38-⑥.聖母の子ら
「ひっでぇ面」
サリエルの死に顔……口角が鋭く上がり、見る人が見れば、物凄く喜んで、笑って死んだと思われるだろう。その顔から剣を抜くと黒い塵となっていくのを確認し、サリエルだったものから背を向けるソウゴ。
「……助けられた……その、ありがとう」
「そういうのは目を見て言うもんだぜ?ま、こっちも無事に救い出せたし……こちらこそ、ありがとう、勇者様?」
どんな顔を向けたらいいのかわからないと……背を向けたようだ。その顔知るのはエンシェントドラゴンだけ……そっと顔を擦り寄せると、白く輝く鱗を散らして人のかたちになり、優しく両手でソウゴの頭を包み込んでいた。
「フォ、フォンゼル殿だったのか?!背を蹴ってしまったこと、詫びさせてくれ」
「あら……便利になったのね」
「乗り物になった気分はどうだ?フォンゼル」
「ソウゴを導く力のひとつに慣れたこと……気分を害することになるはずないでしょう?」
フォンゼルの右耳に光っていたのは、ひし形の枠に4色の石が埋め込まれた、小さなピアス。
「よく頑張りましたね」
「フォンゼル様……本当にこれで良かったの、かな?」
目の前で甘やかされている勇者を見て、険しい顔をするゼン。
「右耳に偽り無し、なのは別に構わねぇが、自立させないようにしてるのはお前か、フォンゼル」
「……そんなつもりはありません、ただ私は労いをしているだけですよ」
「はっ!自覚なし、子離れできない親ね……ま、後で仲良く痛い目見るのもいいだろう」
ふたりから目を背け、港側の方角の肉腫の壁を『破壊』し、外の様子を確認するゼンとアダルヘルム。サリエルの命は消え、クロエも帰ってきたが、未だ空に浮かぶ映像は残り、地上には聖母の子らがうごめいている。
「ふむ……クロエ嬢が『作らされた』モノ……あのクズが消えたからといって共に消える訳では無いようだな」
「雑魚はもう増えてはなさそうだが、ファインとミウがここいらのを倒してるだけで、他のところは守護障壁で足止めしてるだけの状況は変わらずか」
「移動して一掃しますか?」
少し考え、ソウゴとフォンゼルに声をかけようと振り返るゼン。
「何角関係なんだよお前らのパーティーは」
妙ないい雰囲気を出しているふたりに近づき、
「おい」
「わっ?!」
「わっ!じゃねぇよ、まだ終わってねぇんだぞ?来い」
「申し訳ありません……私としたことが……」
ゼンに連れられ、地上の状況を見る。
「この状況の打開の方法、お前らにはあるか?」
「1カ所ずつ掃討……とか……」
「それでは時間が掛かり過ぎます、ソウゴ」
「あの剣は世界に飛ばせねぇのか?聖女は出来てるだろ?」
「今みたいに町ひとつ分の規模程度にしか展開できないんだ……威力と自立効果で制限が……」
はぁっと大きくため息をつくゼン。
決められた範囲でしか使えない、狭く応用の利かない力に呆れていた。
「言いたいことはあるだろうが今はやめておけ、ゼン・セクズ」
「聞いたのもわざとなのでしょう?ゼン、教えて差し上げたら?」
「はぁ……ファインのとこ行くぞフォンゼル、乗せていけ」
「……わかりました」
ピアスに触れ、再びエンシェントドラゴンの姿になるフォンゼル。全員を背に乗せ、空を走る。
降りるまでのわずかな時間、ゼンの口から掃討の方法を聞いた。
「ファインがソウゴの姿を借り、世界に姿を見せる。適当な魔法を撃ってもらったタイミングで俺が全てを『破壊』する」
「姿を借りる?」
「お前……ほんとに3年間……この世界にいたのか?」
「ふふ……ゼンにここまで呆れられるなんて大物ねあなた」
勇者としてこの世界に降りたったものの、すぐにフォンゼルに拾われたことで王都に囲われ、世界の色々なものを見て回るような旅は、出来ていないソウゴ。
歴史や、魔法の使い方くらいの書物には目は通していたものの、勇者という象徴として表に出ることに忙しく、知識の範囲は相当狭い。それに、自分が知らなくても、フォンゼルが教えてくれる。
「……すみません」
「甘やかすと恥ずかしいのはコイツだぞフォンゼル」
