44:テッドという男ー2
いつも「真昼の月」に遊びに来て下さりありがとうございます。
大変申し訳ありませんが、来週の更新はお休みさせていただきます。
ちょっと明日からお出かけする予定で、PC持って行かれないものですから (>д<;)
再来週には更新できると思いますので、また遊びに来て下さいませ。
イヌ吉拝
ホルニー村の生き残り。一人生き残ったヒューイは、いつだって必死で戦っている。
テッドはヒューイの頭に手を置くと、グッと前後に揺らした。
「それでも、この年までお前は生き残ってきた。それがどれだけすごいことか、俺達なら理解できる。せっかく魔獣と戦う術を持ってるってのに、魔獣も出ない海軍になんかいたってしょうがないだろ?」
テッドの仕草は乱暴だったが、それでもヒューイを見る目は優しかった。それは彼の境遇を思い、彼の心情を理解している者の目だった。
山で魔獣と戦う生活というものがどういうものか、海で暮らす者には分からない。イグニスは、それを悔しいと思った。
だが、そんなイグニスの心情も知らず、ヒューイは子供のようにムキになってテッドの手から逃れようとしている。ヒューイの頭を丸々包めそうなほど大きな手だ。ヒューイがムキになればなるほど、テッドは面白がってヒューイの頭をぐらぐらと揺する。
それは、気心の知れた者同士のじゃれ合いに見えた。
「やめろよ! もう!! 勝手な事言うなよ! 俺、今ボルドー艦長の下で色々と勉強させてもらってるんだから! 俺は海軍で暮らしてくって決めたんだ! テッドの好きにはさせないんだからな!」
「うるせぇ。こっちで骨埋める気なら、まずはうちの連中を納得させろよ。お前が生き残ったらしいって聞いて、皆お前がうちに来るって思ってるんだぜ。急いで迎えに行ったってのに、お前、さっさといなくなってるしよ。マジで死んだのかと思ってヒヤヒヤしたぜ」
それを聞いて、さすがにヒューイは気まずく思ったのだろう。先ほどまでの勢いがそがれ、急にしょぼんと肩を落とした。
「だって俺はじいちゃんにセンレル村に行けって言われてたし、それにあんたが俺を誘ってたのだって、まさか本気とは思わなかったし……」
「本気だっつうの。今、魔獣を退治する奴がいなくて、魔獣が増えてきてるんだよ。俺はお前を育てて、ゆくゆくは一部隊任せようと思ってるんだぜ?」
────なに?
イグニスがその言葉に思わず目を見張る。隣にいたデーリッヒも驚いたように目を見開いていた。
今、なんと言った? 魔獣を退治するやつがいない……? それは、国防に関する重大事項ではないのか……?
「待ってくれ。魔獣を退治する奴がいない? 魔獣は剣聖を始めとする聖騎士達が退治しているはずだろう?」
イグニスが勢い込んで聞くと、テッドはそんなことも知らないのか?とでも言いたげに首をすくめた。
「ああ。なんでも、剣聖の一人が騎士団を退団したって話だぜ。元々剣聖は三人しかいないってのに。残った二人のうち、一人は団長? 総長? とかいう城の奥でふんぞり返ってるジジィだろ? 残った一人で山岳地帯の魔獣全部を相手になんかできっこねえからな」
「剣聖が一人退団した? そんな話は聞いていないぞ」
剣聖は現在三人。城の奥でふんぞり返っているジジィというのは、ドルネール王立騎士団総長のことだろう。イグニスも見た事はあるが、噂では百歳を過ぎているらしい。百歳と言っても全くそうは見えず、今でも第一線で魔獣を相手に大剣を振るうという。確かに髪はずいぶん前から真っ白だが、髪色を除けばせいぜい五十代にしか見えないのだから、魔力の強い人間がゆっくり年を取るといのは本当なのだろう。
もう一人は妖魔を使役して飛行団を作ってた飛行団長の剣聖・テオドール・デル・ソールズ。山のような大男で、魔獣に乗って空を飛び、彼の指揮能力は抜群で、集団での魔獣討伐に長けていると聞く。
そうして残る一人が若くして剣聖の称号を得た第一騎士団長、剣聖・ユグノー・アル・オニールだ。
聖騎士団設立以来の魔力を誇り、一騎当千の腕前は、ドラゴンすら一人で倒すという。災害級の魔獣が出れば、必ず彼の指揮する第一騎士団がそれに当たってきた。
ドルネール総長もソールズ飛行団長も、共に歴史と伝統ある伯爵家の当主で、国への忠誠心は折り紙付きだ。最も若いオニール第一騎士団長────最も若いと言っても、確かイグニスと同い年だという話だが────そのオニール第一騎士団長は、幼い頃から王城の中で殿下達と共に育てられた為に、こちらも王宮と騎士団を急に見限るような人物とは思われない。
そのうちの誰かが退団? そんな重要な情報が、いくら自分たちが海軍とは言え、共有されないはずがないだろう?
この男が口から出任せを言っているのか、不確かな噂話を信じ込んでいるのか、それとも……。




