35:海賊襲撃-1
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以前デッセル率いる海賊団の襲撃を受け、船体に大きな傷を負ったオーリュメール号だが、せっかくだからとドッグにて徹底的なオーバーホールを受けた。今や傷を負った船体はもちろん、歪んだ櫂も、ほつれた帆も、踏むとキシキシ言っていた甲板の床板までピッカピカの新品同様だ。
「すごい! オーリュメール号、綺麗になりましたね!」
ヒューイが無邪気に喜んでいる姿に、戦闘幹部達はほっこりと心が洗われるようだった。
「可愛いなぁ、ヒューイ」
「無邪気過ぎんだろ」
魔獣の多く出る山奥で育ったというヒューイは、きっと子供の頃からものすごく苦労していたに……ぶっちゃけ貧しい暮らしをしていたに違いない。だからピカピカの艦であんなに喜んでくれるのだ。そりゃ自分達だって艦が綺麗になれば嬉しいが、それは故障箇所がなくなったことによる安堵感だ。ヒューイったらあんな……まるでオーリュメール号が王城ででもあるかのように喜んで……。
「やばい、なんか俺、胸がぎゅーってなった……」
砲弾長のエルベンが小さい声でそう言えば、「奇遇だな、俺もだ」と、幹部達は次々に頷いた。
「だがヒューイ、艦は愛でる物ではなく、海上で戦う為の砦だ。いつまでも今の状態を保てるように、俺達が能く戦うことが大切だぞ」
イグニスの重々しい言葉に、ヒューイは元気よく「はい!」と返事をする。やばい。ホント可愛い。どうしてくれよう、このかわいこちゃんを!!
「早くオーリュメール号で海に出たいです!」
「そうだな、すぐだぞ! 楽しみにしておけよ!」
「はい!」
そんなやりとりの後、実際にオーリュメール号は数日と待たずに出航した。
最近、海賊の活動が活発だと、他の艦からも報告を受けている。本当はここまでのんびりと修理を受けられるはずではなかったのだが、これはデッセルに打撃を与えたことのご褒美のような物だった。
ヒューイは海上任務に大喜びしているが、だが、新兵仲間のダリル達に取ってみればそれは全く嬉しいことではなかった。陸にいれば街で飲む打つ買うもある程度は自由にできたし、仕事はある程度楽だし、訓練はきついが実戦はない。だが海に出れば、当然だがいつまた海賊に狙われるかも知れないのだ。またこないだみたいな移船戦になれば、今度こそ死ぬかも知れない。そう思えば今更ながらにこっそりと剣の訓練をしてみたり、体力作りをしてみたりする者も出てきた。
そう。日頃の鍛錬だけが戦闘で自分を守るのだから。
出港したら、ヒューイは前に言われていたように、イグニス達戦闘幹部達と同じフロアに部屋を割り当てられた。今までの甲板下の暗い船室ではない。それに対してダリル達から妬ましげに文句を言われたが、そのフロアに部屋を貰うことの意味と責任を噛みしめ、ヒューイは今まで以上に仕事に没頭した。
それでも消灯時間の後に、セオと一緒に自主練をすることはやめなかった。これだけは譲れない。
そうして、同じ新兵の中から、その自主練に加わる者も出てきた。魔法の訓練の為の自主練だったのに、と、セオは少し困惑したが、それでも仲間達がやる気を出してくれるのは嬉しくて、彼らと毎日こっそり剣の稽古をした。───もちろん、上官達は消灯後の訓練について、苦笑いしつつも見て見ぬ振りをしてくれた。
軍港を出てから5日。辺りを警戒しながら巡洋していたときだった。
オーリュメール号の船体がぐらりと揺れた。
「な、なんだ!?」
「右前方海上に砲弾が着弾!」
「か、海賊船です!!」
見張り台にいた船員が警報を鳴らす。視線の先には国旗を掲げず、黒地に白いドクロと二本の骨を交差させ、その周りに蛸の足を巡らせてた海賊旗───。
「あの旗は……デッセル! デッセル船団だ!!」
「総員戦闘配置につけ!!」
「一人残らず殲滅せよ!!!」
「今度こそあいつらを沈めるぞ!!」