『そうですね……城に戻ったら座学をしましょうソウゴ……』
恥ずかしそうに顔を伏せるソウゴと、おのれの教育不足を嘆くフォンゼル。
「細かいことはもういい、お前の姿を元魔王に貸すことを、許可するか、しないかだけ答えろ」
「フォンゼル様……」
「聞くな」
「…………わかった」
セリハとティオの限界、溢れ出す魔力の器を借りているとしても、早く解放させるに越したことはない。その気持ちも大きかったが、今の自分に、世界に放たれた脅威を排除する力が無いこと……出せる答えはひとつ。
『ゼン・セクズ……なぜそんな回りくどく、我々を立てるようなやり方を……?』
「サリエルを倒したのは勇者だろ?俺もアイツには手を焼いて困っていたから助かった。ってことで、持ち上げるのは当たり前だろ?」
「また面白がって気もないことを……」
「ふふ、そんな言い方をしたら、嫌われるわよアダル?」
ミウとファインの姿は港から少し外れた場所にあった。
「随分きれいに掃除したな」
「ゼン〜〜!そうだヨ〜〜!えらいでしょ!」
「ミウも、がんばった……クロ、たすけれた?」
「ふふ……ここにいますよ、ミウ……ご苦労さま」
群れではなく、まばらになって周辺をうろつく聖母の子ら。視界に入ったモノは排除しつつ、ファインに勇者の姿を模すように伝える。
「変身して分身して、絵の所に行ってせーのでドカンってことだネ?」
「そうだ、タイミングをあわせて俺が掃討する」
「ゼンとの共同作業なんてめったにないから喜んでヤルヤル!」
キャイキャイと騒ぎ、ゼンにくっついて喜ぶファインに、ソウゴが近づく。
「お願いします」
「任せて!魅せるよボク!……じゃあ、いただきます〜」
「へっ……っ?!」
『?!』
フワッとソウゴの頬に両手を添え、パクっと唇に唇を重ねる。
「ふぅっ……んん?!……っ!」
『ファイン殿……!!!!』
フォンゼルの反応が面白かったらしい。ファインは舌を絡ませピチャピチャと濃厚なキスを続ける。
「んふっ……ごちそうさま、勇者くん?」
「っ……はぁ……はぁ……」
内股でへたり込み、自分の唇を震えた指で確認しているソウゴ。姿を戻し、駆け寄るフォンゼルの顔は怒りに満ちている。
「粘液を摂取する必要はないはずですよ……!」
「ま、実際髪の毛でも全然良かったけどな」
「だって、こっちのほうが美味しいんだモン……ね?勇者くんもさ、美味しかったデショ?」
実際、舌を絡ませたキスを初めて体験したソウゴの体は、正直な反応をしていた。
今にも魔王を討伐してしまいそうな形相でファインに怒りをぶつけているフォンゼル。アダルヘルムはそのその間に入り仲裁し、いさめる。
「まずは世界を元通りにしてから……フォンゼル殿」
「……チッ!」
「おお、こわ……ククク!ファイン、さっさと化けて済ませるぞ」
「はいはーい」
飛び上がりながら、ソウゴの見た目に変身するファイン。映像を見ながら、ポンポンっと映し出された場所に分身を配置していく。
「溢れ出す魔力による変身とは違う。後々悪さもできねぇから安心して見てろよソウゴ。つっても知らねぇか」
今ファインが使っている魔法は『見た目を変える』だけの変身魔法で、変身相手の体の一部を取り込み、使い切りで発動できる。扱える者は限られるが、魔法を扱う者なら知られている特殊な魔法。分身魔法も発動条件以外、同様のもの。
「同調よし……ゼン!行くよ〜〜!」
見上げる先にファインの声で喋る自分の姿。了承したのが本当に正しかったのか……あんな風に、自分は邪悪に笑うことができるのか、と。
迷いを抱いたままフォンゼルの手を握り、ソウゴは空中の映像に、視線を移す。
勇者パーティー
ソウゴはフォンゼルを恩人と思ってるけど最近ちょっと不思議な気持ちに。セリハも可愛いなと淡い好き心。
フォンゼルはソウゴがもちろん好き。あとはすべてゴミ。虫。
セリハは誰も好きでは無いけど勇者だし落としてみるか?なかんじ。ティオの気持ちを知っててわざと上目遣い。
ティオはセリハが好きだけどソウゴの出現でセリハを応援するべきなのかと悩ましい日々。
こわ。




