43.友に捧ぐ、心ほぐす酒
月は高く昇っていた。
この夜空も、果てのあるものだと知った後に見上げると、なんとも味気ないものに感じ、すぐに室内に入り、浴室へ向かうふたり。
「まったく、ゼンの奴め……せっかくふたりきりになれる貴重な夜の時間を、雰囲気をぶち壊す話で台無しにしおってからに」
「そう言うなグリゼルダ……ゼンはゼンなりに、我々を試していたに過ぎん」
「嬉しそうに言うのねアダル?やっぱり、男同士だと通じ合うものがあるの?」
「女同士でも、そういうことはあるのだろう?同じこと……さて」
潮風と海水でベタついてしまったお互いの体を、温かいお湯で洗い流しながら、触れ合う。
「ん……少しヒリヒリするわね……」
「それはいかんな、少し温度を下げよう……グリゼルダの柔肌が荒れしてしまっては困る」
「アダル……人からしてみれば異形の化け物、ではないの?鱗だって……ゴツゴツしてるし……あっ…」
そっと後ろからグリゼルダを抱くアダルヘルム。柔らかい皮膚を持つ肌と、硬い鱗の肌を優しくなぞり撫でながら耳元で囁く。
「こんなにも、すべてが美しく柔らかく、甘いと言うのに……?君を化け物だと呼ぶような奴は私がすべて退けるよ」
「やだ……アダル……っん、くすぐったい……」
密着する体は熱を持ち、お互いの心も体も溶け合っていく。グリゼルダは、この時をずっと待っていた……偽りの姿ではなく、本当の自分の姿でアダルヘルムに抱かれることを。
「愛してるわ、アダル」
「私もだ、グリゼルダ……」
深く深く絡み合う、甘いキスをして。
アダルヘルムはグリゼルダの体を、優しくベッドに沈め……夜が明けるまで、貪るようにお互いの体を確かめ合っていく。
母と父が愛を確かめ合っている頃、アデル王子は目を覚ました。
髪をかきあげながら上着を羽織り外のデッキに移動し、無言のまま海を眺める。
「なんだ、変な時間に起きやがったな?」
「っ!?」
「んな驚くなよ?のど乾いてんじゃねぇの?なんか持ってきてやるよ」
「え、いや、そんなお気づかいな……ああ」
遠慮するアデル王子をゼンは無視し、デッキの端に置いてある氷が入った桶から酒瓶を2本……テーブルに置いた。
「僕は、子供ですよ」
「グリゼルダは、今アダルヘルムとお楽しみ中だから心配ねぇぞ」
「それとこれとは、別に関係ないと思いますが……」
「辛いのが好きか?甘いのが好きか?」
断っても、話を聞かないゼン。きっと引かないのだろうと、アデル王子は折れた。
「へぇ~?魔族版のアダルヘルムってこんな感じか?」
「お褒めにあずかり光栄です、ゼン様」
白い布が全身をつつみ、解ける。中から現れたのは、青年の姿をしたアデル王子、ゼンと同じテーブルに付き、酒に口をつける。
「僕は甘いものは好みでは無いです……美味しいですね」
「わかる口みたいだな?お前の父親に買ってもらったもんだから、好きなだけ飲めよ?」
「…………実の母親を子供の姿で騙している僕を、おかしい奴だとは思わないのですか」
ゴクゴクと喉を鳴らし、常温で飲んだ時と違った喉越しを楽しみながら、ゼンは笑って言った。
「はっ!俺の所に集まる奴はおかしな奴しかいねぇのは確かがな?お前のそれは、母親の事を思ってのことだろ?おかしなことじゃない」
「……そんな風に言われるとは思いませんでした」
「俺を疑ってんだろーが、さすがにそこまで腐っちゃいねーよ」
「その……ごめんなさい……」
ゼンは、自分たちを利用しているだけなのだと思い込んでいた。なんでもお見通しだと思わせるゼンの観察眼に、驚くと共に、自分の父親がゼンについている理由をなんとなく理解したアデル王子は、自然と謝罪の言葉を口に出していた。
「なにに謝ってるかはしらねぇが、気まずくするな、せっかくうまい酒を飲める仲間が増えたんだ」
「はい……ん……美味しいですね」
「アダルヘルムとも、飲めるといいな?」
「そんな日は……きっと来ないでしょう」
優しく笑いながら目を閉じるアデル王子。
「父の前でこの姿になる時はおそらく戦場……身を呈して守る為のもの……最長した僕を見せられる最初で最後の時間しかありません」
諦めという、覚悟を吐き出したアデル王子に、ゼンは言った。
