47.人か魔族か、魔物か異形か
町のシンボルの時計台。その頂点に立ち、遠くを見つめるゼン。山の頂のはるか遠く……未だ煙が上がるアダマンタイト鉱山。夜だと言うのに、はっきりとそれが見えるのは、煙の上がる原因が明るく強い光を放っていたからだった。
「グリゼルダはあまり好意的に見ていなかったな?アレはアレで好き勝手やらせるつもりか?どう思うファイン」
「あれ、バレた?」
ギルドとして新生魔族に対抗する手段のひとつの準備を終え、宿をとったゼン達。細かい仕事があるとアダルヘルムはイーリカに連れられ支部へ、ミウとクロエは食事へ、ファインは……休むフリをしてゼンの後をつけていた。
ゼンの頭上を回りながら、スウッと姿を現した。
「いつもベタベタされてんだ、わからねぇわきゃねぇだろ」
「嬉しいこと言ってくれるネ!」
「言ってるそばから抱きつくな、で?」
「ん〜〜……見た目は確実にネェ様の好みでは無かったかんじカナ?」
加工用の大型の機械の搬送をしたファインは、鉱山の地下で育っていた新生魔族と人の間に生まれた異形の姿を見ていた。
すぐに動き出す様子は無かった。外の眩しさに驚き、うずくまって動かなくなってしまったという。
「ちなみに2体いたヨ?双子かな?オスとメス?体格でダイブ分かりやすかったネ〜」
「近親で番のつもりか?元々強い個体だけが生き残るように作らされた魔物だったみたいだが、親に『作った』思想と元々の本能が混ざり進化したか?いや、母親が勇者に心酔していたからな、ヒーローとヒロインを模させたか?」
ブツブツと考えを口にだしていくゼン。
「ほんと……ゼンって考察すきだネ?」
「癖みたいなもんだ」
「エッチなこともいっぱい知っててスゴイもん」
いつも通りの、考えるゼンの真剣な顔をうっとりしながら、期待のまなざしを送るファイン。
「性欲ほど素直な本能はねぇだろ、快楽がいちばん、満たされる」
「……それ、きっとゼンだけ」
「へぇ?試すか?」
グイッとファインの体を引き寄せるゼン。
「ボク、知ってるよ?人間は、愛とか、絆とか……幸福を感じた時、心も体も満たされる」
ファインが見せたその笑顔は、魔族らしい、悪魔の微笑み。それに応える様、ゼンも口角を上げて笑っている。
「魔族のクセに、偉そうに人間を語るな」
「ひどいなぁ?ゼンが教えてくれたんダヨ?その成果の報告……だって、ボク言ったデショ?ゼンのこと、大好きだって」
「らしく、感情を持ったと思うな?お前は魔族だ。本能に従え、従って、快楽に溺れろ」
「もちろん……溺れると思うよ?でも、でもね?きっと――」
ドサッと、体を落としたのは時計台に上る外階段。落ちると同時に、ファインの体は女性の姿に変わっていた。
「通じ合って、抱いてもらえると思うなよ?お前は俺に使われ、壊れていけば良いんだ」
「あはっ……ひどい……ひどいなぁ……あっ……ふ……っ」
「嫌なら、抵抗すりゃいいだろ」
荒々しく、乱暴に唇を奪い舌を絡ませられ、言葉ではなく、吐息を漏らされるファイン。
服を剥がされ、体を弄られ……好意を持っている相手に触れられることの喜びの方が上回り……抵抗なぞ、する訳もなく。
「ボクは――……」
ガタガタと軋む音が鳴る。お互いの脈拍も、息も、激しくなっていく。
大切に抱かれたことなど無い。
大切に抱かれることも、無い。
それでも――。
「なんとなく、わかったカモ」
「あ?」
乱れた髪と服を直しながら、ファインはゼンに言った。
「ゼンはスケベなだけだネ!」
「あのなぁ……まぁ、否定はしねぇが」
「こんな行為を受け入れちゃうボクもスケベだし……やっぱりゼンの言うことがホントなんだろうな〜……」
「スケベスケベ言うな、情緒がねぇな」
「じょ、情緒〜〜〜?!今それ、ゼンが絶対に言うことじゃ無いヨ?!なんて言ってボクのこと抱いたと思ってるの?!さすがに怒るよ?!」
