24:王宮の三王子-2
「……その時には、我が国の全力を持って、ユグノーを殺さねばならぬ」
「そうですね。剣聖を国外に出す事は阻止しなければなりません。そのときには王立騎士団総長と飛行団長、二人の剣聖を彼に当たらせるしかないでしょう」
二人の顔は真剣で、アスターをからかっているわけではなさそうだった。なんということだ。二人とて、ユグノーとは幼い頃から共に育った仲だというのに!
「何てことを言うのですか……! 兄上、あなた達はユグノーを何だと思っているのですか!?」
「お前がユグノーが他国に行ったら、などと言うからだろう。安心しろ。あいつはどうせお前が結婚すればひょっこり出てくるさ」
「そんなわけない! ユグノーは俺と結婚するのです!」
「だから! それがいやだからあいつは逃げ回ってるんだろ?」
この後に及んでまだ夢を見ているアスターを、長兄であるエマシアスは諫めにかかろうとする。だがユアンシェンはそれを止めてわざとらしく首を竦めた。
「いやいや兄上。こういうときはあれですよ。ほら、ユグノーは? アスターのために? アスターがテレンス王国のマデーリア王太女と結婚して? 立派な王配になれるよう? 身を引いたのだろうよ?」
それはあまりにも軽い口調で、どう考ても弟をからかっていうようにしか聞こえない。もちろん、アスターはそれに簡単に引っかかり、カッと頬に朱を上らせた。
「な、何で疑問形なんですか! バカにして!! とにかく! 俺はユグノーを探しに行きますからね! 止めても無駄です!」
「探すって、どこを探す気なんだ? ユグノーが魔獣の住処に隠れていたら、お前、探し出せるのか?」
「お、俺だって王立騎士団の副総長です! 魔獣の住処くらい……」
だが、必死のアスターの返事を、ユアンシェンは「はっ」と鼻で叩き落とした。
「お前は確かに王立騎士団の副総長だ。だが、それは陸軍元帥の兄上や、海軍元帥の私とは違う。我々は王族の義務として、戦の旗頭となるために元帥という地位を賜っているが、お前が騎士団の総長になる日は来ない。ちょっと魔力が強いくらいの人間が、王子だからと言って就ける地位ではないのだぞ?」
「そ、それは……」
分かっている。我がプリモナール王国は陸軍と海軍、王立騎士団に守られている。陸軍と海軍は兄達がまとめているが、王立騎士団をアスターが率いる日など決して来ないことなど、もちろんアスターにだって分かっている。
それでも、自分は王立騎士団の副総長で、少なくとも王立騎士団に入ることを認められるくらいには魔力だってあるのだ。これからもっと修行を積んで、魔法を磨いていけば、いつかユグノーと共に王立騎士団を率いることができるはずだ。それはアスターの悲願であり、自分のよりどころでもあった。
……だが。
「お前が魔獣の住処にのこのこ出向いていけば、一瞬でこの世からいなくなるだろう。自殺嗜好があるのではないならやめておけ」
長兄の台詞はあくまでも冷たい。
「そもそもお前、魔獣と対面した事があるのか? 王立騎士団の副総長と言うが、今までに魔獣討伐に何回参加したのだ? ユグノー・アル・オニールが毎日のように魔獣を討伐しまくっていた間、お前はどこにいた?」
「そ、それは、父上達が私を出陣させてくれないから……!」
「……困った時の父上頼みか? お前は王立騎士団の副総長なのだろう? 何故お前の権限で出陣しない? 私は15の時に初陣を飾ったぞ。当時の元帥達にボコボコに鍛えられて、砂にまみれて、国境を侵そうとしたシグリス国のゲリラ共と戦った。ユアンシェンの初陣は16歳で、ワースとの艦隊戦で砲撃の指揮を執り、見事に敵艦を三艦も海に沈めた。だがお前は? 王立騎士団には第一騎士団から第八騎士団まであるが、お前はそのどこに権限がある? お前の言う事を、どこの騎士団が聞いてくれるんだ? 誰もお前の言う事を聞きもしないのに、そんなお前が魔獣とまともに戦えるとでも思っているのか? まさか一人で魔獣を倒せるとでも? お前は自分が剣聖にでもなったつもりか?」
エマシアスの冷たい声に、アスターはグッと喉を詰まらせた。
「それは……」
「そんなお前が剣聖ユグノー・アル・オニールと結婚? はっ。笑わせてくれる」
「まあまあ、エマシアス兄上……」
どこまでも弟に厳しい長兄に、さすがにユアンシェンがもう少し柔らかい言葉でと諫めるが、エマシアスはどんどん激昂するばかりだ。
「確かにアスターは我々三兄弟の中では魔力が最も高いだろう。だが騎士団の中に入れば、小隊長になれるかどうかの魔力でしかない。お前が王立騎士団にこだわるから、末っ子に甘い母上がドルネール総長に泣きついて、副総長にさせてもらったんじゃないか」
「そんなはずありません! 俺は、俺はずっとユグノーと共に修行をして、副総長という地位を……!」
「ガキが戯言を言うな」
「兄上……!」




