向こうからの往来があるこの村は宿場村としてそれなりに賑やかなはずだ。しかし今は宿もすっかり閑古鳥が鳴いている。


「とりあえず、話を聞こうか。」

「宿とってからね。食料も買い足そう。」




 宿をとって、情報収集に依頼所に来た。依頼所はたいていどこの村にもある旅人のための窓口で、銀行と商業ギルドに旅先からアクセスできる場所なのだ。シグルを持っていれば口座への振込と引き出しが可能で少額なら依頼所の準備金から現金で引き出せる。村の依頼をとりまとめたり、討伐した魔獣の買い取りもやってくれる、ありがたい場所だ。


「へえ、ラウクラウの群れか...」

「見たことあるの?私初めてだなあ」

「この森にしかいない魔獣だったと思う。そこまで強くないが、でかいからな。」

「どれくらいあるの?」

「大きな個体は立つと俺よりデカい。」

 

 そんな大きなラウクラウが群れで街道沿いに住み着いてしまったらしい。とは言っても5匹くらいらしいが。縄張りに入った通行人に容赦なく襲いかかってくるそうで、ベルガウにも降りてこないか心配しながら村人は暮らしている。ここを通りたいし、路銀も稼ぎたいと思っていたので、明日はラウクラウの討伐に行くことにした。




 翌日は朝から討伐に向かうつもりだったのに、お昼ごろになってようやく出発した。なぜかって?昨夜、ディオンが指輪から出してくれた図鑑がおもしろすぎたからだ。随分と指輪の中に眠らせていたものらしくて、出したのは500年前が最後とか言ってた。二冊のうち、一冊は古代ヴァルミア帝国で買ったもので、もう一冊は自分が旅した先で見つけた薬草や魔獣、魔物なんかを記録していたらしい。

 古代ヴァルミア帝国の図鑑のすごいところは、動くことだ。ページを開くと、絵が立体になってページの上を動き回る。当然文字は読めないのでディオンに読み上げてもらいながら夜中まで見入ってしまった。結果、2人は大寝坊したのだ。代わりにちょっとだけ、古代ヴァルミア文字が読めるようになった。


「よーし、切り替えていこー!」

「異議なし。」


 半日の遅れを取り戻すように、2人ははりきって森へ入った。


  


 森の中の街道を一時間ほど歩くと、道が結構荒れ始めた。街道のレンガが割れていたり、土が被さっていたり。街道を外れた道の脇には獣道があって、そこに人の手が加えられた木片が落ちている。


「そろそろ出るかな?」

「集中しろよ。」


 剣の柄を握りしめて緊張気味にあたりを警戒するライナとは違い、ガントレットを装備しながら体の力を抜いて楽に歩くディオン。正直気が散るからもっとちゃんとしてほしい。時折聞こえる鳥の声と木々のざわめきに耳を澄ませ、気を張り詰めていると、その瞬間は不意にやってきた。


「?!」


 右から、なにかの気配がした。右半身が圧迫されるような圧を感じてそちらに体を向けたと同時に、茂みから黒い魔獣が勢いよく出てきた。


「ラウクラウ!」


 四足歩行で、後ろ足で立ち上がるとディオンよりも大きな黒いラウクラウは、鋭い爪を力任せにふるって攻撃してくる。そして、ラウクラウの最大の特徴は...


「ライナ!来るぞ!!」


 背後から聞こえるディオンの声と同時に、ラウクラウの口が大きく開く。黄色の光が集まった。次の瞬間、拳大くらいの大きさの光の塊が勢いよくとライナに向けて飛びだした。

 躱せば、後ろのディオンに当たる。


...やるしかない!


「やあっ!」


 剣はまっすぐ。無駄な動きは最小限。重心を僅かに前に傾け、ライナは迫ってくる魔力の塊に向かって剣を振り下ろした。


 ビュン!


 真っ二つの魔力弾は進行方向を変え、背後の木々に当たった。それを見ることはなく、ライナは左足で地面を強く蹴り、ラウクラウの懐に入り込んだ。瞬間。体のねじれを利用し、左下から右上へ、ラウクラウを切り上げた。

 剣は見事に首を切り、ライナは初めてのラウクラウ討伐を果たした。


「みたみた!?ディオン!」


 初めての大型魔獣の討伐成功に笑顔で振り向くと、ディオンは拳を構えて街道の先を見つめていた。


「忘れたのか?ここにいるラウクラウは群れで行動している。...群れが来たぞ。」

「なんか...多くない?」

 

 街道の先から出てきたのは10匹ほどのラウクラウだった。たくさんいると迫力がすごい。聞いてないよ...とライナが弱気になる横で、ディオンは戦いの顔になる。ディオンの足元に魔法陣が現れる。ふわりと短い銀髪が揺れた。


「ぅわっ。」

「俺が前に出るから、取りこぼしたやつをやってくれ。」

「え、ちょ、待ってよ!」


 静止する暇もなく、ドンっ!と音がしたと思うと、ディオンがいなかった。いや、一瞬で前方のラウクラウとの差を詰めたのだ。さっきの音は、ディオンが地面を蹴る音だった。

 ディオンの赤いガントレットの手の甲に、小さな魔法陣が浮かび上がる。透明な虹色の魔法陣が淡く輝いた。


「魔法陣?!」

「レギス・ドレイン」


 キィンと金属質な音がしたと思うと、小さな虹色の魔法陣が3枚重なり、3重の魔法陣とともにディオンは拳をふるった。殴られたラウクラウからドンっ!と鈍い音が聞こえる。しかし外傷はない。首も飛んでいない。ライナには、死んだかどうかもわからないが、ディオンはそのラウクラウを見ることなく、次から次へと殴りかかっていった。

 一匹、ディオンから逃げてこちらに来たラウクラウをライナは先程と同じ要領で討伐した。


 ライナが一匹倒す間に、ディオンは9匹を倒していた。倒れたラウクラウは傷一つない。なんで死んでるのか理解できなかった。


「衝撃波で、心臓を直接止めているんだ。ラウクラウの毛皮はよく売れるから、なるべく綺麗な状態がいい。」

「そういうことは早くいってよ!首飛ばしちゃったじゃん!」

 



 ライナは、倒したラウクラウをリュックにいれた。ふと顔を上げると、ディオンが倒した全てのラウクラウを指輪に収納している。


「そんなに沢山入るの...?」


実際、ライナのリュックは無限に入るわけではなく、最大馬車一つ分くらいの体積しか入らない。


「わからない。ずっと使ってるが、入らなくなったことはないな。」

 

 ディオンの指輪の中は異次元。覚えた。




 依頼所に持っていったらものすごく驚かれた。合計11匹のラウクラウで、うち9匹は無傷。往来を邪魔する魔獣がいなくなったことを、ベルガウの人達はとても喜んでくれた。

持ち帰ったラウクラウを村総出で解体し、毛皮を依頼所に売ったらなんと小金貨8枚になった。本当はもうちょっともらえるのだが、もう少しこちらに滞在するので宿代はタダということにしてもらった。


「剣の腕が上がったな。」

「師匠がすごいんだよ。」


 ディオンとの初めての共同討伐はなかなかにいい感じだった。


...まあ、ほとんどディオンがやったんだけどね。



 





ディオンは意外と研究者気質。

ラウクラウは黒いクマ。


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