39.偽りの宴、交わす杯
映像からは音は聞こえない。
ただ静かに、世界に産み落とされた聖母の子らがソウゴの手で浄化され消えていく様を映し出している。
「どうだ?綺麗に浄化されてくだろ」
ただ単に粉々に砕く訳ではなく、勇者の手で世界が救われたことを象徴する様に、美しい青い光が天に昇りながら……その姿を『破壊』して。
その光景は、ソウゴの目にも美しいものとして刻まれた。
ホワイトアウトした映像、次に映し出されたのは守護障壁だけが残されている世界各地の現在。
もちろん、セリハもティオも見ている。すべてが終わったとその力を解除してのだろう、徐々に守護障壁も消えていく。
「あとはこれと」
空の映像が割れ、
「これ」
残っていた根城がサラサラと粉になっていく。
「これで……あのクズの残したものは全部消えた様だな……はぁ……」
ホッと胸をなで下ろす。アダルヘルムだけでなく、ソウゴもフォンゼルも。
その隙に地上に降りたファインはゼンの耳元でコソコソと……。
「ねね、ゼン……この姿で聖女ちゃんのところ行ってみてもいい?」
「やめろ。俺が言ったことが嘘になんだろーが、さっさと戻れ」
「ざーんねん……」
いたずらは止められ、ゼンと一緒に和やかに話をしているソウゴの元へ。
「おい」
「な、なんだよ」
「さっさと聖女とティオの所に行け、待ってんぞ」
「…………言われるまでもない!今行こうと思っていたさ!フォンゼル様!行こう!」
「そーかよ。フォンゼル、これはすべて勇者の手柄だ、忘れんなよ」
「…………承知しました」
ゼンの背中にくっついているファインに、なにか言いたげにフォンゼルは睨みをきかせていたが、ソウゴに手を引かれてしまい、港から離れていく。
「さて、と。邪魔者はいなくなったな、それじゃ――」
「皆無事でなによりだな……クロエ嬢、本当にもう大丈夫か?身体に変なところはないか?気持ち悪いことをされたりしたか?そうだ、湯浴みをして体だけでも汚れを洗い流すのはどうだろうか?」
「ふふ、そんな私にも過保護にならなくても大丈夫よアダル……私より、ミウとファインを労ってあげたほうがいいわ」
やっと落ち着けると気が緩んだのだろう、素に戻りクロエに絡むアダルヘルムに、
「ミウも、汗かいた……クロ、一緒にはいろ」
「ボクも久々に疲れたかも〜〜早く休もう〜〜」
休む気満々のミウとファイン。
「うるせぇ……もういいわかった、明日でいい明日で」
「ん?なにがだ?ゼン・セクズ?」
「しーらね」
しばらくして……避難先の野営地から住人が戻り、宴の準備が始まった。騒がしく、忙しなく動き回る……世界を救った、勇者の為の宴を催す為に。
「喜べゼン・セクズ、この町にしかない珍しい酒も振る舞われるらしいぞ?私も口にしたことが無いからな……どうだ?一緒に」
「へぇ?それで俺のご機嫌とりか?」
「違う!評判を聞いてあなた好みの酒だと思ったからで……それに……あなたがこの宴の恩恵を受けない理由は無いだろう?」
「はは!ま、飲むけどな?」
ひた仕事終えた後には、最高の1杯をと……アダルヘルムの誘いを受け宿を出るゼン。
「ミウとクロエ嬢は先に見て回っている……ファイン殿は部屋で体を休めるそうだ」
「あいつが飲み食いできるもんなんざ宴に出るわきゃねぇからな、行くだけ無駄だ」
「ハハハハ!本部に戻ったら残りの毒酒を振る舞うとしよう…………なぁ、ゼン」
本人を目の前にして、名だけを呼ぶことはほとんど無いアダルヘルム。
「大丈夫か?」
ゼンを見るアダルヘルムの目は、大切な友人を見る目だった。
「空きっ腹に酒を入れることを心配してんのか?俺はそんなやわじゃねぇ、旨い酒なら無限に入るからな」
「ゼン……なにがあろうと、なにをしようと……私は離れるつもりはない」
「そーかよ、じゃ、もしゲロったら頼むわ」
「ふっ……まかせろ、この手で受け止める」
「……それはさすがにやめてくれ」
