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37:海賊襲撃-3

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。


イヌ吉@苳子 拝

 走り去っていくデッセル団を見ながら、艦橋では皆、思わず籠められていた体の力を抜いていた。溜息がこぼれる。それは何の溜息だったのか。


「……まさか移船戦ではなく、砲弾をあそこまでぶち込んでくるとは……」

「奴らだけの財力で、あれだけの砲弾を扱えますかね?」

「やはりウォースが砲弾などを与えているのだろうな」


 戦闘幹部達が思い思いのことを口にするが、あくまでも推論に過ぎない。


「とりあえず、砲撃士達に話を聞きに行こう」

 イグニスがそう言って艦橋を出ようとすると、他の幹部達もついてきた。もちろん、ヒューイもその中に混ざって話を聞きについて行く。


 大砲は船の舷側や正面、後方などに設置されており、それをまとめているのがエルベン砲弾長だ。イグニスがエルベンを訪ねると、エルベンは慌てて走り寄ってきた。


「今自分も艦長に報告をしなければと思っていた所です。艦長からお越しいただいて恐縮です」

「いや、すごかったな。お前達の神技を見たぞ」


 イグニスの褒め言葉に、だが、砲撃士達は皆複雑な顔を見せた。


「どうした?」

「いや、それが……。俺達も、何が何やら……」


 先ほどの砲撃戦で、おかしいと思っていたのは当然イグニスだけではなかった。砲撃士達は弾道学のプロであり、実際に直接その軌道を見ていたのだ。


「おかしいんです。砲を出た時と、明らかに軌道がおかしい弾が何発かありました」

「どういうことだ?」

「それが、俺達も訳が分からなくて……」


 弾は、普通に込めていた。いつもと同じ砲弾だ。大砲の向きも、火薬の量も、いつもと変わったことはしていなかった。

 だが、実際に飛び出した砲弾は、いつもと同じ飛び方をしなかった。


「自分の目が信じられません。大砲から撃ち出された砲弾が、途中で曲がったんです」

「自分の砲弾も曲がりました」

「自分もです」


 口々に砲撃士達が違和感を口にする。さすがにこれは、気のせいだろうという数ではなかった。


「艦長、我々の大砲が軌道を逸れ、敵の砲弾に当たった、という場面も多くありましたが、敵の砲弾もおかしかった。艦体に当たる前に、急に角度を落として落水したり、明らかに距離がおかしく艦を飛び越える砲弾もありました。あの距離なら絶対に落下して来なければいけない砲弾が、いつまでも飛び続けて艦を飛び越えたのです」

「どういうことだ?」


 イグニスが聞き返すと、エルベンは小さく口をつぐみ、それから思い詰めたような顔で切り出した。


「……艦長、もしかしたら、デッセル達が魔法師を雇った、ということはないでしょうか」

「魔法師を?」

「はい。前回の負け戦に懲りて、魔法師を雇い、大砲に魔法をかけているのではないでしょうか」


 エルベンの顔は真剣だった。だが、砲弾に対して魔法をかけるなど、あまりにも荒唐無稽な話だ。


「もしそうだとするなら、当ててくるだろう?」


 魔法師を雇って砲弾に魔法をかけるなどといことが可能だったとして、それなら確実に当ててくるはずだ。今日の砲撃戦は、あまりにも自分たちに都合が良すぎた。デッセル団が魔法師を雇ったのなら、状況は真反対の物になったはずなのに。


「それは、向こうもこういう魔法を使い慣れていないから、まだ調整中なのでは? 今後は、ちゃんと当ててくるようになるのではないでしょうか」

「……そういう事もあるのかもしれんが……。しかし……」


 あれだけ多くの砲弾が飛び交っていたのだ。その一つ一つに魔法をかけるなどあまりにも非現実的だ。どれだけの魔法師がいればそんなことが可能になるのか、見当もつかない。


「今回、デッセル達は移船戦を行わず、砲撃だけ行ってきました。しかもあの物量です。デッセルが腕を斬り落とされたことで、奴らはやり方を変えた筈です。奴らはウォース王国から援助を受けて海賊行為を行っています。だとしたら、ウォースから砲弾だけではなく、魔法師も援助されているのではないでしょうか」


 エルベンの言うことにも頷ける点はあるが、だが、それにしても……。

 渋い顔のイグニスに対し、エルベンは訥々と訴えた。


「魔法師がいれば戦法は変わってきます。今回は向こうも初の試みで、巧くいかなかったのでしょうが、これからはこうはいかないはずです。ぜひ魔法師がいることを前提に戦法の見直しをお考え下さい」


 もちろん、わずかでもその可能性があるのなら、考えなければならないことではある。実際に魔法という物は存在し、王立騎士団の奴らは自由自在に操っているのだから。


「分かった。提督にも話を通しておこう」

「よろしくお願いします」


 そうしてイグニスは船を港に向け、接岸するなり提督の元に向かった。


 だが、オグール提督はイグニスの言葉になど少しも耳を貸さなかった。


「それだけの砲撃を受けながら、艦体に損傷もなく戻ってきたとはなかなか感心だ。他の艦もオーリュメール号を見習うように」


 イグニスの報告を一通り聞くと、オグールは短くそうまとめて、話を切り上げようとする。


「提督、そうではなく」

「何だ。報償が欲しいのか?」

「いえ、そうではなくて、明らかにデッセル団の砲撃は軌道がおかしく、魔法を使われていた可能性が」

「バカバカしい。魔法などという物は魔物相手に使う物で、海で使われる物ではないだろう」

「しかし!」


 提督はイグニスに対して、バカにしたように笑った。血筋の良さだけで提督になったような男だ。自分の信じられない物、想像の範疇にない物は存在しないと信じ込める、簡単な脳みそをしている。もしこの推論が正しければ、今まで通りの艦隊運用では全く役に立たなくなる可能性があるというのに……!


「貴様の与太話に付き合っている暇は無い。そうだな、しかしそれだけの物量を可能にしている理由は気になる所だ。当面の間、巡回は複数艦で行うように編成を見直そう」

 オグールはそれだけ言うと、犬でも追い払うかのように手を振って、イグニスを退出させた。


「くそ! あのクソジジィ!」 提督の執務室から一歩出るなりイグニスはそう吐き捨てた。


 今日はたまたまこちらの有利に働いた。だがエルベンの言うとおり、今後向こうの魔法師が力をつけたら、どうなるかなど分からないのに。


「とりあえず、他の艦長達に話を共有して、対策を講じなければ……」


 そう呟いて、イグニスはすぐにその場を立ち去った。



   ◇◇◇ ◇◇◇



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