第9話:玉座の廃棄と船底の真理
玉座の上で、王は娘の変貌と、自身の失敗作から生まれた王の不名誉の笏の圧力に打ちのめされていました。
王女ユリアナは、その笏を手に、微動だにしないケンジの隣で立っていました。
「お父様、あなたはこの天空船を、最も高貴で清潔な場所だと信じていたでしょう? でも、この船はただの巨大なゴミ収集運搬装置よ。下界の塵芥を避けるため、毎日大量の廃棄物を生み出し、そして船外へ投棄する。本質は、最大級の廃棄物生産工場に過ぎない」
ユリアナ王女の口から出る言葉は、もはや王族の言葉ではなく、狂気に満ちた「廃棄物哲学」の宣言でした。
ケンジは、玉座に座り込んだまま動けない王を見下ろしました。
「王よ。お前の存在も、もはや「不要な権威」という「処理すべき廃棄物」だ。だが、お前が支配していたこの天空船には、まだ我々が回収すべき「究極の資源」が眠っている」
王は震える声で尋ねました。
「きゅ、究極の資源…だと? この船に、そんなものがどこにある!?」
ケンジは、玉座の後ろにそびえる、船の巨大な制御装置を指差しました。その制御装置は、複雑な魔法陣と機械で構成され、天空船の航行と防御を司っていました。
「お前たちが「最も恐れている場所」、そして「最も効率の悪い方法で隠しているもの」こそが、最高の資源だ」
ケンジは説明しました。
「この船は、下界の汚染を避けるために、船底に「瘴気遮断層」を設けている。その層は、下界の全ての毒素、悪意、汚染物質を、何世紀にもわたって吸収し続けている。貴様たちは、それを汚染として恐れ、触れないように魔法で遮断しているだけだ」
ユリアナ王女の顔が、期待で輝きました。
「ああ、それは! 純粋な悪意と生命力の濃縮液よ! お父様たちが「世界を腐敗させる毒」と呼んで恐れていたものが、実は究極の魔力源だったのね!」
瘴気遮断層。
それは天空船の貴族たちが下界の「汚い世界」から身を守るために設置した、いわば巨大な魔力フィルターであり、ケンジの推察では「超高濃度の廃棄物貯蔵庫」でした。
「王よ。お前が持つ最高の権威は、この「王の不名誉の笏」で娘に受け継がれた。そして、お前が恐れた最高の汚染物質は、我々の最高のエネルギー源となる。これで、お前の役割は最終廃棄物として完了だ」
ケンジは、倒れた警備兵の甲冑の破片を回収し、狂乱の増幅装置に結合させました。
王が恐怖で声も出せない中、ケンジと王女は玉座を後にしました。
彼らの背後では、王が「私はまだ終わっていない!」と叫びながら、自身の「不要な情報」であった書類の残骸を無意味に掴んでいました。
二人が目指すのは、天空船の最下層。瘴気遮断層の貯蔵庫でした。
王女は、自身の足元を流れる汚水すら愛おしそうに見つめながら、ケンジの隣を歩きます。
「この船の誰もが恐れる「船底のゴミ溜め」…そこが私たちの王国の始まりなのね、ケンジ」
「そうだ、ユリアナ。我々は、この船の最も汚い底から、世界を支配する。なぜなら、最も汚いものこそが、最も純粋な力を秘めているからだ。行こう、究極の廃棄物資源を回収しに」
二人は、「ゴミ」を崇拝する狂気の王と王女として、天空船の構造を熟知した王女の案内のもと、船底の暗闇へと足を踏み入れたのでした。




