1、白光の葬列
大陸暦三四〇年二月下旬。大公国の二月は、本来ならば精霊の吐息のような静謐な銀世界であるはずだった。
しかし、この年のリソスフェア地峡の中間線では、騎士や歩兵たちの足元で、雪解け水を含んだ泥が粘りつくような音を立てている。大公国は依然として雪と氷の支配下にあるが、兵士たちの吐息と煮炊きの熱、そして焦燥が、純白の雪を汚れた黒い泥へと変えていた。
帝国の首都ワプティアで和平のテーブルが整えられているという噂は、このぬかるみの中までは届かない。届いたとしても、明日の朝食の献立ほどにも関心を引かなかっただろう。ここでは、目の前の敵の存在だけが現実だった。
帝国軍の陣地には、それまで見たこともない巨躯の投石器が並んでいた。運搬中に死んだ馬の数を聞かされた若手の将校が、耳を疑って聞き返したほどの代物だ。将軍コイヌール公爵が持ち込んだその兵器が放つのは、単なる石ではない。着弾と同時に魔力による爆発を引き起こし、周囲を白光で塗り潰す。
初弾が放たれたのは、空が白み始める前、カラスが鳴き声を上げるよりも早かった。大理石で築かれた大公国の防御陣地を形成する城塞の壁に一発の弾丸が吸い込まれ、大きな振動が地面を伝わってくる。遅れて届く轟音。崩れた石の破片が雨のように降り注ぎ、大公国軍の頭上に降り注ぐ。
陣地の奥、コイヌール公爵は天幕から動かなかった。司令部に据えられた魔法の日時計が静かに刻を知らせていた。公爵はその影が示す時間と、窓の向こうで少しずつ、だが着実に形を崩していく城壁を交互に見つめていた。
「……三十分、か」
公爵は誰に言うでもなく呟き、卓上の冷めたスープに手を伸ばした。彼はそれを一口含み、すぐに吐き出した。
「冷めすぎている。次は、もう少し……いや、いい。後でいい」
窓の向こうでは、再び白い光が爆ぜた。崩落の響きは、風に乗って東へと流れていく。ワプティアの宮殿で和平交渉を行う大公国の代表団の耳に届くには、まだ音量が足りない。
斉射は止まなかった。不落と呼ばれた城塞は、その日のうちに、積み上げられた瓦礫と粉塵の山になった。立ち昇る灰色の煙は、大公国の空を、暗く染めていく。前線の者たちの口の中は、常に石灰と砂の味がしていた。




