46.無機質の熱は、心を冷ます
「ま、そもそも?感知魔法に気付かなかったファインも悪いがな」
「それはごめんだけど……疲れてたんだもん……」
「あくま、役立たず」
「うっ……言い返したいけどあんな目に合わせちゃった手前なにも言えナイ……」
ピクリと眉が動いたアダルヘルム。青年の頭をつかみ、笑顔で問う。
「ミウに、なにをした?」
「ぼ、ぼぼぼぼくはなにも――」
「ほん、とう、か?」
「…………ちょっと、ほんのちょっとだけ、ね?質問を、ね?お嬢さん?」
「押し倒された……ミウ、よごれちゃった」
ホロリとわざと涙を流したミウの破壊力は凄まじかった。ものすごい勢いで怒鳴られ、叱られ、床に正座させられた青年の頭を床に叩きつけ土下座させ、謝罪させる。
「ずみばぜんでじだ……」
「服、汚れたから……新しいの、買ってね」
「……そういう意味だったのか」
「なんだと思ったんだお前は」
薄暗い工房。研究と、製造することに特化した、まるで客を寄せ付けないおかしな工房。そこにいる人物も、お似合いのおかしな人物であった。
「あまり強く押し付けると、また気絶して話を進められないわよ、アダル?」
「む……そうだな……話せるか、イエル」
「はい、パパ」
奥の部屋から持ってきた巻かれた紙の束をテーブルに広げるイエル。
「大型の兵器の設計図です」
細部まで細かく精密に描かれた設計図を見たゼンは、嬉しそうに口を開く。
「こういうの見ると、ワクワクするよなぁ?おかしい頭も、使いようってわけか」
「一応これでも私の息子なのだ、そう悪く言うな」
「すまんすまん、で?さっき俺らに向けて発射したのは、これか」
「っす……すみません……」
「謝るより説明しろっての」
イエルに視線を送ることなく、言葉で制しながら、じっくりと端から端まで設計図に目を通していくゼン。
「今ゼンさんが見てるのは、先ほど使わせていただいた移動式20連投射装置の設計図っす……奇しくも……アダマンタイト製にも耐えれる事が証明出来ました……」
「ミスリルの外枠でアダマンタイトの特殊な魔力の摩擦を流すようにしてんのか……それに軽量で素人でも扱いやすいみてぇだな……量産の目処は?」
「作り自体は単純なので、僕じゃなくても作れるようにしてあるんで日に50はいけるっす。発射する刃はギリギリ玄人に頼むか、最悪石でもいいんで割愛するとして……制御部分のここは僕じゃないとヤバいっす」
ゼンの見ている設計図を覗き込み、複雑な魔方陣の重なったプレートの図解を指差すイエル。
「少しでも間違えたのを使えば自爆っす……寝ずにやって30かな……」
「ふん?それもそれでありだな。できる限り数がほしい、失敗した奴は爆弾代わりに使うように加工を上掛け、その作業含めりゃまぁまぁの数いけるだろ」
「ぉぉ!それなら追加で投てき爆弾の入れ物も作るっすよ!」
新しい紙を取り出し、サラサラと新しい武器の設計図を書いていくイエル。
「さっきとは別人だネ、彼」
「好きなモノを好きなだけ出来るようにと、環境を整えた結果こうなったのだが……少しばかり周りが見えなくなってしまってな。腕は確かだぞ、腕は」
「ふふ……個性豊かな子供たちがいて羨ましいわね、アダル」
数分で書き終え、簡単に説明をしようとイエルは口を開きかけたが、皆まで言うなと言わんばかりにそれを止め、ゼンはすべての設計図を巻き直し、
「大型の兵器はギルド支部がある街と村にだけあればいい、が、投射装置は出来る限り量産しろ。期限は2週間、やれるな」
「その……期限に、意味はあるんっすか?」
「やっとこの退屈な世界が、面白くなる始まりの期限だ」
ゼンの笑顔が恐ろしく見えたのだろう、イエルは無言で高速で頷き、ペコっとお辞儀をして転びそうになりながら作業部屋に引き籠もった。
「ファインは出来上がり次第各地へ運べ」
「う……また重労働……」
