スイッチ
「お客さんでねー実家でトマト作ってるらしくってー何か死ぬほどくれたんだけど、店で使いきれないから持ってきなー!」
とマスターがトマトをスーパーのビニール袋にたっぷり入れて渡してきた。
トマトかー
まあ嫌いじゃ無いんだけどなー
消費は潰して煮込むのが一番手っ取り早いが
ソースとかにするとモロあれだよなあ…
暫くケチャップとかそれ系は避けていた。
試してないがまだ平気か全く分からない。
どう消費するか…
まあ直樹も育ち盛りだし野菜も沢山食べさせ無いとなーと親心…父親は佐々木さんに奪われたから母心が疼いていた。
トマトは色々栄養あるしなー
まあ頑張って食べよう。
夏だしおやつは冷やしトマトだな
サラダやパスタでカットしたの沢山乗せて…
後は食べきれなかったら店にキックバックだな。客に押しつけよう
等と考えながら持ち帰った。
次の日の昼飯時になって、何か作ろうかと思案していたら、直樹も何か手伝うとキッチンにやって来た。
本当にいい子なんだよなー。
ウチの子にならないかなー
なんて考えていた。
そう言えば直樹も17歳で背も少し伸びた。
少し大人びてきた。
高橋もあの頃は子供っぽかったけど生きていれば少し男っぽくなったんかな…
と、やはり同い年の直樹を思うとどうしても高橋の事を思い出すキッカケになってしまう。
忘れてはいけないと思っているけど、忘れる事は許して貰えないのだろうか…
多分一生何かの折に思い出すんだろう。
「アッチで先に待ってる…」
この言葉で高橋に呪いをかけられたんだろう…
死んだら許してもらえるんだろうか…
トマトと相まってどんどん思考が闇に入ってしまったので話題を切り替えよう。
とりあえず直樹にトマトを何個か洗わせていた。
「直樹、トマト生でも平気?」
「うん。全然大丈夫。暑いし生の方が良い」
そう言いながら辿々しく洗ってシンクの中で
ザルに入れていた。
一つとってかじってみた。
「うん、ちゃんと熟れてる。多分これ以上熟れるとぐちゃぐちゃになるかもな。やっぱり早めに食べた方がいいか…」
「どんな感じ?それで良いから頂戴」
そう言ったので、直樹にかじり掛けのを渡そうとした。
手が滑った。
直樹の手に渡らず床に落下した。
タイミング悪く高橋の事を思い出していた…
まるでスローモーションみたいだった
ヤバいかもこれ…
落ちたトマトはまるで…
あの時の高橋の頭みたいに潰れて飛び散っていた…
トイレに間に合わなかった…
口を手で抑えたけど
手の隙間を縫って次から次へと胃液やら胃に入っていた物を次々吐き出していた…
もう何も出てこないのに、えずきが止まらない…
目は苦しくて涙目になっていた…
気がついたら、床やら俺の手やらTシャツやら顔やらドロドロで、独特の匂いで充満している
そんな俺を直樹は頭から抱きしめて
「大丈夫…大丈夫…」
とずっと言っていた。
外で蝉がうるさく鳴いていた




