23:王宮の三王子-1
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プリモナール王国。王都デネグフト。王城の回廊を歩きながらエマシアス王太子とユアンシェン第二王子が自分たちが元帥を務める軍隊について話し合っていた。
プリモナール王国では代々、王太子は陸軍元帥を、第二王子は海軍元帥を兼任する。事が起こったとき、国王の息子が軍の旗頭として戦うのは、この国の伝統である。
プリモナール王国では、陸軍と海軍と王立騎士団の仲があまりよろしくないという事は以前にも書いたとおりだが、かといって、王太子と第二王子の仲が悪いわけではない。むしろ兄弟仲はすごく良いし、協調して国防に当たるのは当然と考えているのだが、現場が「俺達の方が強い」「俺達の方が仕事している」と言い張って、勝手に張り合っているのだ。これは何とかしたい。何とかするためにどうしたら良いか。協力体制を取るためにどんな手を使えば良いのかと、二人は暇さえあれば話し合っている。
ちなみに、王立騎士団は元帥ではなく騎士団総長がこれに相当する。王立騎士団の主な任務は魔獣の討伐やその後処理の為、魔力量が少なかったり、魔法が下手クソだったりする人間が総長や団長職に就く事はあり得なく、王族がその任に就いた事はない。それもあって、陸海軍と王立騎士団の間には余計に「俺達の方が偉い」という対立が生まれてしまうのだが。
「しかし剣聖について、ドルネール総長は特殊任務で不在だと言っているのだろう? それでぐちゃぐちゃ言うのはおかしくないか? 陸軍はみな納得しているぞ。まぁ、表向きはな。それより海軍はどうなんだ?」
「海軍は正直、他人事の感が拭えませんね。王立騎士団の第一騎士団長が行方をくらませた所で、それがどうした、海軍に何の関係が? という態度です。それより問題は宮中雀の方でしょう」
魔獣に対処する事を任務とするのは王立騎士団だが、魔獣が山に出る以上、陸軍も無関係ではない。第一騎士団長である剣聖・ユグノー・アル・オニールの不在は、陸軍にとっても他人事ではない。だが海軍にとって、魔獣というのはどこか別の世界の物語なのだ。
そしてユアンシェンの言うとおり、海軍よりも問題なのが、戦闘とは関係のない宮中の役人や噂好きの婦人達だった。彼らにとって剣聖の不在というのは政争に関わる重大事であって、実際に剣聖がいない事で国にどんな影響があるかなど考えてはいなかった。奴らは自分の都合の良いように、ピーチクパーチク無責任に噂を振りまいている。それがどんな影響を与えるかも考えずに。
「何故奴らは、剣聖の不在をアスターの結婚問題としてしか考えられないんだ! アスターなどどうでも良いだろう!? 剣聖がいなければ災害級の魔獣が出たときに対処できる者がいない事を、あいつらは分かっているのか!? 剣聖の存在が他国にどれだけ抑止力になっているかを!?」
「あ、兄上…っ」
慌ててユアンシェンがエマシアスの腕を引くと、はっとしたエマシアスの目に、アスターが侍従を一人だけ伴って小走りに駆けてくるのが見えた。
こいつだ。そもそもこいつが剣聖と結婚するとか言い出したから剣聖がいなくなったんだろ!?
「兄上方、お揃いでしたか」
「ああ。どうした、アスター」
こいつの言いたい事なら分かっている。それでも、一応聞いてやらなければいけないだろう。
「兄上! 俺はやはりユグノーを探しに行きます! どうか許可を……!」
ほらやっぱり。二人はギリギリと頭が痛むのを感じながら、弟を説得にかかった。
「今騎士団でも陸軍でも剣聖を探させているから待て。お前がいたずらに動いてどうするのだ。お前はいつユグノーが帰ってきても良いように、おとなしく城で待っていろ!」
「しかし王城でただ報告が上がるのを待っていても埒が明きません! 王立騎士団の第一騎士団長が行方不明なのですよ! 兄上達は何故そのように落ち着いていられるのですか!」
エマシアスとユアンシェンは思わず顔を見合わせて奥歯を噛みしめた。こいつには自分が原因でユグノーが出て行ったという自覚はないのか!?
「……あのな、アスター。どう考えてもユグノーは自分で出ていったんだぞ? 俺達に追えるか? 剣聖だぞ?」
そう。剣聖ならば飛翔魔法で空を飛ぶ事も可能だし、恐ろしく早い騎獣に乗って移動する事も可能だ。もしも追いついた所で、魔法の一発、剣の一振りで追跡軍は一瞬で壊滅するだろう。彼を追うことなど、武力でも、物理でも不可能なのだ。
だが、そんな当たり前の事がこの弟には通じない。
「何をのんびりと……! ユグノーの身に何かあったらどうするのですか!」
「いや……だから……ユグノーなんて、一個師団を派遣しても撃破できないだろ……。あいつ、綺麗な顔して中身は人間爆弾みたいなモンだぞ……?」
陸軍元帥でもあるエマシアスがそう言えば、海軍元帥でもあるユアンシェンも頷いて見せた。
「そうですね、兄上。ええ。全艦の一斉放弾でも奴が傷ついている様子を想像する事すらできませんね……」
二人のそののんきな台詞に、アスターは子供のように地団駄を踏んだ。
「何を言っているのですか! ではもしユグノーがこの国を出奔して、他国に身を寄せるような事があったらどうするのですか! 彼は我が国の守り神なのですよ!」
だが、その台詞はアスターの期待とは違う意味合いを持っていたようだ。二人は急に顔を引き締めると、重々しい顔でアスターを見つめた。




