48-①.蠱毒は笑い、孤独を知る
確実に狙って撃ってきた訳ではなく、そこに何かがいたから攻撃をした……そう感じ取れる適当な攻撃に疑問が浮かぶ。
「ファイン、いけるか」
「メスの個体でいい?」
ゼンは静かに顎で合図をした。
一直線にメスの個体に向かって降下していくファイン。地上から放たれる閃光が削れた体の一部を削れ落としていく……だが、なにひとつ気にすること無くフワリと、メスの個体の真正面で停止した。
「ね、キミ、名前は?」
「あ……ぁ……ぉぁ……」
「ん〜?名前、ないの?」
「ぅぅ~……ぁ〜……」
ファインの体に当てたはずの自分の攻撃が、なんのダメージも与えていないどころか、既に再生されている、そのことに驚いてる……と、いうわけではないようだった。
仮面が張り付いているとはいえ、うめき声のような声発したと言うことは口が無い訳でもない。
ゼンの言っていた、能力が分かれたということがはっきりと出ているとすれば、このメスの個体には――。
「ハナ……レロッ!!」
「わっ?!」
「っぁ〜〜う!!」
またしても気配なく接近するオスの個体。低い体勢で森の中から勢い良く飛び出し、その拳でファインの下半身を分断した。
「ナニ……ッ?!」
「ちょっと〜?痛くないわけじゃないんだよ?……いい刺激、やるね、お前」
「うぅぅぅ!!」
支えの足がなくなり、後ろに倒れながらオスの個体に向かって話しかけるファイン。
間髪入れずに、メスの個体は残った上半身に閃光を放ち焼き消す……チリチリと音をだし、周りで燃えている森の木々と同じように、燃えカスになっていく。
「あ〜あ、お前らの創造主の血縁を殺しちまって、ひでぇなぁ?」
空からその様子を見ていたゼンは、ゆっくりと地上に降り立った。ファインだった燃えカスは、ゼンの肌に触りながら、風に乗って森に消えていく。
「……っい……あぁ……!!」
「あ?」
「ゼンっ!!」
「おぉ?」
挨拶なんてものは期待していた訳では無いが、殺意雄々しく向かって来られるとは思っていなかったゼン。
「なんだなんだ?急にやる気になった?」
オスの個体の拳と、メスの個体が放つ閃光による同時攻撃の威力は凄まじかった。ゼンとファインが飛んで渡った標高の高い山の頂が半分削れるほどの威力。ただ怒り任せの直線的な攻撃。少し横に避ければ、当たりはしなかった。
「まてまて、おい、デカいの!そいつ止めろ。俺の言いってること、お前はわかんだろ」
「うぅ!!ぁ……う?」
2撃目を放とうとしているメスの個体の背中に回り、オスの個体はそっと目の位置に腕を被せた。
「賢明だな?」
「ハナス、キハナイ……コノホウガ、タタカイヤスイ、ダケダ」
「そうか、話す気はないか…………残念だな」
ふたり一緒で、重なることで、なにかが変わる事をほのめかしたのが仇となるのは当然だろう。
オスの個体の両足を弾け飛ばし、『破壊』するゼン。
「ガアッ!!」
「ファインもそれくらい痛かったと思うぜ?ま、ドMの変態だから気持ちよさのが勝ったかもしれねえけどな?」
「ぁう!ぁう!ぁぁぁ!!」
崩れ落ちたオスの個体。流れ出る紫色の体液のニオイにメスの個体は過剰な反応を見せる。慌てた声を上げると同時に、自分の体……腕と腕の繋ぎ目、露出している断面から、無数のムカデの魔物の幼体を体内から吐き出す。
体液に誘われ、オスの個体に向かって集まると、グチャグチャになり、内臓がはみ出ている傷口に噛みつき、形を作っていく。
「きっもちわりぃ再生方法だな……まだアイツの『作り』治しの方がまともに見えるぜ」
綺麗に元通りになるオスの個体の下半身。再び立ちメスの個体の背中に、密着して立つと、そっと腕を身体に回す。そのまま、静かにお互いの尻尾を絡ませていく。
「ホジュウ……」
「あ、あ、はっ!ぁ……あぁぁぁ!!」
ドクドクと脈打つオス個体の尻尾、その動きに反応し、メスの個体は喜び、艷やかなうめき声をあげ始める。
「おいおい、んなとこでおっぱじめるかぁ?情緒がねぇ、よなぁ?ファイン?」
