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43:テッドという男ー1

   ◇◇◇ ◇◇◇



 三ヶ月の巡視航海を終え、オーリュメール号はやっとバスパト港に入港した。久しぶりの揺れない地面に、懐かしい違和感を感じる。


「ヒューイ、この後私はオグール提督の元に報告に行くが、君はこの後はデーリッヒの指示に従って動いてくれ」

「畏まりました」


 艦長室の荷物を副館長のデーリッヒとヒューイと預け、港に降りた所で指示を出していると、大きな声が軍港内に響き渡った。


「よう、ヒューイ! 探したぜ!」

「あ! ダメです! 勝手に入り込まないで下さい!!」


 山のような大男がずかずかと軍港内に入り込み、それを数人の警備兵が押しとどめようとしている。イグニスとて背はかなり高いのだが、そのイグニスから見ても頭一つ分は大きい。警備兵が束になって止めようとしても、まるでそこに誰もいないかのように男は三人に近づいてきた。その男を見て、ヒューイが驚いたように声を上げる。


「テッド!?」

「テッド?」


 どうやらヒューイの知り合いのようだ。イグニスの警戒心はいやが上にも高まった。

 ここは軍港だが、彼は水兵の制服は着ていないし、海軍相手に出店を出している男や荷運びにも見えない。大きな体に見合う立派な剣を腰に下げているが、まさか海賊が入り込んでいるわけでも無いだろう。だが、警備兵を物ともせずにこんな所まで入り込んでくるなど、普通に逮捕案件である。


「ヒューイ、彼は?」


 イグニスはヒューイを庇うように一歩前に出た。知り合いのようではあるが、だからといって軍港に無断で立ち入るような不届き者である。イグニスが警備兵に視線をやると、警備兵達は慌てて「申し訳ありません!」と頭を下げた。


「ボルドー艦長の従卒であるヒューイ殿の親族だと言って、家出坊主をとっ捕まえに来たと……。もし会わせなければ誘拐罪で海軍を訴えると抜かすものですから、我々としても対応に苦慮しておりまして」

「ヒューイ。お前の親戚なのか?」

「違います! テッド、何でそんな嘘言うんだよ!」

「こうでも言わないとお前さんに会わせてもらえんだろうからな」


 テッドと呼ばれた男は全く悪びれた様子もなかった。しかもその大きな手でヒューイの腰をひょいと掴むと、自分の肩の上に担ぎ上げる。


「うわぁ!」

「ヒューイ!?」


 あまりの行動に、警備兵だけでなくイグニスも、その場にいるオーリュメール号の兵士達もギョッと目を剥く。だがヒューイは馴れているのか、「やめろよっ!」と言いながらも男の手から逃げ出して、無事に着地する。着地、という言葉がぴったりなほど、男は大きかった。そこから逃げ出したヒューイは、すぐに距離を取ってテッドを睨みつける。その様子に、男は「やれやれ」とオーバーアクションで肩をすくめて見せた。


「艦長さん、こいつは前から俺がスカウトしてたんですよ。それをいきなり横から掠め取りやがって。返しちゃくれませんかね?」


 大きな声だ。艦の上にいた水兵達まで、顔を出して何事かと様子を伺っている。だが、テッドはそんなこと全く気にしないようだった。 


「や、やだよ、テッドのとこなんか! っていうか、なんでここが分かったんだよ!」


 テッドに喰ってかかろうとするヒューイを押しとどめて、イグニスは彼を自分の背後に押しやった。この男を相手にしては、ヒューイは簡単に丸め込まれてしまいそうだ。ここは彼の上司である自分が話をした方が良いだろう。


「あなたは?」

「俺は南の山岳地帯一帯で私設の護衛団をまとめているテッドってもんだ」

「護衛団?」


 護衛団という言葉に目をすがめる。護衛団。確かに聞いたことがある。山岳地帯は魔獣が出るため、山を越える商人達は私設の護衛団をつけるのだと。山には詳しくないイグニスだが、山越えの過酷さは想像に難くない。


「ああ、山岳地帯には魔獣が出る。荷を運ぶにも、人が動くにも、俺達みたいな護衛をつけるのは常識だ。俺達は魔獣と戦うスペシャリストだからな」

「そのスペシャリストが、何故ヒューイを?」


 イグニスの問いに、テッドは何を当たり前なことを、と呆れた顔をした。


「おいおい艦長さんよ。考えてもみろよ。ヒューイはホルニー村の生き残りだぜ? 俺達はいつもあの辺で稼いでんだけどよ。あの山で生きてくだけでもどれだけ過酷だと思ってんだよ。こいつはあの山で生まれて魔獣相手にして育ってきたんだぜ? しかも飛赤猴相手に生き残った。そりゃスカウトにも来るだろうよ」

「違うよ! 俺は木の上で気を失ってただけなんだ! 俺なんて、何も……何もできなかった……」


 そう言ったヒューイは、今にも泣きそうな顔をしていた。



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