酒瓶が詰められた大量の木箱を背にした突貫で作った屋台に並び購入し、すぐにひと口味見をするゼン。
「アダルヘルム、一箱買えねぇの?」
「ハハハ!気に入ったようで良かったよ……すまないが二箱購入できるか?言い値でかまわん、可能ならギルド支部に運んで――」
「どんだけ資産築いてんだ?お前まさか、パトロンのママでも作ったかぁ?」
ビクッとするアダルヘルム……図星だったらしい。
「……今度紹介する」
「いらんわ」
人混みから少し離れ、酒を楽しんでいると、遠くにミウとクロエの姿を見つける。
「ふたりも楽しんでいるようだな」
「服着てるの、久々にみたなぁ」
「……普段から着せてやってくれ」
「着てるほうが目立つだろ?ほら、絡まれてる」
「ぬっ……すまん、ゼン」
「気にすんな、俺も野暮用がある」
揃いの白いワンピースで屋台の食事を楽しむミウとクロエに近づく酔っ払いを撃退しにアダルヘルムはゼンから離れた。
「楽しんで来いよ、アダル」
追加の酒瓶を1本手に、にぎやかな広場から離れていくゼン。向かう先は港。
「お前の宴だろ、なにしてんだ」
「わっ?!」
「んな隙だらけでよく勇者やってんな」
広場へ向かう途中、港へ下る階段の先に見覚えのあるマントが翻るのを見たゼン。ソウゴの横に座り、酒瓶を渡す。
「お酒は……」
「俺の酒が飲めねぇってか?」
「昭和のおじさんみたいなこと言うんだ……せっかくなので、貰います」
潮風が心地よく吹き抜け、静かに……月夜で光る海を眺めながらゆっくりと酒を飲み、ゆっくりと時間が流れるのを感じる。
「大人しいな?」
「……僕は未熟だと思い知らされましたので」
「はっ!なんだ、拗ねてんのか」
お酒のせいもあるのだろう、もともと子供っぽかったソウゴの態度が更に子供のようになり、ゼンに笑われた。
「僕は、事故で死んだことでこの世界に来たんだ。死んだことの納得ができなくて、なんでもいいから生きたいと思って、神様の言葉に従った……けど、この世界にいたという英雄は未だ健在で、僕なんか足元に及ばないくらいの強さを持っていて……あの日の出来事は許せないと思っていたけど、結果的に世界の為になっていって……へこむくらいはするよ」
体育座りのソウゴは、さらにギュッと足を抱え小さくなった。
「英雄ねぇ……?そんなもん周りが勝手に言ってるだけで、俺がやってることは褒められたり讃えられるような立派なことじゃねぇ」
「自覚あったんだ……」
「当たり前だろ?無自覚でやってるなら、とっくに世界は滅んでる」
ふっと笑い、あぐらをかき直すゼン。
「正義と平和の象徴として、なにかを守ろうとするお前は間違ってない、俺に出来なくて、お前に出来る尊い事だ」
「急におだてて……なにか企んでるんじゃ……」
「おう、俺は企みしかしてないぜ?」
「そんな堂々ということ?あんたは、やっぱおかしいよ」
楽しそうに笑うゼンを疑いの目でみるソウゴ……だが、その笑顔は本当に楽しいと、心からの笑顔だと思い直させる程柔らかい表情だった。
「お前はなにも知らないまま無垢でいいなぁ?世界を知る事になった時、お前は神とどう向かい合う?」
「どうって……神様に会って話ができるわけじゃないから……う〜ん……理由を聞いて、みんなとどうするか決める、とか?」
ポカンとした顔をするゼン。その表情の理由が分からないソウゴは首をかしげる。
「変なこと言ったつもりはないんだけど」
「やっぱ話さねぇとわからねぇもんだな。お前はもうそれでいけ、ボケ散らかしてる方がフォンゼルも気が楽だろ」
「なんだと!まじめに答えたのに!そんな言い方して!」
「素直で可愛いやつって意味だ、怒んなよ」
おちょくられているのだから、怒らないわけがない。ソウゴにくだらない悩みを増やすことを面白がっているゼン。
「うまい酒が飲めた礼に、ひとつだけ教えといてやるよ」
最後の一滴まで酒を飲み干してから、ゼンは伝えた。