怪訝な顔をして、交尾を見せつけている異形を睨みながら、ゼンは右腕をそっと頭のうえに上げる。
キャラキャラと不思議な音を立て、こちらも形を成していく。優しくゼンの指を握り、元の姿でフワフワと浮いているのは、ファイン。
「さっきボクらもお外で楽しんだけどネ?」
「それはそれ、これはこれだ。あいつらのあの行為は自分たちの生存の為に必要なだけのもんだろ……にしても、自分らのガキをあんな使い方してるとはな」
隙だらけで交尾に浸る異形を観察するゼンとファイン。先制を受けた事で、ある程度の力を見ることができた。そこで考えるのは、能力と知力、どちらを取るべきかだった。
「メスの方は魔力持ちのくせに知力がない、オスの方は知力と腕力を持った一応、理性ある個体……う〜ん、悩ましいネ」
「意思疎通できねぇとめんどくせぇが、できたらできたで言う事聞きそうにもねぇしなぁ」
「ゼン……メスの方残してエッチなことしたいとか思ってないよね?」
「んなバカなことするわけねぇだろ……」
間引きの相談をしているうちに、異形の交尾が済んだようだ。
「きゃぁう!……はぁ……ん〜ぅぅ……」
「ホジュウ、カンリョウ……」
ジュルリといやらしい音を立て、絡ませた尻尾を解き、メスの個体はその場にへたりこみ、少し膨れた自分の腹部を優しく擦りあげている。
その様子を見て、守る様にオスの個体が前に出る。
「ま、とりあえずもう少し構ってみるか?来いよ?ボテ腹守りながらどれだけ動けるか見てやる」
「フッ!!」
距離を詰め、ゼンに重たい蹴りを浴びせる。腕でガードをしたものの、簡単に骨を折られてしまった。
「こっちもいるからネ?」
「ジャマ、ダ」
「さっきのお返しくらいはさせてもらうヨっ!」
「グッ!!」
氷魔法で動こうとしたオスの個体の足を止め、土魔法で地面からトゲを突き上げ上半身を貫かせる。
「体の再生をさせない程度にしろよ」
「わかってるヨ〜……って、ゼンは大丈夫?手、ぶらぶらだけど」
「腕だけじゃねぇ、衝撃のせいで骨半分イカれた」
「う〜ん!相変わらずゼンの体は打たれ弱いネ〜」
「ただの一般人なんだから当たり前だろ?これくらいで済んでるだけでも立派だろ」
などと言っていながら、平然と体を動かし始めるゼン。プッと口に残った血を吐き出し、固定されたオスの個体に近づいていく。
「俺に向けた殺意はあれか?お前らの母親の殺意か?」
「………」
「話した方が、いいヨお前……コイツが大事なら、ネ〜?」
丸い風船のような結界魔法の中に捕らえられたメスの個体を見せつけながら、オスの個体を脅すファイン。短い沈黙の後、話し出すオスの個体。
「ソウダ……カオ、キオク……ハハカラスベテ、モラッタ……オマエヲコロシテ、ソウゴ、マモル」
「はっ!まぁそりゃそうなるか。でもまぁ勇者を守るバカみたいな思想まで受け継ぐとはな」
「ナン、ダト!!」
激昂し、体からさらに体液を噴き出しながら頭を突出し、興奮して話し出すオスの個体。
「アタタカイウデデ、ワレラヲダキ、ヤサシクカタリ、ソダテタハハノオモイ!ウケツギ、トゲルコトガ、ワレラノシメイ!」
「偉そうに言ってるみたいだが、お前の種族がどうやって強くなっていくのか、知らないと思ってんのか?」
スンッと……前のめりになっていた体をゆっくりと戻し、背筋をピンと伸ばし、仮面は遠くを見据えている。
「食ったんだろ?両親の味は、どうだった?」
笑顔の仮面に、ヒビが入り始め、口元からポロポロと剥がれ落ちていく。隙間ができ、徐々に露出されていく顔の一部。しっかりと人間の母親の遺伝子を継いだ、人らしい輪郭を見せる。
「美味……っ!」
ギンッと口角が上がりきり、左半分仮面を残して素顔を見せたオスの個体。途端に饒舌になり、黒く染まった眼球を見開き、金色に光る瞳孔でゼンを見下ろし、本性を現した。
申し訳ない、カタカナ読みづらいですがそういうものだと思って我慢を……我慢を!