「ね、ゼン……そんなに作って、にするの?」
ミウはまだ、理解していない様子だった。
「これから世界規模で、魔族との大戦争の始まりだ」
「その為の、武器?」
「ギルドってのはな、戦争する為の軍隊じゃねぇ。個々での能力は高くとも、パーティー登録してある面子とは安々と連携も取れるだろうが、それ以上の人数で集団戦するのは不向きな奴らも多い」
入店直後、自分たちを襲った投射装置を叩きながら、
「急遽寄せ集められた奴らに、仲良くお手々繋いで町を守れってのはちぃっとばかり骨が折れる。全員熱意はあれど、手柄、報酬、名声の為で基本、動く奴らばかりだからな」
「こちらに比べ……王都は兵として教育を受けている騎士団がいます。それぞれの役割を守り、守護する者たち。ハーフェンの時の様な数で襲われる様な事があれば、明らかに不利」
「勇者くん達も同じ戦い方をしないだろうしネ〜」
「ま、さすがに騎士団側も民を見捨てることはしねぇだろうが、対立関係にあるギルドに表立った協力はしないだろう」
ミウには難しい話だったらしく、首を傾げたまま、きょとんとしている。
「簡単に統率を取るのに手っ取り早いのは、同じ力を全員が使えることだ」
「各支部に配備予定の冒険者はランク関係なく、混合にするつもりでいる。だからこそ、ギルド所有の新型兵器の力が必要なのだ」
「援護攻撃も強力になりやり甲斐となり、前線を張るものは己の力を自由に使い、動くことができる……冒険者として戦いやすく、分かりやすく力の差が出ずに身内で争う事もなくギルドの力を発揮できるというわけ……どう?わかったかしら?ミウ?」
半分に折れそうになるほど、横になって行くミウ。それを見て、ファインは得意げにミウに向かって言った。
「ふふ〜ん?つまりね?自分の身は自分で守る!ダヨ、おチビ!」
「うん、なるほど……あくま、わかりやすい」
「まぁ、なんだ、お前らは、それでいい」
ガクッと肩を落とし、力無く息を吐いた。今話したことは、クロエとアダルヘルムとの、情報と作戦のまとめをした……と言うことにしたゼン。
「黒ブタ、たまに見に来てやれ」
「わかりました」
「すまんなゼン、クロエ嬢……イエルの技術魔法は消費魔力は少なく持続力が長い分、体への負担が大きい……」
「2日3日でぶっ倒れても困るのはこっちだからな」
作業の邪魔にならないようにと、静かに【奏鉄堂】から離れ、ここ以外に新設された鍛冶屋の様子を見て回ることにしたゼン達。
アダマンタイト鉱山の集落の鍛冶師たちは、元々各地に工房を構えていた。今回の騒動で地元に戻る者もいたが、素材が尽きるまで鍛え続ける根っからの職人魂を持つかわり者たちは帰省ではなく、移住を選んでいた。
「装填用の刃の発注は、ここと、ここ……あとはここだな。どの工房も名高い名工が務めている、問題はないだろう」
平和な中世の町並みの合間に増設された鍛冶工房。開かれたドアから見える、この世界とは不釣り合いな機械。真剣な顔で操作をしながら、輝く鉱石を磨き上げている。
「名工、ねぇ?」
クッと口角を上げて、訝しげに笑うゼン。
「あなたが与えた物が……そんなにおかしいのですか」
前から歩いてきたのは、イーリカ。鍛冶の町の移設に伴い、ギルド支部も移動となった。この町にいるのは当然だった。
「わざわざ会いに来るなんてなぁ?俺を忘れられなかったか?」
「っ!違います!あなたに用など、ありませんっ」
あの時の出来事を思い出し、顔を赤くして怒りをあらわにするイーリカ。ゼンを無視し、後ろを歩いていた父、アダルヘルムのもとに駆け寄る。
「嫌われてしまっているわね、ゼン」
「あれくらいのいたずらで根に持ちすぎだろ」
「生娘なのですから、仕方ないわ……ふふ、アダルにバレないといいわね?」
背中に感じるのは、親子の他愛ない会話……ゼンが1度も経験した事の無い、温かく優しい話し声だった。




