38-③.聖母の子ら
ガクンッと……飛び乗られた大人2人分の重さに驚き一瞬高度を下げるエンシェントドラゴン。
「あ、危ないじゃないか!!あ、ちょっと!!どういうこと?!」
「ファインとミウは加勢、俺とアダルヘルムは乗り込むついでにサリエルを誘い出す、よろしく頼むぜ勇者様?」
「ミウ、がんばる」
『うっかりサリエルやっちゃってもいいからネ〜!』
嬉しそうな顔をして、ミウとファインは町へ向かって降り立っていった。
「さて、と、落ちねぇように気を付けろよアダルヘルム」
「みょ、妙にグネグネと……ゼン・セクズ、なぜそんな……くっ」
「はっ!育ちが違ぇの」
エンシェントドラゴンの体は細く、跨いで乗らないと振り落とされてしまいそうな飛び方をしている。
ゼンは腰を掛け、足を組み頬をついてニヤリとソウゴに笑いかける、余裕ぶり。
「仕草はカッコいいくせに……なんであんなやり方して……かつての英雄だっていうのに……」
「なにブツブツ言ってる?早く行け」
「わかってる!」
グッと加速し、根城に最大限近づく。
ヴェールの女の顔が間近に……見れば見るほど、クロエにそっくりに作られている。
「ん?」
「どうした?」
「『破壊』できねぇな」
「そんなこと……あり得るのか?」
アダルヘルムとゼンの話を聞いていたソウゴも、同じように、不思議そうな顔をする。
「『破壊』って?」
「俺の能力だ」
「物騒な力だけど……それが通じないって、それ程サリエルの力が強大だってこと……?」
「くっ……はははははは!!」
自分の能力が通じない事におかしくなって笑い出したのかと、ソウゴはゼンを見て苦い顔をする。
「条件付けたおかげで、だな」
「条件……?」
スッと……ヴェールの女に、指を差すゼン。
「あれはクロエだ」
「確かにあの下着……の女性に似てるけどこんなに大きくはな――……」
ソウゴは視線を少し下に落としてしまい、本人同様、豊満に作られた胸を見て顔を赤くした。
「どこ見てんだ、お前」
「ち、ちが!確認を……おっぱいの確認じゃなくて本当にその人なのかって!!あ、ちがっ……!」
「童貞は大変そうだなぁ?」
「どっ?!そ、そういうのは人それぞれで!遅い早いなんか関係ないだろ!」
ケラケラとゼンに笑われるソウゴ、口をつぐんで黙ってしまった。
「アレが……クロエ嬢だと?」
「あぁそうだ。体をそのまま大きくされた訳じゃないだろうが、クロエとなんらかの形で繫がりがある、それか同化か……まぁどっちかはされてるだろうな。って、聞いてるか?」
震えるアダルヘルムの体から、赤黒い怒りが湧き上がって見える。
「あんなものが!!クロエ嬢であってたまるか!!彼女はもっと透き通る肌で!滑らかな肢体をして!甘い香りがするのだ!!バカを言うな!!」
「お前なぁ?盲目にも程があるだろ。が、ま、お前がこれをクロエじゃないってんなら――」
背の上で立ち上がるゼン。
「なにしたって、問題ねぇよなぁ?」
『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!』
ヴェールの女のけたたましい悲鳴が大気を揺らす。両腕が破裂するように『破壊』され、港と海に黒い血液が撒き散らされ、雨の様に振り注いだ。
「な……なに……を」
「『クロエ以外を破壊する』ことが通じないなら、条件を変えて行使するだけだろ?」
呆気にとられ、ただ唖然と黒い血の雨を浴びるソウゴ。地上にも振り注いだこの雨に動きを止めたのは、ソウゴだけではなく、セリハとティオも同じだった。
「ソウゴはあんな事しない……なんて酷い……」
「ゼク――……ゼン……君が……?」
