41:デッセル団と水兵
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オーリュメール号が外洋を巡航するようになってから、一ヶ月が過ぎた。今は一艦だけでの巡航は取りやめ、三艦で行動するようになっている。海賊共の活動はそれだけ活発で……中でもデッセル団はオーリュメール号を目の敵にして執拗に付け狙ってきた。この一ヶ月で、襲撃が五度もあったのだから、その執拗さが分かろうというものだ。
「は~、俺達やること無くね? なんか、暇~」
砲弾が飛び交う中でダリルが大きくあくびをした。戦闘中で、自分達水兵も戦闘配備についているのに、なんということを言うのか。セオがぎょっとしてダリルを見ると、ダリルはその視線に気づき、セオに向かってにやりと笑った。
「はいはい、真面目なセオの言いたいことは分かるぜ? でも仕方ねぇだろ。何しろデッセル団の奴ら、俺らに一発も弾を当てられないんだからな」
そう。デッセル団は何度も何度もオーリュメール号に攻撃を仕掛けてくる。だが、その弾は全て迎撃弾に撃ち返されるか、的を外して海に着弾しているのだ。オーリュメール号に同行している二艦も状況は同じで、彼らもこの異常な状態にどういうことかと混乱し……そうして、今ではそれが何となく、当たり前のように感じていた。
「デッセル団は最強の海賊団だって聞いてたけど、砲撃は得意じゃないんだな」
他の水兵仲間がそう言えば、ダリルは偉そうにふふんと笑った。
「まぁ、奴らの本領は移船戦だからな。だが当のデッセルが移船戦できない体になっちまったから、もうあいつらは怖くもなんともねぇよ」
ダリルがドヤ顔の台詞は、もちろん古参の水兵達の受け売りだ。ダリル自体がデッセル団について知ってることなど何もないが、だが今この状況でなら、いくらでも偉そうなことが言える。
他の水兵仲間も、今が戦闘中であるのに、まるで休憩時間のようなだらけた態度を見せていた。
「うちの砲撃隊は神がかっているからな」
「移船戦にならない限り、俺達の艦は安泰だ」
もちろん、そんな筈がない。上官や古参兵達の態度を見れば、これが普通ではないのだといことは明白なのに。
「あんまり、気を抜いちゃダメだよ。弾が当たらなきゃ、移船戦に持ち込まれる可能性もあるんだから」
焦ったようにセオが注意を促しても、他の奴らは態度を改めようとはしなかった。
「はいはい、分かってるって! まぁ? 移船戦になったら? その時には、オレ様の剣の実力を見せつけてやるよ!!」
デッセル自らが移船戦を行えないことが分かっていてそんなことを言うダリルに、セオはなんと言って良いのか分からなくなる。
デッセル団はこの海原に名を馳せる大海賊で、移船戦功者なのに! デッセルが出てこなくたって、他の団員達だって移船戦に長けているのに! いつデッセルの気が変わって、手下共を送り込んでくるか分からないじゃないか!!
もちろん、そうなることを想定して、戦闘幹部達が対策をしているのは知っている。夜中の自主訓練の時のヒューイの態度でも分かるくらい、上の人達はデッセル団を警戒してるのに。
「……デッセル団には、魔法師がいるかもしれないんだよ?」
セオが小さくそう言えば、ダリル達はバカにしたように笑い出した。
「はぁ? 魔法師? ばっかじゃねぇの? 魔法ってのはな、人間相手に使うもんじゃ無くて、魔獣相手に使うもんなんだよ!」
「それにウォースは魔法が得意じゃないんだぜ? あいつらがそんな凄腕の魔法師、抱えてるわけ無いだろ!」
「大体魔法師がいるんなら、あんな落ち目の海賊のとこにいるはずないだろ! ウォースの城を守ってるに決まってんだろ!!」
バカにしたようにゲラゲラ笑ってみせるダリル達に、セオは更に困った気持ちになった。
だって、実際に砲弾は当たらないのだ。いくらセオが言っても、彼らの考えが変わることはないだろう。
そのうち、砲弾は止んだ。デッセル側の砲弾が尽きたのだろう。物資は有限で、いくらウォースから援助を受けていても、永遠に撃ち続けるわけにはいかないのだ。
「ほら見ろ! あいつら帰ってくぜ!」
「情けねぇなぁ! だったら最初っから俺らにケンカ売るんじゃねぇよ!」
大喜びするダリル達を見て、セオは腹がムカムカするのを抑えられなかった。実際に彼らが移船戦を行えば、何の訓練も積んでないダリル達が逃げ惑うのはわかりきっているのに!!
毎晩のヒューイとの特訓を思い出せば、こいつらが海軍でございという顔をしているのが、セオは心底情けなかった。
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