表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
退屈世界の破壊神  作者: ぽぬん
78/96

55.いつか夢見し、人の体温《ぬくもり》

 可愛らしい家のドアを叩き、勝手に開けて中に入るゼン。


「よお」

「な、なにしにきたんですか!!」

「……そんなに警戒すんなよ、なにもしねえ」


 テーブルでお茶を飲んでいたらしいイーリカ、咄嗟にギュッと、身を縮こまらせる。

 勝手に入ってきたことにも驚いたが、侵入者がゼンだった事に、恐怖を感じたらしい。


「イーリカ」


 近づくゼン、一歩ずつ下がるイーリカ。その距離は縮まらない。


「わかったわかった、止まる」


 嫌悪し、睨みつけ、近づけさせない。


「あの日のこと、悪かった」

「……え」


 頭を掻きながら、バツが悪そうな表情で、ぶっきら棒に謝罪の言葉を口にするゼン。まさかの言葉を聞き、イーリカは強張らせて、緊張させてた顔と体を解いていった。


「本当に、悪いと思っていますか」

「あぁ。あいつに殴られるくらいには」

「お、お父さんが?!……そうですか」


 少し悩んだあと、意を決した様子で少しだけ歩み寄るイーリカ。


「受け取ります、その言葉」

「そうか」

「いいですか、誰彼構わず、あんなことはしないと約束してください」

「あの時は理由が……いや、いい、わかった」


 そっと手を伸ばし、頬に触れるイーリカ。思いがけない行動に、ゼンは目を見開いた。


「私の受けた傷を、父が拳に乗せてくれたのなら、それでいいです。一応、だいぶ、遅くなっていますが?謝罪らしきものも受け取りましたし」

「らしきって、これが俺の、精一杯なんだ、文句言うな」

「あの時より、だいぶ穏やかになりましたね……殴られたところは大丈夫ですか?」

「顔面の骨半分、粉々にされたな。ま、治してもらったから問題ねぇよ」


 フッと笑うゼンを、なぜか目が離せず、ジッと見つめてしまうイーリカ。


「できるだけ努力する」

「な、え、なにを、ですか」

「だから、お前も、できるだけあいつと一緒に過ごせ」

「えっ、あっ?!」


 頬に添えられたイーリカの右手に、自分の左手を重ねて目を閉じ、擦り寄せるゼン。


「お前はあいつと同じで強いし、あったけぇのな」


 また優しく笑うゼン。なぜか顔が熱くなっていくイーリカ。


「お?なんだ?惚れたか?」


 今度はニッと笑って、右手でイーリカの頬をぷにぷにと触り出す。さすがに耐えきれず、イーリカはゼンから無理やり離れた。


「そわなわけ……ないでしょう!」

「はっ!そりゃ残念だ」

「え、え」

「冗談だ、絶壁にゃ興味ねぇの、俺」

「〜〜〜〜っ!!出ていってください!!」


 ゼンの背中を押し、外へ押し出しドアを閉じるイーリカ。ドア越しにゼンは、別れを告げた。


「約束は出来ない」

「父にも、その覚悟があるみたいです……だからもう、止めません」

「そうか……じゃあな」


 足音が遠ざかっていく。


 胸に手を当て、思い出す……父から聞いていたゼンという人物、自分を辱めようとした男。


「確かにまだ、怖いはずなのに……お父さん……」

「ん、なんだ?ただいま、イーリカ」

「わぁっ?!」

「な、そんなに驚かれるとさすがに傷つくのだが?」


 ドアの前で考え事をしていたイーリカは、帰宅したアダルヘルムに気付かず、異様な驚き方をした。


「ゼンはちゃんと来たか?」

「お父さんが……お互いに……そうなのね…………うん、大丈夫……ちゃんと謝ってくれぇ――」


 触れた頬、触れられた頬、思いもよらず見せた優しい笑み。思い出し、真っ赤に染まる。


「……っ!?またなにかしたのかあの男は!!」

「ち、ちがいます!これは私が勝手に!ちゃんと謝罪してくれましたから!もう大丈夫ですから!」


 拳に力を込めながら出ていこうとしているアダルヘルムを、慌てて止めるイーリカ。


 なにもなかった……訳でもないことは、イーリカの様子を見れば一目瞭然だった。だが、傷付けられた、というわけではないその様子に、察してしまう。自分の勘の良さを恨むように深いため息を付き、イーリカの頭を撫でながら静かに言った。


