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28:従卒のお仕事-2

 ヒューイの大きな目に見つめられて、思わずイグニスは赤くなった。


 あ、やばい。ここで赤くなったらやばい。ヒューイにしてみたら、こんなおっさんが赤くなりながらガン見してたら怖いだろう。セクハラって思われちゃうかもしれない。違うんだ。何か。何か言わなくちゃ。


「いや、す、すまん……。ヒューイは、いつも頑張っているな、と思ってな」

「え?」


 イグニスの顔は真っ赤だった。あんまり恥ずかしそうにヒューイから視線を反らせたりするから、思わずヒューイの方も、かぁっと赤くなってしまった。


「す、すいません、艦長。そんな男前の顔でそんな事を言われると、俺……!」

 ヒューイの口から出てきたのもそんな言葉で。これにはイグニスもヒューイも、二人とも慌ててしまった。


「え? あ、すまん! そうだよな、勉強してるところ見られてたらやりづらいよな!?」

「うわ! すいません! 俺何言っちゃってるんだろう!! えっと、間違ってるとことかありましたか!? そ、そうですよね!? 勉強見てくださってるんですよね!? ごめんなさい! その、艦長男前だから、お、俺緊張しちゃって……」


 え!? 今なんて言った!? イグニスは耳まで真っ赤に染まったダンボ耳になった。


 え? かんちょうおとこまえだからおれきんちょうしちゃって……!??!? 今マジでそう言った!? ヒューイが!? ヒューイが俺に向かって……!??!?!?


「そ、そうなのか? いや、そんな気を遣ってくれなくて良いんだぞ!? わ、私が男前とか……!」

「え!? 艦長は男前ですよ!!」


 更に真っ赤になってイグニスが叫ぶと、何故かヒューイもますます真っ赤になりながら叫び返してきた。

 うわ、うわ!! どうしよう! 今どういう状況か段々分からなくなってきた!!


「で、でもヒューイから見たら、私などおじさんだろう?」

「まさか! 艦長はまだ20代でしょう?」

「いや、そうだが……でも、君から見たら……!」


 二人は思わず見つめ合った。お互いにこれ以上ないほど真っ赤である。なんだか背中に不思議な汗が流れてくる。

 冷静になろう。そうだ。冷静にならなければ。自分がおかしなことを言ったりしたから、ヒューイが気を遣ってしまったのだ。そうだ。まず私が冷静にならなければ。


 そう思ってバクバクする心臓を何とか鎮めようとするイグニスの耳に、消え入りそうな声が届いた。


「お、俺は、そんな、見た目ほど子供じゃありません」

「え?」


 思わずイグニスはヒューイをマジマジと見つめてしまった。


 机に向かって肩を小さくして、俯いてしまっている。

 その項が、髪から除く耳が、真っ赤でぷるぷる震えていて。


「……え?」


 イグニスは二度訊いた。いや、何度でも聞き返したい。え? い、今のどういう意味!??!?


「あ、違います! そ、そういう意味じゃなくて!!」


 ハッと何かに気づいたようにヒューイが顔を上げてイグニスをぐるりと振り返った。


「そ、そうだよな!? 分かってる! 分かってるからそんな慌てなくて良い! 大丈夫だ! だいじょうぶ……って、あはは、す、すまん。なんか、暑いな……」


 二人、何となくお互いにお互いを見ないようにして、必死になって笑ってみたりする。


 それから暫くして、ようやくイグニスは少しだけ冷静さを取り戻した。


「その……私は、君には期待しているんだ。ひょっとして君にはそれが重荷に感じるのかもしれないが、その……ヒューイの剣術は見るべきものがあるが、剣術だけでは海軍で上には上がれないから……。私は、ヒューイは水兵で終る存在ではないと思っている。無理をさせられていると感じるかもしれないが……最初の基礎のところが分かれば、ヒューイならきっとすぐに理解が追いついてくると思うんだ」


 訥々と言うイグニスに、ヒューイもなんとか落ち着いてきて、そっとアーレスの問題集に目を落とした。


「す、すいません。俺、こういうの全然勉強したことなくて……。で、でも、弾道学とか艦隊戦術が男のロマンだって思ってるのは本当です。きっとこの航海術とかも理解すれば、艦隊戦術の役に立つって、それは分かります」

「そうだな。航海術とか弾道学とか、様々な学問の上に艦隊戦術は成り立っているからな。艦の大きさや速さで艦の回転半径なども変わってくるし、もちろん、甲板の高さで砲台の高さも変わるから、弾道も違ってくる。艦の状態、砲弾の威力と軌道、海の深さ、潮の流れ、その日の天気……全てを組み合わせて戦うことが肝要だ」

「はい!」


 キラキラと、艦長であるイグニスに憧れの目を向けてくるヒューイの若さが眩しく、そうして少しだけ、苦い。


 そう。彼はまだ若く、自分は彼を導くべき立場にいるのだ。

 イグニスは軽く頭を振って、ヒューイに向かって微笑んで見せた。


 できるだけ、彼が頼もしく見えるような、艦長の顔を取り繕って。

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