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07:戦闘幹部とお夕食-2

「早速だがヒューイ。君の出身地であるホルニー村は魔物に襲われて消滅したと聞いているが、君はそのとき現場にいたのか?」


 イグニスから訊かれたのはケンカの原因や普段の生活態度ではなく、それだった。艦長が自分の出自を知っていることに驚きもしたが、確かに入隊する時にホルニー村出身だと申告していて、村での生活もその時に少しだけ話すように言われた。きっと、あの村の中で、自分のような子供が生き残ったことに興味を持たれたのだろう。とにかく、訊かれたことにはきちんと答えなければならないだろう。


「はい。といっても途中までは戦ったのですが、途中で木の上に吹き飛ばされてしまい、そこで気を失ってしまって……気がついたら、村が全滅していたんです」

「木の上? それで魔獣には見つからなかったのか?」

「はい、うちの村の辺りに生えているのはソグド杉なので」


 ソグド杉は高山でよく見かける杉で、高さは十五メートル程もある。その木の上に投げ飛ばされたというのなら、相当な高さだ。


「なるほど。それでは大型の魔獣でも見つけづらいのかもしれないな。それで、魔獣は何が出たんだ?」

飛赤猴(ひせきこう)です。ご存じですか?」


 幹部達は顔を見合わせた。名前だけは知っている者もいるが、そもそもそれがどんな物なのか知識として知っていても、海側に住む者のほとんどは魔獣を見たことがない。海側の人間にとって、それはおとぎ話の怪物と変わらないのだ。


「うちの村のある山の奥には、飛赤猴という魔獣の巣があって、こいつが一番よく村に現れました。体長は二メートルもあって、真っ赤な毛皮で、火を吐きながら空を飛びます。奴らは女を襲って犯し、子供を攫って喰らうのです。俺達の村はこいつといつも戦っていて……でも、村を壊滅させたのは黒炎竜です」

「黒炎竜……」


 それは、災害級の魔物の名ではなかったか。そんなモノに襲われたのなら、王都であってもただではすまないだろう。それが、小さな村に……。


「黒炎竜は飛赤猴を喰らいます。飛赤猴を喰らいにうちの村に来て、うちの村はついでに潰されたのです。……俺は、何もできませんでした……。竜の尾に弾かれて、木の上に飛ばされて、枝に挟まれたまま気を失ってしまったんです。気がついたら、俺の村は焼き払われていました。俺は……何もできませんでした……」


 握りしめた関節が白い。ヒューイはぎゅっと唇を噛み、何かをこらえる顔をした。


「……そうか。辛い事を思い出させて悪かった。だが、それで分かった。お前は信じられないような化け物とずっと戦ってきたのだな。だからこその、あの剣技か」


 イグニスがぽつりと呟くと、幹部達は口々に「よく死ななかったな……」とか、「そんな化け物と戦うなんて大したもんだ」等と言ってヒューイを慰めてくれた。


「運が良かったんです。まぁ、杉の枝があちこち刺さったので大怪我はしましたが、命は無事でしたから……」


 ヒューイの顔には、自分だけ生き残ってしまったことに対する戸惑いや悔しさ、申し訳なさが見て取れた。ホルニー村は消滅したと聞いている。それならば、彼の家族がどうなったのかは、今更聞くことではないだろう。自分も一緒に最期まで戦いたかったと血の涙を流しながら、どれだけの夜、魔獣に殺された家族や友を想って来たのだろうか。


「……オンゾから聞いたが、魔獣と戦うために、ホルニー村では歩けるようになると剣を持つそうだな?」


 イグニスが話の向きを変えるよう試みる。いつまでも、こんな重い過去に捕らわれていては良くないだろう。

 だが、ヒューイの返事と言えば。


「はい。子供は飛赤猴に餌として狙われますので……。大人に助けを求めてるようでは生き残れないんです。だから……」


 ヒューイがそう言うなり、イグニスも、オンゾもデーリッヒも、その場にいる者は一斉に「しまった~!」という顔になった。


 重い。

 重すぎる。

 この子の過去は重すぎるぞ!!


「ゴ、ゴホ、ゴホン。そ、そうか。いや、今日の素振りも見事なものだった。よほどの鍛錬を積んできたんだろうな」


 イグニスの言葉に、ヒューイはふわりと花が開くように笑った。


「ありがとうござます。そうですね。村では毎日朝晩千回ずつ素振りをしていましたから。日々の鍛錬を褒めていただけると報われた気がします」

「朝晩……」

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