「…………あいつは、やめておきなさい」

「うっ……おとうさん……っ」


 これから先、どうにかなるわけではない事は分かってはいるが、父として、大事な娘にそれだけは伝えておきたかったようだ。


 翌日、朝早くから町は騒がしく、忙しく動き始めた。


 新生魔族の侵攻の情報は、秘密裏にギルドにのみ共有されたもの。情報源がゼンなのだから、王都に漏らすなどするはずは無いのだが、流石に大きな兵器の移動、統率の取れた冒険者の動き……警備として配属させている騎士団が怪しみ始めてはいた。


「一応、大きいのは目隠しの魔法をしてあるけど、物質自体はそこあって、触れたりはするからネ〜」

「バレたところで、だが。こっちの摘発のために王都で兵を揃え終わる頃にはもう遅い。向こうとしてもちょうどいいだろ。ま、もし文句言ってきても、そん時の対応はコイツがやるから問題ねぇ」


 ニッとゼンに親指で指されたアダルヘルムは、腕を組み、得意げな顔をして応えた。


「優しさなのか計画的なのか相変わらず濁すやり方をする……いいだろう、あなたが表立つ方が揉め事が増えるしな?承知した」

「はっ!来るのはどうせフォンゼ――……頼む」


 冗談で嫌味を言ったつもりで、いつも通りの嫌味で返ってくると思っていたアダルヘルム。ハーフェンでのフォンゼルのことを思い出し、珍しく身震いをしたゼン。


「じゃ、行くわ」

「ああ、こちらは問題無い、私もファイン殿と共に行く」


 ギルド支部から出ようとした時、忘れ物を取りにミウを連れて戻って来たイーリカ。慌ててゼンを呼び止めた。


「ゼンさん!」

「あ?」

「これをイエルに……一緒に召し上がっても、いいですけど」


 ズイッと押し付け、あからさまに1人前ではない食べ物が入った袋をゼンに渡した。


「へぇ?優しいねぇ?」

「別にゼンさんの為じゃないです、弟は根詰めると食事を取ることを忘れてしまうので!」

「俺をお使いに使おうなんていい度胸だなイーリカぁ?」

「ちょ!やめてください!お父さん!やめさせて!!」

「やれやれ……嫌ならもっと抵抗してくれ……」


 くしゃくしゃと頭を撫でられ、嫌がる声を出しているはずなのに、嬉しそうなイーリカ。助けを求められたアダルヘルムは一応、ゼンの腕を引っ張り外に連れ出してくれた。


「イーリカ、無自覚が過ぎる……もう少し淑女らしくしろ」

「私はなにも……!ゼンさんが!」

「じゃあな〜遠慮なく食わせて貰うぜ〜?」


 遠ざかる声……姿を見送り少し寂しそうなイーリカの隣でミウが、ため息をついた。


「ミウ、知ってる……ゼン、罪な男……それも、悪いけど……イーリカの、無自覚ツンデレ気質も悪い……あにぃも、大変」

「つん……?なんですか?ミウさん?」

「属性、過多……はやく、戻ろ?」


 容姿はイーリカの方が大人の女性だ。だが今は、幼い容姿であるミウの方が、落ちつきのある淑女の様だった。


「おい、お前、くせーからまずは風呂はいれ」

「と、突然来て開口一番それっすか?!ちょ……自分でやり……わぁあ?!」


 予定数の魔力基板を作るため、寝食、衛生面、全てを捨てて取り組んだ結果が、異臭と不潔。

 首根っこを掴まれ、浴室に連れて行かれたイエル。衣服を脱がすことに長けているゼンに成すがまま裸にされ、お湯を浴びさせられた。


「アダルヘルムに必ず風呂は作れと言っておいて正解だったな」


 犬を洗うように、乱暴にイエルを泡だらけにするゼン。


「もっと優しくしてほしいっす……ぶえっ!」

「俺は乳のデカい女以外にゃ優しくしねぇんだよ、男なんて論外だ」

「なら自分で洗うっすから!そこはダメ〜〜〜〜っ!」


 潔癖と言うほどではないが、相手に失礼がない程度には清潔さを保つ事にしているゼン。あまりにもなイエルに我慢ならず、聞く耳を持たない。

 洗うことに一生懸命になり過ぎ、思わずイエルの股間に手を滑らせてしまった。


「結構デカイな?アダルヘルムといい勝負してるな?息子の息子もご立派、ってとこか」

「な、なにいってんです?!」

「ま、使い道なさそうだが」

「…………っす」


 桶に溜めたお湯を、豪快にイエルの頭からかけ泡を流した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