「あいつはな、魔力を持たないことでけっこう虐げられてたらしいんだ。それを補う為に、めちゃめちゃ体鍛えたんだとよ、着痩せするから見た目じゃ分からねぇけどな?脱いだらすごいって奴だ、ははっ!」
昔を思い出しながら、楽しそうに話すゼン。
「だからな?そこそこ顔はいいのに女っ気がなくて、女と会っても全然その気を出さないんだぜ?その癖将来の夢は「平和になったら家族を、たくさんの子どもたちに囲まれて笑って暮らしたい」だって言うんだから笑えるだろ?」
「……っ!ゼン様、それって……」
「その時の俺は、面白がって淫紋をつけたわけだが……あいつは強いよな……俺に遊ばれたくせに、なんだかんだ生まれたガキ共全員大事に育ててさ」
いつも仏頂面で、無表情で、感情を表に出さないゼンが、不器用に笑っていた。
「お前はアダルヘルムにそっくりだ、見た目も中身もな。魔力を持って生まれた自分のガキがいることは、相当嬉しいと思うぜ?……最近まで知らなかった分、お前のことをこれから、相当甘やかしたいと思ってるはずだ」
「父様……」
「家族を守ろうとすることは構わない、だが、さっき俺に言ったことは、絶対してやるな」
コンッと、アデル王子の持っている酒瓶に自分の酒瓶をぶつけ、
「アダルヘルムは、俺のことを親友だと言ってな?なら俺も、その親友とやらの力になるべきだと思わないか?」
「なんで聞くんですか……そういうことは、「なりたかった」と、言うべきでは?」
「俺は素直じゃねぇの」
「ふはっ!」
酔いのせいで、饒舌に、心の内を曖昧に話すゼン。真剣に話を聞いていたアデル王子が、思わず吹き出してしまう程、珍しい事だった。ハッとして、咳払いをし、表情を戻し、話に戻る。
「そんな風に、大切に思いながらも、世界を『破壊』する目的は……変わらないのですね」
「変わることがないからこそ、それまでは、楽しんでもらわないとだからな」
「自分勝手な考えですね?わがままにもほどがあります。ですが……それすらも、父様は受け入れているのでしょうね」
「確証はねぇけど、アダルヘルムはそういう奴だ。だからお前も父親見習って、俺に利用されることを、楽しめ」
迷いなく言い切るゼン。
「もちろん聖女を亡き者にするための勇者狩りは楽しみますが……その……いつも言っている『楽しめ』というのは……本当にあなたの言葉なのですか?まるで言い聞かせているような……」
「お前……アダルヘルムより勘がいいな……?ま、また酒を飲む機会があれば話してやるかもな?もちろんその時は、お前の親父も一緒にな」
「あはっ!……できる限り、善処します」
今度はアデル王子の方から、ゼンの酒瓶を鳴らし、残りを綺麗に飲み干していく。
「そろそろミウさんのところに戻ります」
「そうか。あぁそうだ、ミウには手出すなよ?アダルヘルムがクソ怒るからな」
「僕はそこまで軽薄で愚かな行動はしません……おやすみなさいゼン様」
ミウと並んで寝かされていた場所に静かに戻るアデル王子。すやすやと寝息を立て、寝返りをうち仰向けになったミウの衣服は少しだけはだけていた。
「ん……」
「……」
手を出すなと。わざわざ言うほどのことなのかと……言い返したものの、ふと興味が湧いてしまったアデル王子。
気持ちよく寝入っているミウの首筋に自分の口を沿わせ、ぺろりと舐めながら、口をつけてしまった。
「っ?!」
後ろにたじろぎながら、勢いよくミウから離れるアデル王子。急いで体を子供に戻したものの、感じたことのない刺激の痕跡は残ったまま、へたり込み足を閉じる。
「無謀な好奇心……エルフだから……これは彼女がエルフだから……そうだ、きっとそうだ」
ゼンの言ったことは正しかったと、初めて納得してしまったのが……性への目覚めであった。アデル王子は、そっと部屋から退室し、熱を持った己の体を、隠れて慰め、夜を明かした。
元々、エルフの持っている魔力は魔族や人間とちょっと違うかんじ。
ハチミツで例えると、一つの花から採取した純粋なものがエルフが持つ魔力。
人間と魔族(同種族だったり別種族同士だったり)は遺伝で混ざっちゃうので、同じハチミツでも様々な花から採ったブレンドタイプ魔力。
だからエルフの魔力は実に甘露!甘露!
まぁ、いきなりこんな事しちゃったのは、淫紋発動状態から受胎したせいもあるんだよ、アデル……パパに怒られないように頑張ってほしいものですね




