08:戦闘幹部とお夕食-3
どんな剣であろうと……、いや、地方の村で手に入るような量産型の剣なら尚のこと、剣には相当な重さがある筈だ。海軍で使う剣は魔法の付与がかかっているために普通の剣よりは軽いが、それでも千を振れない者も多い。水平長のオンゾだって、たまに千回の素振りを振れば「当分素振りは良いだろう」という気になるのに、それを、朝晩。小さな山間の村人が持つような剣に、魔法の付与などかかってはいないだろうに。
「なるほど……だからこその、あの剣なのだな」
イグニスが納得すると、先ほど給仕をしてくれたテルー艦長補佐官が手を上げた。
「質問良いですか?」
「許可する」
イグニスが許可すると、テルーがテーブルに身を乗り出してきた。
「なぁ、ヒューイ。山や高地に住む奴には、魔法が使える奴が結構いるって聞いたけど本当か?」
それに答えたのはヒューイではなく、インテリ眼鏡のアーレス航海士長だ。
「統計的に、魔力持ちは高地に多いというのは実証されているな」
その返事に、当のヒューイがきょとんとした顔をする。
「そうなんですか?」
「ああ。この統計上の事実は、ずいぶん前に確認されている。君の周りに魔法を使える者はいなかったか?」
「えっと……父は少し使えました。ほかにも何人か……。そんなに大したものではなくて、身体強化とか、ちょっと火の玉を出せるとか、その程度ですが。それより魔法を使えると言えば、やっぱり王立騎士団の方達ですね。魔獣が出ると王立騎士団の方達が来て、魔獣の死体を処理して下さるんです。魔獣が出て人が死んだり家が壊されたりしても、騎士団の人の魔法を見ると、俺達みたいな子供は少しだけ心が慰められました」
魔獣の死体をそのままにしておくと、魔獣から漏れ出る瘴気で大地が穢される。大地が穢れればその穢れがさらに魔獣を呼び、人も瘴気に侵され正気を失うと言われている。もっと実質的な問題としても、瘴気で穢れた土地では作物が育たなくなるし、川に魚も住まなくなるので、その土地で人が暮らすのはほぼ不可能になるのだ。
だから、魔獣が出ればその処理のために王立騎士団が村に来てその処理をする。まぁ、間に合えば魔獣を倒してくれたりするのだが、王都から離れた山間の村では、騎士団が到着するときにはもう魔獣は倒された後か、喰らい尽くすだけ喰らい尽くし、満足して村から去った後のことが多いのだが。
それでも、魔獣の死体を魔法で燃やし、土地を浄化してくれる王立騎士団は、とても格好良かった。娯楽など何もない村の中で見る彼らはまるで物語の主人公のようで、小さな子供達は皆、騎士団に憧れたものだ。
「ああ、王立騎士団は魔法騎士で構成されているからな。そうか、ヒューイはあいつらに会ったことがあるのか。あいつら、ほとんど化け物だろう?」
子爵家の三男だというエルベン砲弾長が王立騎士団を揶揄する。実は海軍と陸軍、王立騎士団はあまり良好な関係とはいえなかった。それぞれが自分のところが一番だと考えており、互いに敵対心を持っているのだ。
「大体あいつら、わざわざ王立とかつけてよ。海軍だって王立だっつうの」
「いや、それは他の騎士団と区別するためだろう?」
各領では、領主がそれぞれに騎士団を持っているし、神殿も騎士団を持っている。人同士の戦でも騎士団は必要だが、それよりもやはり、魔獣に対抗するためには騎士団は不可欠なのだ。
だが、アーレス航海士長が冷静にそう言い返すと、エルベン砲弾長とオンゾ水平長が一緒になって反論する。
「でもあいつらが化け物なのはほんとだろ!? 王立騎士団のドルネール総長なんて、俺の親父くらいの年にしか見えないのに、アレで百超えてるって話だぜ!?」
「魔法が体を活性化させるから細胞が若返って寿命が長くなるとかって話だけど、怖いっつうの!」
「百超えても剣振り回して魔獣の退治するなんて、普通に化け物だろ!」
「過去に百五十歳超えてた魔法騎士もいたらしいぜ」
「怖いって! それもう人間じゃないって!!」
一般的な寿命が七十歳で、八十を超えると生き神様扱いされるようなこの世界で、百を超えても戦陣の先に立って戦う魔法騎士は確かに恐ろしい。しかも総長の見た目はエルベン砲弾長の言うとおり、彼の父親と同じくらい……五十代かそこらにしか見えないのだ。
さすがに百を超えても健在なのは剣聖クラスの魔力量を持っている者だけだが、それでも王立騎士団の騎士達は、平均寿命が魔力無しの一般人より十から二十は長いという。