第3話:天空船への侵入と臭気の祝福
ケンジは、自身がゴミから生み出した銀色の貴族の虚栄の拳を装着し、天空船の排出口の真下まで到達しました。
船体は神聖な魔法で守られているようでした。
排出口だけは、大量の物質を投棄するために定期的に開き、防御が手薄になる瞬間がありました。
「防御魔法の起動パターンは、投棄終了後、三秒後か。その三秒で侵入する」
ケンジは焼却炉の監視員時代に培った炉内の複雑な動きを瞬時に見極める集中力で、排出口の動きを観察しました。
そして次の投棄の瞬間を待ちました。
ゴウッという音と共に排出口が開閉しました。
ケンジは全身のバネを使って跳躍し、汚染と浄化のスティックを投棄口の縁に突き立てました。
スティックは排泄物と腐敗物から抽出された魔力で一時的に粘着性を帯び、彼を船体に固定しました。
彼は、まだ排出口から滴る、貴族の残飯と油が混ざった粘液で全身を滑らせるように、排出口内部へと滑り込みました。
内部は、外とは比べ物にならないほど清潔で豪華な、大理石の通路でした。
だが、ケンジにとっては、それは逆に違和感でした。
「なんだ、この効率の悪い構造は。通路の隅には埃が溜まっている。これを集めれば、上等な魔力の触媒になるのに。そして、この大理石は再利用できる珪素化合物だ。捨てておくなんて、資源の無駄遣いだ」
ケンジの論理は、全てを資源として捉えるという、この世界の誰にも理解できない基準で構築されていました。
彼は通路を進む途中、一人の見習い騎士と遭遇しました。
騎士は豪華な銀色の甲冑に身を包んでいましたが、顔を青ざめさせていました。
彼の仕事は、ゴミの投棄作業の監督だったのでしょう。
「な、貴様! なぜこのような場所に! 貴様は船外の汚れた人間か! 触るな、この臭い男め!」
騎士は、ケンジの全身から発せられる、排泄物と発酵ガスとゴミの複合的な悪臭に耐えられず、剣を抜きながらも後ずさりました。
ケンジは笑いました。
それは、ゴミの山の上で見たときと同じ、不気味で狂気に満ちた笑みでした。
「臭い? 馬鹿め。これは祝福された臭気だ。この臭いは、お前たちが日々生み出し、そして恐れて捨てた、純粋な生命力と魔力の結晶なんだぞ」
ケンジは一歩踏み出し、貴族の虚栄の拳をその騎士の胸板に叩き込みました。
ガキン!
騎士の甲冑はびくともしませんでしたが、ナックルダスターの効果が発動しました。
貴族の虚栄の拳 発動! 対象:見習い騎士の甲冑(防御力150) 防御力150を吸収! ケンジの嫌悪感耐性が上昇!
「くそ、この攻撃は効かない! だが、なぜか急に気分が悪くなってきた! まるで胃の中のものが逆流しそうだ!」
騎士は甲冑の防御力が奪われたことには気づかず、ケンジの存在そのものから来る強烈な生理的な嫌悪感に襲われて、その場に膝をつきました。
ケンジは、騎士の顔を覗き込み、甲冑の表面に薄く付着した油汚れを指でぬぐいました。
「ふむ。この油は、上等な機械油と、昨晩の晩餐会の魔物用高級バターの残りか。これは使える」
ケンジは、騎士がもはや自分に強い嫌悪感しか抱いていないことを確認し、彼の甲冑の隅々まで付着している不要な汚れを丁寧にかき集め始めました。騎士は、恐怖と嫌悪で失神寸前でした。
「お前たちが汚いと言って捨てるものこそが、俺のエネルギー源だ。この船は、俺にとって最高の資源採掘場だ。遠慮なく、全てを頂かせてもらうぞ」
ケンジは、ゴミの王として、天空船という名の巨大な廃棄物コンテナを支配下に置く第一歩を踏み出したのでした。
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