48-②.蠱毒は笑い、孤独を知る
腕の筋肉を膨張させ、自身の体に刺さっている土の棘を無理矢理壊し、砕いていくオスの個体。
続けていた地面に拳を打ち付け、固定させられていた足の氷を一撃で砕き割った。
「おいファイン、甘く見ただろ」
「そんな訳無いヨ!力技で破られちゃうなん――……違う……魔力を筋力に転化してる……?」
ひとつの魔法に込める魔力の量と質で威力が変わる。ファインは見た目で判断はせず、相手の魔力量を見た上でオスの個体に拘束する為の魔法を放っている。だが、オスの個体の異常な攻撃力を見誤った。
単純な筋力は元々大きかったことはあるものの、さらに魔力を筋力に付与することで高威力の物理攻撃をしていた。
ファインの魔法が簡単に破られたのは、自身の魔力もその手に乗せ、魔法の威力を中和させたせいだった。
「やっかい!ボクと相性悪い、コイツ」
「元々めんどくさそうだったろ、今更文句言うな」
「再生勝負なら負けないのに……」
深く体に刺さった棘を抜き終え、拳に力を入れて全身を力ませるオスの個体。筋肉がギュッと引き締まり、無理矢理、身体に空いた穴を塞いでいく。
「ある意味自己再生……ゼン〜〜……」
「なぁに弱気になってんだ?それでも元魔王かよ」
「元!元なの!新生魔族さん達なんか分からないし知らない!ネェ様に聞いても笑うだけで教えてくれないんだよ?!ひどくな――」
ゴッと鈍い音……ファインの頭が消え去っていた。
「うるさいな」
「はっ!それには、同意する、だが……な?」
目の前で倒れていくファインの体、突き出されたままのオスの個体の拳。
「なにっ?!」
「そう簡単にゃいかないぜ?」
動いている、ファインの腕と手……ガシッとオスの個体の腕を掴み、触れた箇所からパチパチと青い火花が音を立て上っていく。
危険を感じたのだろう、自ら片腕を切り離した。
「っ……たいなぁ……でも、お前の判断は正解だよ」
「……ちぃっ!」
地面に落ちたオスの個体の腕がボコボコと内側から沸き出し、湯気を出して崩れていく。
「電子レンジみたいなもんか、エグいな」
「ゼンに言われたくない〜!」
流石に、腕の再生をするにはメスの個体が必要らしい。地面で数匹残っていた幼体を巻き付け止血するだけにとどまっていた。
「ぁぁ〜〜〜うぁがぁ!!!」
目の前でオスの個体が傷付けられたのを目の当たりにし、結界に閉じ込められているメスの個体が中で暴れ、騒ぎ出す。
「こっちも壊されちゃうかも〜〜」
「飽きたのか?俺よりはえーな」
「手加減するのに、だヨ?異形と言えど、所詮は眷属から生まれた魔物……遊び相手にすらなりはしない」
「はっ!言うねぇ?俺はそこそこおもしれぇと思うけどなぁ?」
好戦的だったオスの個体も、流石に警戒し始め、すぐに攻撃を仕掛けることはせず、ゼンとファインの様子をうかがっていた。
「最初からそうやっておとなしくしてりゃよかったのにな」
「貴様を殺す事が我らの目的だと言っただろう、だが……中々に、手強いようだ」
「うぅ!あっ!うがっ!!」
「その中にいれば安全だタオゼント、しばらく大人しくしていろ」
「ぅぅ……」
言葉を発することはできないようだが、言葉自体の理解はあるらしい。タオゼントと名で呼ばれたメスの個体は結界の中で大人しくぺたんっと座り、静かになった。
「ご立派な名を貰ったんだなぁ?普通の魔物なんか呼ばれるどころかそんな概念すらねぇのに、贅沢だぞ?」
「我が名も教えてやろう……フースだ。個として生きる事ができている今を、誇りに思っているぞ、ゼン」
「へぇ?あれか?俺が母親を用意したことを感謝してくれてんのか?」
「好きにとらえろ、どう理解しようと……貴様はここで死ぬ」
拳ではなく、尻尾が地面すれすれを走りゼンに迫る。
「やる気ねぇならどいてろ、手持ち無沙汰ならそのメスの観察でもしとけ」
