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神代の英雄  作者: 朧 夕映
北側諸国・アストラディア帝国
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古い友人

「何やってるんですか!貴族の私兵に目をつけられるなんて!」


 別行動の2人に南地区でのことを報告すると、フィオが目を三角にして怒り始めた。ライナとゼルンはフィオの前で大人しく座っている。フィオの後ろでは、ディオンが壁に寄りかかって説教を聞いていた。


「いやでも、あれは不可抗力で...。」

「そーだそーだ。捕まんなかったんだから、褒めてくれてもいんじゃねーの?」


 ライナとゼルンの口答えに、フィオの目がキッと鋭くなった。余計に怒らせたようだ。ライナは何となく背筋をのばした。


「帝都は外壁に囲まれた狭い場所なんです。いつ、どこで、誰に見られているかわからないんですよ!それに、3人は特に目立ちますし。あっと言う間に消されますよ!」

「え、俺目立つ?」


 まったく巻き込まれると思っていなかったディオンが目を丸くして壁から背中を離した。ディオンをちらりと見て、フィオは話を続ける。


「ライナは大剣、ディオンはエルフとガントレット。ゼルンはガラが悪い。」


 ビシッビシッビシッと1人ずつ指をさされ、ライナは横に置いた大剣を撫でた。確かに、この英雄の剣は他と比べても大きいと思う。

 ガラが悪いと言われたゼルン以外は、素直に頷いた。


「なんかひでえ。」

「ライナは剣を、ディオンはガントレットをしまって下さい。ゼルンは服装だけでも整えて。いいですね?数日中に、魔導総院の許可証を取得できるはずです。それまでは、ぜっっったいに!問題を起こさないで下さい。」

「...はい。」

「...あいよ。」

「わかった。」


 ライナは剣に布を巻いて、リュックにしまった。流石に丸腰はそわそわするので、南地区で買った短剣を腰に下げて、服で隠した。

 その後、フィオの指示でいくつか服を購入した。フィオいわく、帝都ではライナ達の服装が悪目立ちするらしい。ちなみにディオンが帝都にいた当時に着ていた服を見せてくれたが、時代遅れすぎて着れなかった。






 許可証の発行を待っている間に、今後の予定を話し合う。今日も辛い昼食を食べながら、4人で内郭の地図を囲んだ。


「魔導総院に入ったら、まずは俺の知り合いを探す。」

「総院で働いてる知り合いだっけか?」

「ああ。ハイン・ヘルヴェスと言う男で、若いのに優秀な奴だ。」


 ディオンの感覚の「若い」がどれくらいなのか想像できないが、信頼しているようなのでいい人なんだろうなと思った。


「何をしている人なの?その、ハインさんは。」

「俺が最後に会った時は...魔導総院の入学者選定をしていたな。あとは、総院に関わる者の人事の仕事か。」

「でも今はそこにいるかもわかんないんだろ?いたとしても、会えるか分かんないんだし。運任せすぎないか?」


 ゼルンがそう言うと、上品に魚を食べていたフィオが1つ息をついて言った。


「もし、ハインさんとお会いできなかった場合は私が話をしましょう。魔導総院出身ですので、融通はきくと思います。」

「頼んだぞフィオ。」

「ありがと、フィオ。」

「......俺には...?」




 言われた通り、英雄の剣を隠して、宿周辺を散策して過ごして数日。ようやく許可証を取得できた。帝都は雪が降る事が増えてきた為、外に積もった雪をどけながら、内壁の北にある魔導総院への出入り口に向かった。

 内郭の出入り口には大きな大きな扉があり、第1時鐘から第5時鐘まで開いている。自由に出入りしているのは、魔導総院関係の人々や、商人の類だ。ライナ達は、扉の横にある、小さな建物の中に入った。

 そこは検問所のような場所で、ライナ達と同じように初めてここを通る者や、特別な許可が必要な物を運んだりする者などが多くいた。


「許可証をお出し下さい。」

「はい。」


 フィオが、4人分の許可証を受付に出した。それを受け取った受付の男性は1度奥に持っていって、首から下げる紐をつけて許可証をフィオに返した。


「こちらを首からかけていて下さい。必要ない時には、服の下などにしまい、盗難や紛失にご注意下さい。」

「ありがとうございます。」


 受け取った銀色の許可証を首にかけて、ライナはワクワクしながら魔導総院の敷地内へ足を踏み入れた。




「大きい...。」


 内壁の出入り口の先には、大きな建物があった。青い尖塔が幾重にも重なり、陽光を受けてまばゆく輝いている。白と淡い橙色の壁は柔らかく光を反射し、広がる翼棟はまるで大きな城そのものだった。

 正門へ続く石畳の道には、色とりどりのローブをまとった若者たちが行き交っていた。深い紫、鮮やかな緑、紺や白。胸元には家紋や階級章がきらりと光る。


「すんげえ...ここにいるの皆、魔導師の卵かあ。」


 魔導総院を初めて見るゼルンも、ライナと一緒にキョロキョロしている。


「魔導総院には、魔導師教育機関と、卒業した魔導師が所属する行政機関がある。俺達は行政機関の方へ行くぞ。」


 多くの院生の視線が向けられ、戸惑うライナとは違い、ディオンとフィオは迷いなく魔導総院に入っていった。2人に置いて行かれないように、急いで正門をくぐった。

 正門から入ったそこは、大広間になっている。なんと、上を見ると天井が見えない。光の柱が5本も立っていて、そこを半透明の箱が上下している。


「ねえねえ、ここどうなってるの?!あれは何?!」


 上を指さしながら、フィオの袖を引っ張ると、快く教えてくれた。


「私達のカバンと同じように、建物全体に空間拡張の魔法が施されていて、魔法陣がここの地下に刻まれています。院生や、魔導師候補生、魔導総院に所属する魔導師の全ては、この魔法陣に魔力供給する義務があります。」

