09:戦闘幹部とお夕食-4
「ヒューイのお父さんはどうだった? 魔法使えたっていうなら、やっぱり若く見えたのか?」
「そうですね……。自分の親なのでよくわかりませんが、母はいつも『お父さんはいつまでも若くてかっこいいわ』って自慢してました。ええ、村の女の人達もそう言ってた様に思います」
「村の女の人……」
男ばかりの軍艦で暮らしている彼らは、その言葉に思わず反応した。
「……お父さん、結構もてたんじゃないのか……?」
「え? な、なんでですか?」
「だって今の言い方だと、女達はお前のお父さんが若くてかっこいいとか言ってたんだろ?」
「え? いや、あの……た、確かにうちの村、若い男ってたいてい出稼ぎに出ちゃうから、その、若く見えるとちょっともてたりして……まぁ、母はそれが少し自慢だったりしたみたいですが……あ! でもその、浮気とか、そういうことはなかったと思います!」
こんな話を雲の上のような人達に話してしまって良いのかも分からないが、とにかく訊かれたことには正直に話さなくてはと、ヒューイは必死だ。そんな可愛い顔したヒューイが赤くなって焦りながら話す様子に一同はなるほど、と頷いてから、それからがっくりと肩を落とした。
「……ヒューイの親父なら、絶対イケメンだよな……」
「ああ、知ってる。知ってるよ。イケメンって、魔法のあるなし関係なく、なんでかいつまでも年食わないんだよ」
「そうだよな……。艦長とかもそうですよね。艦長、今はまだ二十八歳ですけど、これから年食ってもいつまでも今のまんま若々しいイケメンですよ、きっと」
「そうそう。イケメンは良いよな。大体イケメンは禿げないんだよ」
さっきあれほど禿げの良さを主張していたデーリッヒまでそんなことを言ってみんなで仲良くがっかりしている。
「おいお前ら。ヒューイのお父上は魔法を使えたからゆっくり年をとっていたんだろう? 若く見えたからもててたんであって、イケメンだからだとはヒューイは言ってないぞ?」
「は? ヒューイの父親ですよ? イケメンじゃないはずないじゃないですか! 大体、ちょっと身体強化ができる程度なら、騎士団に入れるほどでもないですよね? ってことは、そこまで寿命長かったわけじゃないはずですよ。なのに若々しくてかっこよくて女にもてたんでしょ?」
「クソゥ……。イケメンめぇ……」
「何の話だ!」
ずっと海の上で暮らしている彼らは、そのほとんどが独身だ。別に妻帯を禁じられているわけではなく、もちろん陸に家族を持っている者もいるが、オーリュメール号の戦闘幹部達は独身が多かった。それは次男以下の者が多いというのもあるが、この厳つい相貌に女も男も寄ってこないから、といのも大きい。
元々、跡取り息子以外はなかなか女性と結婚できないこの世界である。だったら結婚しなくてもいいや、となるのも仕方がない。
「ヒューイ。お前はあんなおじさん達みたいになるなよ。お前は若くて可愛いから、きっと港のお姉さん達が可愛がってくれるはずだ。何なら今度一緒にナンパでもしに行こうか」
細マッチョで笑顔の爽やかなイケメン、テルーがこっそりとそう告げると、厳ついおっさん達が「テルー! テメェ、イケメン爆発しろ!!」などと叫び出す。どうやらオーリュメール号の戦闘幹部達は、相当仲が良いらしい。
「ありがとうございます、テルー補佐官。でも俺、まだ覚えなきゃいけないことがたくさんあるので、ナンパをしている暇はなさそうです。朝晩の素振りもしたいですし。一人前になったら、是非お願いします」
にっこりと微笑むヒューイに、おっさん達は心を鷲掴みにされた。こんなに可愛いのにナンパより素振りを優先するだなんて!! おっさんヒューイを応援する! もうなんだって応援しちゃうんだから!!
「ヒューイ! ほら、もっと飯を食え!」
「そうだ! 俺のお肉もあげちゃうぞ!」
どさどさと、急にヒューイの皿の上に肉を積み上げ始めた幹部達に、ヒューイは目を白黒させながら、それでも「ありがとうございます」笑顔で礼を言った。
もちろん食べきれない程の肉は、イグニスがきちんと元の持ち主に返還したが。
「ヒューイ、今日は貴重な話を聞かせてもらった。朝晩の素振りは千回でなくてもかまわないが、できるだけ続けておくと良い。お前はきっと将来その実力に見合った地位に就けるだろう」
「ありがとうございます。ご期待に添えるよう、精進します」
イグニスの激励にヒューイははっきりと返答し、その場の幹部達はみんな満足そうに頷いた。
◇◇◇ ◇◇◇