40.それぞれの英雄、それぞれの道
「サリエルは神の使者で、神に力を与えられ、神の指示に従って動いていた」
「嘘つくな、信じない」
これに関しては、きっぱりと否定して返事をするソウゴ。
「ふぅん?お前らの前では主張はしてなかったってことか?しっかり守秘義務守って、社畜してたんだな、おもしれっ」
「魔王様魔王様ってうるさかったし、ありえないよ」
「はっ!それも間違いはない、が……」
ソウゴにとって、この世界での恩人はフォンゼルではあるが、絶対的なのは神。それは変わることがない。英雄であったことと、強さは認めざるを得ないものの、ゼンの言葉は簡単に信じることはできない。
「神がこの世界を創ったということは、この世界の住人たちの生死すら自由に操れる存在であるのも、神だろ?」
「だとしたら、余計にゼンの言うことは信じられないよ……神がゼンを操って僕を騙そうとしてる、って事もあり得るってことじゃないか」
「その理屈で言うと、サリエルが神の使者であることが事実であるってことにもなるぜ?」
「うっ……ややこしい」
考えれば考えるほど、なにを信じればいいのか分からなくなっていくソウゴ。
「俺の能力で俺には神からの全ての干渉を『破壊』してる、俺がどこでなにをしてるかすら神は感知できない。どちらかと言えば俺を信じる方が吉ではあるがそんなことは考えてないだろーな」
「そんな事も出来るの?!めちゃくちゃだよこの人……」
「はっ!褒め言葉をありがとうな?ま、今までこの退屈な世界で退屈に過ごしてたんだ、少しくらい深く考えるのもいいだろう。これからのお前と、お前の仲間たちの行く末をな」
頭から煙を出して唸るソウゴの肩を叩き、立ち上がるゼン。
「俺は、くだらねぇことをして楽しんでる神を破壊することを目的に動いている。これをお前に伝えたことで、神がお前になにかするかもな?それで俺のことを、お前が悪と認定するなら、もう、それでいい」
「……宣戦布告?」
「どうしてそう……あ〜……」
頭を掻いて呆れながらため息を吐き、強い言葉で返す事にしたゼン。
「そうなりたくなきゃ、俺が俺の邪魔だと判断するような事はするな、あと、仲間は大事にしろ?後悔する事にならないよう、最後に帰る場所も間違えるなよ」
「悪役みたいに、英雄のような言葉を使って……バカにするな、僕は、間違えない」
「どうだろうな?ま、その時まで楽しく過ごせ」
空き瓶を置いて、ゼンは去っていった。
「その時まで……?も〜……あの人いったいなんなんだよ……神を破壊する?わからない、なんでそこまで――……ん?」
足を広げ、緊張から解放されたように空を見上げたソウゴ。広げた手に当たったのは、壊れかけの通信用魔道具と紙切れ。
「『直せば使えるかもな 恋しくなったら お話してやってもいいぜ?』…………ほんとに、なに?」
怪しい置き土産ではあったものの、万が一の事もあるかもと、そっと腰のポシェットに入れた。
「もう少し……」
ゼンから貰った酒を少しずつ……甘く香るのに、甘みを感じないすっきりとした味わいにクラクラとした酔いを感じながら、まとまることの無い考えを今この時だけ、潮風に流し、目に映る景色の美しさを、心に刻む。
「なに慌ててんだ?」
「ゼン・セクズ?!面倒な……っ」
「聞こえてんぞ?探してるのはソウゴか?」
宴に参加している人々に、時折声をかけられ、気もそぞろに話をしながら対応しているフォンゼルを見つけたゼン。
「教えてやろーか?」
「知っているのですか?!いや……なにを吹き込んだのですか」
「吹き込んだって断定するなよ、ま、自立を促してやったくらいか?」
「……少しこちらへ」
「お、ん?」
薄暗い路地にゼンを連れ込んだフォンゼル。壁にゼン押さえつけ、逃げられないようにしてから怒りのこもった声で責め始めた。
「お前のせいでソウゴから笑顔が消えていく……あの日から世界のために働くにつれ、お前に対する怒りが迷いに変わり、それが今も、ソウゴの心を蝕んでいる」
「ソウゴは拗ねて、お前は八つ当たりか?同じ理由でも個性が出るな」
「拗ね……ソウゴを脅したのか!」
