第5話:王女の悲鳴とカビのローブ
錬金術師を自身の生み出した複合汚染術式で撃退したケンジは、さらに天空船の中枢へと向かいました。
彼は、この船の最も「純粋で高貴な廃棄物」が、船の持ち主、すなわち王族の生活区画に集中していることを知っていました。
彼が到達したのは、王族専用のプライベートガーデンを囲む、豪華な通路でした。
その通路の突き当たりにある扉が半分開いた部屋から、微かな女性の悲鳴と何かが砕ける音が聞こえてきました。
「なんだ、トラブルか。まあいい…どうせ騒音という名の不要なエネルギーが手に入るだけだ」
ケンジは扉を押し開けました。
そこは、この国の王女、ユリアナ・ロドウェルの自室でした。
王女は、豪華なドレスを着て床に座り込み、顔を覆っていました。
部屋の中央には、美しく飾られていたはずの巨大な花瓶が粉々に砕け散り、床には水と土、そして鮮やかな花びらが散乱していました。
王女の近くには、一人の老執事が立っていました。執事は狼狽しており、王女に話しかけています。
「申し訳ございません、ユリアナ様。私が運び方を誤ってしまいました。すぐに片付けさせますので、ご安心を…」
「もういいわ、下がって。この醜い失敗を見たくないの。なぜ、この世の美しいものはすぐに壊れて不要になるのかしら!」
ユリアナ王女は、純粋な美が失われたことに感情を爆発させていました。
この状況は、ケンジにとって最高の資源採掘チャンスでした。
ケンジは、散乱した破片と土に目を向け、すぐに廃棄物の鑑識と再資源化スキルを発動しました。
「これは、希少な魔力土壌だ。ガーデンから持ってきたものだろう。そしてこの花びら、高貴な魔力を帯びた幻の花だ。しかし、水に濡れて細胞が壊死し、急激に魔力が放出されている。そして花瓶、ただの陶器じゃない。精霊の祝福を受けた特別な粘土が使われている」
これらは王女にとっては「醜い失敗作」であり「ゴミ」でしたが、ケンジにとっては「魔力を失いかけた最高級素材」でした。
ケンジは部屋に乱入した自分の存在を無視して砕けた花瓶の破片と魔力土壌、そして潰れた花びらを大量に集めました。
「な、何者だ貴様は! この汚いなりで、王女様の部屋に侵入するとは!」
執事がケンジに詰め寄りましたが、ケンジの全身から漂う悪臭と、彼の瞳の狂気的な輝きに、一瞬で怯みました。
ケンジは執事を一瞥すると、彼が羽織っているカビが生えかけたローブに目を止めました。
「そのローブ、魔導師が秘匿していた古い術式が染み込んだ布地だな。湿気でカビが生えたために捨てられる寸前か。だが、そのカビこそが、術式を固定する最高のバイオ触媒になる」
ケンジは、迷うことなく執事からそのローブの端を無理やり引きちぎりました。
「ひいいい!」執事は悲鳴を上げました。
ケンジは、引きちぎったローブの切れ端と、花瓶の破片、魔力土壌、そして花びらを組み合わせ、再資源化スキルを発動しました。
再資源化プロセス:
素材A(基盤):精霊粘土の花瓶破片(破損した精霊の魔力)。
素材B(強化):魔力土壌と幻の花びら(放出された高純度魔力)。
素材C(触媒):カビの生えたローブの切れ端(古い術式の固定とバイオ触媒)。
結果:瞬間の絶対美のブレスレット。
瞬間の絶対美のブレスレット:使用者が「美しい」と感じた瞬間、その瞬間の美しさを魔力として抽出し、物理的な防御壁に変換する。ただし、醜いものや不潔なものを見た瞬間に魔力が暴走し、自爆する可能性がある。
「完璧だ。貴族の虚栄と、美の崩壊から生まれた、最高の盾だ」
ケンジはブレスレットを装着すると、呆然としているユリアナ王女に向き直りました。
「貴様、何をしている! 早くこの男を捕らえろ!」執事が警備兵を呼びに走ろうとしました。
「王女様」ケンジは王女に声をかけました。
王女は、目の前で自分の「失敗作」から新たな狂った道具を生み出したケンジの姿に、恐怖よりも奇妙な魅力を感じていました。
「お前が捨てた、崩壊した美は、俺が受け取った。そして、それは今、絶対的な力としてお前に立ち向かうだろう。なぜなら、お前たちが真の価値を見抜けず、全てをゴミとして扱ったからだ」
ケンジの瞳は、ゴミ処理場の炉の炎のようにギラギラと輝いていました。
これはなにであろうか