「はーい!かっこいいゼンを観察しとくヨ」
尻尾が到達する直前、宙に飛び上がり回避した。初撃の勢いは消したが、うねりながらゼンの後ろを追いかけてくる。
追われた先には、フースがいる。待っていたと言わんばかりの回転蹴りを放つ。
「脆い」
「だから、一般人なんだよ、俺は……ゴブッ!」
両腕で受け、骨を砕きながら後方へ飛ばされるゼン。背中で待っていた尻尾の先端が腹部に刺さり、貫通した。自在に尻尾を操り、自分の目の前にゼンを引き寄せるフース。
「妙な男だ……どうしてもっと本気で避ける事をしない?」
「っ……ゴホッ!!……ガハァ!!」
はらわたを千切るように、ゼンの腹から顔を出している尻尾がゆっくりと右に左に動いている。大量の血を吐き出させ、質問をしているのに、答えさせることをさせないフース。
ピクピクと痙攣するだけになった事を確認し、ゼンを地面に叩きつけ、腹から尻尾を抜き出した。
「呆気ない……いや、おかしい……なぜ仲間が手を出さない?死に向かうこいつを、なぜ」
キョロキョロとファインを探すフース。
見上げた頭上、地上の出来事など気にする様子もなく……手の上で浮かばせている結界を転がし遊んでいた。
「チッ……元魔王?現眷属の主の血縁?知ったことか……番に手を出したことを後悔させてやる」
血だらけで倒れるゼンから視線を反らし、背を向けたフース。ファインがいる空に向かおうと、腰を落とし、両足に力を入れる。
「はぁ……」
「っ……?!」
死の間際の、最後の吐息では無い。
しっかりと聞き取れたそれと、しっかりと尻尾に触れる温かい人間の体温に、フースは悪寒を感じた。
「一般人とは、聞いて呆れるではないか……」
「体の話、な?」
血溜まりも、傷口も、攻撃を受ける前の状態で、笑って立っているゼン。
「俺の力を使えば簡単なことだからな?だからこそ下手に避けることもしない。ま、悪い癖でもある」
「癖だと?わざわざ痛みを受けるとは……そこで遊んでいる元魔王よりも好きものの様だな」
振り返り、ゼンを見ながらフースも笑う。
「確かに俺の周りにいる奴らは、男をたぶらかす性悪女に、女を食い漁らせ家族として笑い、自分の体が壊される事に喜びを感じ、おもちゃで快楽を得るような変態ばかりだが」
飛び上がる構えではなく、攻撃をする為の構えを取るフース。
「俺がこうするのは、痛みを忘れないためだ」
冷えた眼光が光り、フースを見て答える。その答えを聞いたフースは、肩を揺らしながら笑いだした。
「はははははは!!笑止!!!貴様のような奴が言う台詞ではない!!痛みを知る?ならば、我が母の痛みも知らねばならないなぁーーっ?!」
ギュンッと距離を詰め、片腕ながらも重たい拳と、鋭い蹴り、尻尾を交えた連撃をゼンに向かって繰り出していく。
「あの女の痛み?俺の仲間をバカにしたクソ女の痛みなんざ、知りたくもねぇよ」
「……くそっ!くそっ!!」
当たっている。確実に、フースの攻撃はゼンに当たっている。だが、ダメージはひとつも通らない。
「なぜ最初からそうしない!!バカにしているのか!!」
「そうかもしれねぇし、そうじゃないかもしれねぇ」
「曖昧な言い方をするな!!そうやって!同じ様に!我らで遊ぶつもりか!」
叫びながら、殺意を込めた攻撃を……絶対に殺すことができない攻撃を何度も繰り返すフース。
「お〜?いい勘してるじゃねぇか」
地を蹴り、がむしゃらなフースの攻撃からするりと抜け背中に回るゼン。荒い息を吐き、汗を滲ませるフースの背中に右手を当て『破壊』を実行する。
「カァッ!!」
今度はフースの腹に穴が空き、体液を吐き出す。筋肉で塞ぐこともできない。中でぶら下がっている内臓越しに、向こう側が見える。
「その通り。俺は、遊びに来たんだぜ?」




