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04:閲兵式

  ◇◇◇ ◇◇◇



 三ヶ月の基礎訓練の後、ダリル、セオ、ヒューイの三人は第四艦隊所属の「オーリュメール号」に配属となった。

 本日は新兵達の閲兵式で、甲板には新兵達が全員並べられ、艦長からお言葉を賜る。その後は艦上での練兵だ。オーリュメール号は外洋に出て、新兵達は初めての揺れる船の上での練兵に、やっと馴れてきた筈の剣の型にもぐらつく始末だった。


 イグニス・オル・ボルドー艦長や、上級士官達が艦橋から甲板を見下ろし、彼らの様子を眺めている。

 上から見ていると尚更、船に馴れていない様子が見て取れた。


「この中で何人がモノになりますかね」

「半分は一月もしないで逃げだそうとするでしょうよ」

「クク、逃がしてもらえると思うなよ」


 副艦長や航海士長達が悪い顔で新入り達の品定めをしている中で、艦長であるイグニス・オル・ボルドーの目は一人の新兵に止まった。


「今年の新兵には見所のあるものがいるようだな」

 イグニスがそう言えば、他の幹部も皆下を覗き込み、それぞれに頷いた。


「なるほど、さようでございますな」


 偉そうな髭など生やしてブリッジでふんぞり返っている、高位貴族であるだけが売りの上級士官官達は最前列に並ぶ貴族の子弟達を見ているが、「戦闘幹部」と呼ばれる副艦長や航海士長、砲撃長や水兵長達の目は、イグニスと同じ新兵に自然と目が引きつけられた。


 少々荒れた海域を進んでも、全くぶれない体幹。剣の捌き方が他の者達とは全く違う。

 ヒューイという最年少の少年だ。イグニスは新兵の書類に目を通した。


「ヒューイ、ホルニー村出身。……山岳地帯出身者が海軍に来るのは珍しいな。ホルニー村……確か魔獣に襲われて地図から消えたと聞いているが」

「ええ。山岳部の連中は魔獣と戦う為に、歩けるようになると剣を与えられると聞いています。ヒューイも村の連中から剣を仕込まれたと言っていました」


 その説明に、貴族の子弟達を褒めそやしていた士官官達がフンと鼻を鳴らした。


「山猿相手の我流の剣でしょう。海軍で通用するような物ではありますまい」


 彼らは爵位があるから士官服を着ることができた幸運な男達だ。海賊が出ればブリッジの奥で偉そうに唾を飛ばすだけで、ろくな戦力になりはしない。悲しいかな、彼らはあの少年がどれだけのポテンシャルを持っているのか、分かりもしないのだ。


「なるほど、お前達は自分の実力と同等のモノしか見定めることは出来ないのだな」

「なっ! どういう意味ですか、ボルドー艦長!」


 艦長であるイグニスは、ボルドー伯爵家の三男だ。年はまだ二十八歳と若いが、十四歳で海軍の見習いに入って以来数多あまたの歴戦をくぐり抜けた強者つわものである。

 彼は上位貴族に籍を置くが、それでもボルドー伯爵家は権門とは言いがたい。自分達も「お坊ちゃん下士官見習い」だった権門貴族家の仕官達は、貴族の社会ではあまりぱっとしないボルドー伯爵家の三男坊などが艦長という地位にいることを面白く思ってはいなかった。


「あの下士官見習達は、いずれ海軍でも出世すること間違い無しですぞ」


 それを聞いて叩き上げの水兵長が豪快な笑い声を上げる。


「はははははぁ! 奴らが出世するとは! お父上に泣きつく前にあの世へ行かないように、お前らが大事に大事に守ってやれよ! まぁ、奴らを士官仕官達は水兵長を悔しげに睨みつけるが、なにも言い返すことは出来なかった。船が外洋に出れば、貴族の位は関係ない。海賊や敵艦に出くわした時、身分などで敵の刃は防げないのだから。


「か、艦長! 艦長はいかように思われるのですか!?」

 一人が悔しげにイグニスに水を向けるが、イグニスは彼らを相手にしなかった。


 ただイグニスの目は、美しい剣筋で力強く剣を振る、ヒューイにのみ注がれていた。




   ◇◇◇ ◇◇◇



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