03:新入りのお仕事
本日からまた舞台が海軍に戻ります。
文頭で、お仕事の詳細を付け足しております。(2025年4月27日)
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結局、ヒューイは海軍に入ることにしたようだ。あの募兵で今回軍に入ったのはおよそ三十人。新入り達は年の近い者でまとめられ、六人部屋を与えられている。ヒューイは十六歳とかなり若い方だが、それでも同じ年頃の新兵が他にも二人いて、当然三人は同じ部屋になった。
三人の中で一番年上なのが十九歳のダリル。次が十七歳のセオで、一番若いのがヒューイだ。ダリルは三人の中では一番年上で体も大きいせいか、自分を三人組のリーダーだと言い張り、二人を子分のように扱おうとする。セオは真面目な青年で、自分よりも年の若いヒューイの面倒を見てくれようとしていた。
配属は水兵隊……戦闘兵ではなく、船周りの仕事をする水兵の部隊であり、現在与えられている任務は、「軍と船に馴れる事」だ。毎日艦内の設備を覚えたり、帆やロープの扱い方などを叩き込まれている。それから軍艦である以上、当然武器の扱い方や剣術の稽古も重要だ。
ダリルはなかなか要領の良い男で、指導役の下士官が見ている時にはさも真面目に振る舞うが、彼らの目がない所ではダラダラと力を抜いている。それだけではなく、武器の手入れや掃除洗濯といった新入りに与えられる仕事も、なんだかんだと二人に押しつけ、「俺はリーダーなんだから、お前達を監督しているんだ」などと嘯く始末。セオはそれに文句を言っているが、ヒューイは全く気にした風もなかった。
押しつけられた仕事も真面目にこなし、訓練にも積極的に参加するヒューイは、士官達からも注目されていた。
何しろヒューイは地元では魔獣を相手に戦っていたというではないか。そのせいか、他の新入り達に比べて遙かに武器の扱いも巧く、最初から軍刀での素振りを五百回出来たのはヒューイだけだった。
「あの新入り、一番若くて体もまだ小さいくせに、なかなかの根性だな」
「ああ、それにあいつ、体幹も良い。アレは伸びるぞ」
仕官達がそう言っているのを知っているのかいないのか、今日のダリルは先輩水兵の前で「あいつら、俺が見てないとなにも仕事しなくて、困った奴らなんですよ」と胸を張っている。
セオは呆れて溜息をついた。軍隊が長い彼らが、ダリルの見せかけの様子に、気づかないはずがないのに。
今日も二人で黙々とダリルに押しつけられた洗濯をやっつけていた。どうもダリルは二等兵、三等兵達直近の先輩兵士達から洗濯を請け負って、彼らに顔を売ろうとしているらしいのだが、当然のようにその洗濯はセオとヒューイに押しつけてくる。セオが愚痴を言うのも当然だろう。
「なんであいつが請け負ってきた仕事を俺達がするんだよ。割り当てられた仕事だって、あいつの分俺達がしてるのにさぁ」
「まぁ、そういうのって、誰かがきっと見てるから。逆にこうやって真面目にやってるセオのこと、見てる人もいるって」
ヒューイは小さく笑った。
十六歳というヒューイは、まだあどけない顔をしている。柔らかい栗色の髪に、綺麗なアクアマリンの瞳。背はそこそこ高いもののほっぺたはもちもちと柔らかく、時々水兵達に「お嬢ちゃん」などとからかわれている。それでも彼は、いつも小さく微笑むばかりだ。
対するセオは焦げ茶の髪に灰緑の瞳で、背はヒューイよりほんの僅かばかり高いだろうか。十五歳を超えてから、大分腕や足が硬く大きくなってきた。ヒューイとは年も一つしか違わないし、身長もそれほど変わらないというのに、なんというか、ヒューイのことは小さくてあどけなくて、守ってやらなくちゃ、という気持ちになる。
「そう言えばセオ、聞いた? 今日から貴族のお坊ちゃん達が、見習いで入ってくるんだって」
「え? 俺達の後輩って事?」
「まさか。彼らは最初から下士官見習いみたいだよ。俺達みたいな水兵とは違うよ」
そう言ってふふっと小さく笑うヒューイは、それに不満もないらしい。
そう言えば、ダリルが昨日からずいぶんソワソワとしている。取り入っている二等兵辺りから先にその情報を聞いてたいのだろう。自分よりも後に入ってくる貴族のお坊ちゃん達に、先輩風を吹かして近づくべきか、下手に出て取り入るべきかと情報を探っているのだろう。
「なんか、面倒くさいことが目に見えるみたいだ……」
いや、ダリルのことだ。貴族のお坊ちゃん相手に偉そうな先輩風を吹かしながら取り入ろうとする場面しか想像できない。こんな所にいる平民が、口をきける相手ではないのに。
「巻き込まれないようにしないとな」
「ふふ、そうだね」
こんな状況だというのに、ヒューイは楽しそうに笑いながら洗濯物を絞り始めた。
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