パーティ結成
「ねえねえ、そのガントレット見せてくれない?」
まず、ライナが興味を引かれたのは、ディオンの腰にかけられた真っ赤なガントレットだ。ところどころに傷がついているがきちんと磨かれていて、とてもきれいだった。
「ああ、はい。」
ほいっと渡されたガントレットは見た目の割に重くなかった。シンプルな作りで、無駄なものを取り払った無骨な印象を受ける。表面には何本かの線がはしっていて、非常に美しい。
「きれいだね。長く使ってるの?」
「まあ、それなりに。愛着はあるな。」
優しい手つきでガントレットを腰に戻すディオン。その姿を見て、そういえば、と思い出す。
「ディオンは荷物どうしてるの?最初に見たときに思ったんだ。旅、してるんだよね?」
「ああ。人生のほとんどを旅している。荷物はほら、これに全部入ってる。」
ディオンが右手を見せてくれる。手には何も持っていなくて、言ってる意味がわからない。
「...なんにもないけど?」
「これだよ。」
ディオンが右手の薬指を動かす。ライナに見せていたのは、指輪だった。褐色の肌に映える、細い銀の指輪。これまたきちんと磨かれている。とてもきれいだ。
「この指輪には収納魔法が付与されているんだ。ここに食料や武器も入ってる。」
ライナのリュックの上位互換みたいなものだろか?想像もできないが、この指輪が魔法具だと言うことは理解した
「え?!じゃあこれって魔法具?!めっちゃ貴重なやつじゃんか!」
魔法具とは、魔法陣が付与された物で、魔術具とは違ってとても貴重な物だ。主に遺跡から発掘され、市場に出回ることはない。魔力がないと魔法陣が使えないので、魔法具を使うのは魔法使いに限られている。もちろん、ライナは見たこともない。
「魔法具...そうそう、魔法具。珍しいのか?」
「珍しいとかじゃないよ、超貴重で超珍しいんだよ!始めてみた...。どこかで発掘したの?」
「いや、そういうわけではないが...なんていうか、貰い物、かな。」
何だがふわふわした回答を続けるディオン。ライナは指輪とガントレットを交互に見て尋ねる。
「指輪してたらガントレットを装備したとき邪魔にならない?」
「この指輪はちょっと特殊なんだ。ガントレットを装備すると、指輪とガントレットが一体化する。だから戦ってる間は気にならない。」
頭がくらくらした。そんな細工が施された指輪とガントレットの値段を想像しただけでめまいがする。
...もしやディオンは王族とかそっち系のお貴族様の家系?
「言っておくが、どちらも貰い物だ。」
ヒッと息を飲むライナを見て苦笑したディオンがそう付け足した。
野営の夜。静かに焚き火が揺れている。少し距離を置いて、ライナはディオンの隣に座った。
「ねえディオン。ディオンはどうして旅をしているの?」
そう聞くと、ディオンはそっと指輪を撫でながら静かに言った。少し俯いたディオンの表情はよく見えない。
「...探し物を、しているんだ。」
「探し物?」
「ああ。昔、果たせなかった約束があってな。...俺は、その約束を果たすために、歩き続けているんだ。」
約束。それはきっと、ディオンにとって大切なものなのだろう。言葉を紡ぐディオンの横顔には、後悔の色が滲んでいる。焚き火の薪がパチっと爆ぜ、炎が揺れた。
「ディオンは、これからどこに行くの?」
「...俺の目的地は西の果ての魔王の城。そこで、約束をしているんだ。」
「え?!私達、目的地は一緒なんだ。」
「...ライナも?」
驚いて目を丸くするディオンに、ライナは少しの沈黙の後、ポツリと言った。
「...私はね、英雄になりたいんだ。」
「英雄...。」
「小さい頃からの憧れなんだ。人を助けたり、強い魔族を倒したり、みんなの平和を守る。それって、かっこよくない?」
ライナは膝を抱えて、真剣な表情で呟いた。
昔、夢を笑われた記憶が蘇って怖かった。けど、この人はきっと、大丈夫。わけもなく、そう思った。
「私も、誰かの平和を、笑顔を、守れる存在になりたい。......笑わない?」
そう言うと、ディオンは静かに琥珀色の瞳を細める。そして低く優しい声で言った。
「笑わない。誰かを守りたいと言えるのは、強さの証だ。己の強さを誇れ。」
「な...ありがと...。」
思わず視線を落とした。焚き火の炎がゆらりと揺れる。
自分の言葉を否定せずに、まっすぐ見つめるディオンの瞳がなんだかこそばゆくって...。ほんのり頬を染めながら、照れ隠しで言葉を紡いだ。
「だ、だからね、私は強くなりたいの!これから沢山修行して、最後は魔王を倒すんだ!」
ぐっと拳を握ったライナを、ディオンはどこか懐かしむような瞳で見ていた。
そんな視線に気付かず、ライナはバッと立ち上がる。そしてまっすぐ、ディオンを見た。
「よかったら、ディオンの力を貸してほしい。ディオンは強い。魔王を倒すためには、ディオンの力が絶対に必要になると思う。もちろん、ディオンの探し物も手伝う。」
「...どうして、俺が必要だと思うんだ?」
こちらを探るような目で見つめるディオンに腕を伸ばして、手を差し出す。
「ディオンは、私が今まで見てきた人の誰よりも強い。根拠はないけど、私の勘が、ディオンを連れて行けって、言ってるんだ。」
ディオンからはただならぬ気配を感じた。昔から勘が良かったライナは、自分の直感が正しい事を知っている。
「ディオンは私の夢を、目標を笑わなかった。ディオンとならいい旅ができると思う。だから、一緒に行こう!」
きっぱりと言い切ってディオンを勧誘するライナ。それをみたディオンは小さく笑って立ち上がる。眩しいものを見るような表情のディオンが、すっとライナに手を差し出した。
「...ありがとう。」
そして、ライナは大きくて硬い手とぎゅっと握手した。
「一緒に行こう、ライナ。お前が目指す、英雄のところへ。」
「ねえ、本当にいいの?私のテントに入ってもいいんだよ?」
夜、テントを出して寝る準備を整えていたライナは、ディオンがなんの準備もしていないことに気付いた。聞けばディオンは毛布一枚で地面に横になって寝るんだと。
「もうずっと、こうやって寝ているから。危険はない。」
「流石に結界は張ってるんだよね?」
ディオンが寝ようとしている地面は、ライナの結界の魔術具の効果範囲の外だ。流石に心配すぎる。朝起きたら出会ったばかりのパーティメンバーが死んでいる、なんてことはやめてほしい。
「もちろん。」
そう言っているが、実際のところ、結界の魔術具は見当たらない。本当に大丈夫なんだろうか?さっさと毛布にくるまってしまったディオンを放ってはおけず、ライナは自分の結界の魔術具を動かして、ギリギリ自分とディオンは結界内に入るようにして寝た。