「あいつが勝手に漏らしたんだよ、そこまで俺はチンピラじゃねぇ。どうしたフォンゼル?いつもと違うじゃねぇか」
理由を分かっていて、ニヤニヤとしながら問いかけるゼン。
「そんなに、ファインにキスされたことが気に食わねぇの?」
「不必要な処置を……無駄に唇を奪うなどっ!俺のソウゴを汚しやがって……!」
「ははっ!俺の、ねぇ?……私情で動くな。フォンゼル、ソウゴはお前のもんじゃねぇよ」
焦がれ慕う心は、自分を見失う事もある。
ゼンに勧誘され、揺れ動いてしまった自分の心の弱さを知っているはずのフォンゼル。人らしく、正しい怒りの現れだとしても、勇者であり、英雄として、歩まねばならないソウゴを支えるべき人物が、その相手を私物化するようなことはあってはならない。
「俺の仲間の勝手な行動は謝るが……一緒に行動することになって、お前、勘違いしてんだろ?」
「勘違い……?」
「他人の色恋はどうでも良いと思ってたが、俺の手を取らなかった時のように、その思いは捨てたほうが良いだろうな、お前もソウゴも潰れるだけだ」
「…………」
まずは自分の余計な感情を消せと。
「最後の時まで勇者の隣にいたいと思うのなら、お前はふさわしい立場で隣にいるべきじゃねぇの?」
力を入れて壁に押しつけていた腕を下ろし、顔を伏せて小さな声で吐き出すフォンゼル。
「自分でも、こんな苦しい思いをするとは思わなかった……どうして自分はこうなのかと……」
「まぁ、一般人からしたら普通じゃねぇからな」
「私も……ソウゴとは違う迷いを持ちながら憤っていた……こうもはっきり捨てろと言われてしまうとは思いませんでしたが、確かに、そうすべきなのかもしれません」
「おもしれーからそのままでもいいっちゃいいけどな?お前らふたりだけじゃなくなった今、仲間のためにも、だ、フォンゼル」
「……」
ゼンから一歩下がり、顔を上げたフォンゼル。先ほどの焦りと怒りに満ちた表情は無く、いつもの顔に戻っていた。
「何故でしょうか……貴方の言葉は乱暴で理解し難いのに、納得してしまう強さがある」
「知らねーよ、俺は俺の思った事を言ってるだけだ」
解放されたと、ゼンははぁっと大きく肩を動かし息を吐いた。そんな気が抜けたゼンの顔を、なぜかジッと見つめるフォンゼル。
「なんだよ?」
「もし……ソウゴに会うこと無く、貴方に会っていたら、と……思いましてね………………悪くないかもしれません」
「げっ、やめろ、溜めて言うな、本気に聞こえるだろ」
「冗談だと?……どうでしょうね?」
「だから、寄るな!」
狭い路地、フォンゼルの方が身長もあり、腕が離れたとはいえ状況的に不利、かつ『破壊』する大きな理由もない。基本的にゼンは非力の部類、普通に反撃しても敵わない可能性がある。
フォンゼルが同性に対し持つ感情を、あからさまに否定しようとは思わないものの、それが自分に向けられるのは別なゼン。
「ふふふ……ゼン・セクズ流で言うところの、お礼です」
「俺はそんな礼なんかしねぇよ!近いっ!ソウゴは港にいる、さっさと迎えに行けっ」
ゼンを手玉に取る機会など中々ない。
歩み方の一片に気付かせてくれたことの礼と言うより、ソウゴの唇を勝手に奪った事の仕返しという意味の礼、なのだろう。
「……これで本当に、会うことはない、のですね」
「そうだな、ギルドと王都間でなにかあればアダルヘルムが出るし、今回みたいな事がない限り顔は合わせねぇだろーな」
「安心しました……どうしても根底にある貴方への不信感は消せはしません。これ以上の迷いは、不要ですから」
お互いにそれが一番いいことなのだと、静かに笑う。
「あ」
「あ……?」
「新生魔族には気を付けろよ〜?」
一足先に路地を抜け、ゼンは少し騒がしさが収まり始めた町中に姿を消していった。
「はぁ……綺麗に別れればいいというのに、結局余計な事を……ゼン・セクズ、貴方のそれは優しさですか?それとも――」
困らせる事を面白がっているだけなのか、まだ戦いは続くのだと教えてくれているのか……意図はわからないまま、港へソウゴを迎えにフォンゼルは歩き始めた。
全然どうでもいいかもですけど、港町ハーフェンとか夜の都ナハトはチゲ鍋的な感覚で名前つけました