「へえ...。」




 ディオンが向かったのは、広間の中央階段だ。大きくて長い階段を登った踊り場の壁が、一部輝いている。


「ここから、まずは院長室へ行く。」

「ディオン。2人は界鏡を知らないのですから、院内ではぐれたら見つけられなくなりますよ。」


 フィオがなんとも不吉な事を言うので、ライナはゼルンと顔を見合わせる。

 言われたディオン頷いた。光る壁を指さしながら言う。


「これは転界鏡と言う。広い院内を移動する手段の1つだ。院生は魔力が登録されているが、俺達はこの許可証がないと界鏡が使えない。」


 ディオンが首にかけた許可証を服の下から出して、それを界鏡に押し付けた。

 それまで白っぽく、虹色に輝いていた壁が、一瞬揺れたかと思うと、霧が晴れるように界鏡に映る景色が変わった。


「え、すごーい!ここどこ?」

「院長室前だ。界鏡は院内のいたるところにあって、移動先を言うとそこにある界鏡へつながるようになっている。」

「ゼルンとライナも、許可証を当てて下さい。」


 フィオに促されて、ライナも許可証を界鏡に当てた。特に変化はない。


「くぐりますよ。」


 前方にいたディオンが、界鏡に消えていく。フィオに促されて、界鏡初体験のライナとゼルンがくぐった。

 何か薄い膜を突き破ったような、不思議な感覚が一瞬したと思ったら、次の瞬間には。全く別の場所に立っている。思わず目を瞑ってしまったので、視界がどうなったのか気になるが、また使う機会があるだろう。その時に確認することにした。


「うぅぅ...。」


 ゼルンは顔色が悪い。ライナは、薄膜を突き破るような感覚が気持ちよかったが、ゼルンは気持ち悪いらしい。

 後ろからフィオが出てきて、全員無事に移動できた。


「大丈夫か?」

「...俺、これ嫌い...。」




 ディオンの案内で、ライナ達は長い廊下を進んでいく。界鏡1つくぐっただけで院生があまりいない区域に来たようで、たまにすれ違う程度だ。


「院長室へ行くの?」

「いいえ。院長室は既に通りすぎていますよ。院長室の先の界鏡が、行政機関が集まる城につながっています。おそらく、そこへ行くのでしょう。」

「フィオは来たことないの?」

「私は院生として総院にいたので、この付近へ来ることはありませんでしたね。もちろん城へも入ったことはありませんし...。」


 と言うことは、ディオンの記憶が頼みの綱だ。広い院内で迷子にならないように頑張ってほしい。


「ハインってやつがどこにいんのか知ってんの?」


 前方のディオンにゼルンが話しかけた。


「宮廷勤めだから、聞けば分かるだろう。」

「不安すぎるんだけど…。」




 2つの界鏡を通り、ついに城に到着した。

 魔導総院とは違い、明らかに仕事場と言う雰囲気の場所だった。忙しそうに移動する人や、難しい顔をした人が沢山いる。

 人混みに埋もれないように必死でディオンについていくと、受付のようなところに到着した。

 深い青色の制服の女性に、ディオンは躊躇なく話しかけた。


「ハインと言う者に会いたいのだが。」

「身分証はお持ちですか?」

「......これは、使えるか?」


 ディオンが出したのは、いつかの魔導院の身分証だった。

 それを手にした受付の女性は受け取って、少し見て、驚きの表情でディオンを見た。


「まさか...エルディオン様ですか?」

「ああ。」

「しょ、少々お待ち下さい!」


 フェルグラントでの対応とはまた違う。流石はアストラディアの帝都、星鋼板の存在が伝わっているらしい。


「お前、なんかやったの?」

「いや...まあ.....。」

「歯切れ悪すぎんだろ。」

「ちょっと、研究を手伝ったくらいだ。あと...一時期、教鞭を取っていた。」

「え!ほんとに?!」


 衝撃の事実。ディオンは教師の経験をしていたらしい。

 通りで説明が上手いわけだ。そういえば、フェルグラントでは弟子を取っていたらしいし、ディオンはなかなかに多彩なようだ。


「でもさ、前に私に教えてくれた時は、他人への教え方がわからないって言ってたでしょ?」

「それは魔力やら魔法やらの話だろう?俺が教えていたのは魔法理論なんだ。」

「意外と学者系なんだ。」

「その見た目で魔法理論かあ...。いやまあ、研究者なのはなんとなく知ってっけどよ。」


 ディオンは研究者気質で、今までもそれっぽい感じがしてたが、まさか理論を教えていたとは思わなかった。正直、想像ができない。

 ディオンの話を聞いているうちに、受付の女性が戻って来た。


「エルディオン様。お戻りになるのを魔導総院一同、心待ちにしておりました。応接室にハイン・ヘルヴェスを呼びますので、そちらへご案内致します。こちらへどうぞ。」


 なんと、丁寧に案内してくれるらしい。ディオン様々だ。




「こちらです。」


 美しい装飾が施されたドアの前に案内された。全体的に青色と黄色でまとめられた場所は、廊下に敷かれた厚い絨毯も、豪華な腰壁も見るからに上流階級の仕様で、ライナはなんとなく服のシワを伸ばした。隣を歩くゼルンも心做しか体が強ばっている。


「失礼します。」

「どうぞ。」


 中から男性の声がして、受付の女性がドアをゆっくりと開けた。




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