ふんふんと怒るファインを、笑うゼン。ポンッと頭に手を乗せ、
「ま、さすがに嫌いな奴は抱かねぇから」
「ぇ……ゼン?え?ゼン〜〜〜??」
「わかったらさっさと上にこい」
「ん〜〜!!!いつか……いつかイチャラブしてボクがわからせてやるからネ!」
「……どこで覚えたんだよ、んな言葉」
軽快に宙を歩き、屋根に戻っていくゼン。未だけぶり、発光し続ける空を見ながら、ファインを誘った。
「準備運動も済んだことだ、少し遊びに行くか」
「その言い方なぁんか複雑ぅ〜……けど、遊びに行くのは〜〜賛成!」
「決まりだ」
軽く屋根を蹴り、ファイン同様にフワリと宙に浮かぶゼン。ふたりは並び、少し冷たい風を肌に受けながら空を駆けていく。
「まさか速攻で倒しちゃうつもり?」
「はっ!そんな面白みのないことはしねぇよ。ただまぁ、間引くくらいはするけどな」
「ふ〜ん……暴れたりしたきゃ、いいケド」
光に向かって飛んでいく。
歩いて向かわないのは、ひと晩だけの遊び、時間が惜しいというのも理由でもあるが……その方角に向かって歩く必要が無いこともひとつだった。
ファインは飛行魔法で、ゼンは『破壊』の能力で、優雅に飛んでいく。
「う〜ん……柔軟な考え方が必要なのはわかるけど理屈がホント……理解できないヨ」
「魔法ってもんの理解の方が俺にはできねぇよ。そんな事よりファイン?今はなんの時間だ?」
「え?急に言われても……どうやって倒すか考える時間?」
「なんだお前、さんざ俺の事を好きとか言って、ふたりきりで出かけてんのに、デートだとは思わねぇの?」
「そ?!んな?!あの目的でそこに繋がる?!わかるわけないヨ?!ゼン!意地が悪い!!」
前進しながら、ちょこまかと飛び回り、ファインと戯れるゼン。誰が見ても、楽しそうに追いかけっこをしているように見えるだろう。
「っと?」
間近で閃光が走る。
いつの間にか、鉱山手前まで来ていたようだ。
「派手にやってんな」
「夜間に活発になったってことはまだ目が慣れてない?ん〜その割にはピカピカさせて……加減ができてない感じなのかなぁ」
「狭い暗闇で育ったんだ、明るく開けた場所でどう動けばいいのか試行してんじゃねぇか?」
能面が張り付いた顔、人間のような乳房としなやかな体を持った人型。腕と足には関節ではなく、ムカデの肢体が繋ぎ、滑らかに動く骨の代わりとなり体を動かしている。
「魔物でも魔族でもない。まさに異形ってか?」
「生きるのに効率悪そうな形してるしネ?それにしてもこのメスの個体、ボクぐらいの魔力あるかも」
「魔力はあっても、能力は違うだろ?さて、どっちを残して、やる、かっ!!」
ゼンとファインがいる場所は、はるか上空。地上で力を試し、大地を燃やしているメスの個体は見えているとは言えネズミくらいのサイズだ。
普通なら手を出しようがないだろう上空に、唸る風……オスの個体は拳を突き出す。
受け身を取っていたものの、押し潰されるような圧がゼンの体を襲い、グンッと高度を落とされた。
「はっ!見事に能力が分かれたわけか」
柔らかく動くメスの個体とは真逆、笑顔の仮面が張り付き、人型の体は屈強な筋肉と、父親譲りだろう硬い虫の殻が背中と腹の一部を覆っている。揃っているのは、背骨に沿って伸びる、鋭く尖った尻尾。
飛ぶ能力はないらしい……一撃の牽制をして森の中に落ちていくオスの個体。また、気配なく飛び上がってくるのも、時間の問題だろう。
「ゼン〜?大丈夫〜?」
「心配してんならもっと早く飛んでこい」
「あはっ!こんな事で、心配なんかするわけないデショ〜」
「はっきり言われるとさみしいもんだなぁ?」
「心にもないこと言って〜……それで?」
高度が落ちたことで、メスの個体にも気付かれ、目が合った。
「どっちを殺して、どっちを残して……『破壊』する?」
瞬間……閃光が放たれ、ふたりを遮り、空を焼く。
たぶんゼンは賢者タイムを『破壊』してんじゃないかな。




