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19:オグール提督-1

  ◇◇◇ ◇◇◇




 オーリュメール号は急ぎに急いで本拠地であるバスパト港に戻ってきた。船体に開けられた穴はなんとか塞いではあるが、いつそこから大きな亀裂が入るかも分からない。


 軍艦には魔導回線を積んだ動力機は付いているが、そこに注ぎ込める魔力は少ない。魔力を含んだ魔石は貴重品で、そうそう全ての艦に潤沢に支給できる物ではないのだ。なので、ほとんどの動力は昔ながらの風任せで……急いで帰ってこようにもそれなりに時間はかかる。

 だからバスパト港に戻ってきた一同は、「なんとか間に合った……」と、思わず青い息をついていた。


「艦はすぐに工廠に運び込め! 徹底的に修理を頼む!」

「畏まりました!」


 イグニスの指示と共に、オーリュメール号はすぐに修理に回され、船員達はその間陸上での訓練が課されることとなった。あの海賊戦の後である。稽古には否が応でも力が入った。


「ああ、ヒューイ。お前は今日は俺に付き合ってもらう」


 イグニスはそう言って、ヒューイに身なりを整えるように告げると、おかの上、オーリュメール号の所属する第四艦隊の本部へ連れて行った。


「あ、あの、ボルドー艦長。俺が本部へなど入っても良いのでしょうか」


 こちらも一分の隙もないほど軍服を身につけたイグニスとデーリッヒ副艦長に、城のような要塞である第四艦隊本部に連れて行かれるなど、恐怖でしかない。


「お前を連れて来いと提督からのお達しだ。あまり緊張しなくていい。基本敵に話は俺がするから、お前が話すことはないだろう。何か質問されたら知ってること、思ったことだけを正確に伝えるように」


 長い回廊を歩き、建物の中に入る。階段を上がり、更に長い廊下を歩き、本部の一番奥にある部屋にたどり着いた。その部屋の扉の両脇には二名の衛兵が剣を手にして立っていて、イグニスは彼らに声を掛けた。


「オーリュメール号艦長イグニス・オル・ボルドー、副艦長のマッシュ・デーリッヒ、水兵のヒューイだ。提督のお召しにより参上した」

「はっ。お話を伺っております。提督はじめ、皆様がお待ちです。どうぞお入り下さい」


 衛兵によって扉は重々しく開かれた。


「失礼いたします」



 イグニスが声をかけ、デーリッヒは軽く、ヒューイ深々と頭を下げて中に入る。


 部屋の中央には立派な執務机があり、たくさんの勲章をつけた初老の男が偉そうに座っていた。その男を中心にイグニスと同じ飾緒のついた軍服を着た男達が5人並んでいる。



 中心に座る男はニドル・デル・オグール。オーリュメール号が所属する第四艦隊の提督で、階級主義、血族重視の凡俗だが、現在彼がこの艦隊の中で最高位にいることは間違いなかった。


「遅いぞ、ボルドー艦長」


 提督のすぐ傍にいる男の一人が軽い調子でイグニスに声を掛けていた。年の頃はイグニスよりも少し年上だろうか。彼に対し、イグニスは小さく肩を竦めてこちらも軽く答えている。


「すまない。何しろ艦がひどい状態でな。あちこちに指示を出していたので遅くなった」

「まぁ、あの様子じゃなぁ。しばらく出航はできないんじゃないか?」

「申し訳ない」


 どうやら男達は第四艦隊に所属する軍艦の艦長達のようだ。航海中の艦を除き、帰港中の艦長達は皆集まっているらしい。イグニスは中でも大分若い方で、厳めしい顔の艦長達が並ぶ様に、ヒューイは思わず腰が引けていた。


「それで、その子供か?」


 オグール提督がヒューイを顎をしゃくって示す。自分で呼びつけておいて、いくら何でも失礼な態度にイグニスもデーリッヒも思わず眉間に皺を寄せた。

 だが、相手は提督である。イグニスはグッと拳を握ってから提督や艦長達にヒューイを紹介した。


「提督のめいにより連れて参りました。当艦水兵のヒューイです。先日のデッセル海賊団との戦闘の際、頭領であるデッセルの腕を切り落としたことは、すでに報告済みかと思いますが」


 イグニスがそっとヒューイの背を手で押すと、ヒューイは慌ててもう一度お辞儀をした。

 だが、その様子にオグール提督は不機嫌そう口元を歪めた。


「その新兵がデッセルの腕を? イグニス、気は確かか?」

「ええ。これ以上はないほど」


 その返事に、5人の艦長達もとても信じられないという顔をした。彼らは今までに、何度もデッセルには煮え湯を飲まされてきたのだ。

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