「ゼンってば派手にやったみたいだネ〜?勇者くんに対抗したのかな?それはないか!あはは!」
「でも、クロなら……平気、問題無し」
「「?!」」
町の聖堂の屋根の上にいたセリハとティオの背後に降り立った、ファインとミウ。ふたりを脅かしてしまったようだが、幸い守護障壁の発動が止まることはなかった。
協力することになった事を簡単に説明しながら、ファインが水魔法と風魔法を使って汚れた体を清めると、少し落ち着いてくれた様子だった。
「って、ことで……聖女ちゃんが嫌ならボクからの直接の供給じゃなくてティオくん経由でお願いするヨ?どーする?」
「ティオ……」
大きな杖を手に力を込めながら、すがるような目をティオに向ける。
「ぼ……僕が、貰い受けるよ……なにせ僕は最強のサポーターだからね?」
「あはっ!」
ティオの背中に回り、そっと手を添え体内の溢れ出す魔力の器のひとつをティオに……譲渡に伴う強い光が放たれる。ファインはそっとティオの耳元に口を近づけた。
「……―――――から――ネ?」
「あぁ……腑に落ちたよ……ありがとう」
「コレでしばらくは持つね?それじゃおチビ、ひと暴れといこう!」
「まって、あくま……ミウ、ておの魔法……欲しい」
鼻息荒く、キラキラした瞳でティオを見るミウ。
ティオはチラリとセリハを見て、セリハはニコッと笑う。
「しょ、しょうがないな〜?そらっ!」
ミウの身体にパッと光が纏い、消える。
「不思議な、気分……ありがとう、てお」
「どういたしまして!……気を付けて」
「ておも、気を付けて……また、ね?」
屋根を伝い、ぴょんぴょんと跳ねていくミウをファインは飛んで追っていった。
「元魔王に、エルフの生き残り……不思議な組み合わせ……」
「人であろうとなかろうと彼には関係ないのだね…………己のために……ゼクス……」
「ティオ……?」
「おっと、セリハ!ぼーっと見ている暇はないよ?集中しよう!」
守護障壁の境界線で止まるミウとファイン。後ろからの波に押され、潰され、自滅する聖母の子らも見える。
顎に手を当て、ファインは何か考えている様子。
「物量で破られるとは思えないけど……コイツらの体液で汚染され続ければ溶かされちゃう……カモ?」
「跡形もなく……形を残さない、それでいい?」
「うんうん!……ゼンとしては、勇者くん達に花を持たせる方向だから〜この壁は消すわけには行かないけど、負荷は取り除いても怒らない筈だし、共闘の名目としての行動としても、上等じゃないカナ?ということで!ボクは右方向、おチビは左でネ!」
守護障壁の外側、聖母の子らで埋め尽くされている港側……ミウを抱いてフワリと飛んびこんでいくファイン。着地間近、地面に向かって魔方陣を撃ち込み円形のすき間を作り、自分たちの居場所を確保した。
しかし、そのすき間に降りてすぐ、聖母の子らに飲まれ、ふたりの姿が見えなくなる。
「な〜〜んてね!こういうのやってみたかったんだよネ〜!」
「ミウ、息できない……あくま、覚悟」
「あっははははは!!」
強大な魔力が膨れ上がらせ、覆いかぶさっていたであろう聖母の子らを地上高く、打ち上げたファイン。
足元でしゃがんでいたミウも、銃を両手に構えて立ち上がり、重たく大きな弾丸を1発ずつ……ファインの体を盾にしたまま右方向へ撃ち出した。
ファインの血をベッタリと付けたまま、弾丸は聖母の子らの中を飛び回るように動き、一定数まとめて貫いていくと、その体は粉になり、風に乗って消えた。
「致命傷じゃなくていいなら、簡単……当たれば、終わり」
「おチビの考えた『破壊』をする弾丸を『作り』、おチビの考えた形状の銃に形を変える指輪……ズル〜」
「ふふん……でも、あくま……道具なしで、つよい……ズルい」
「あはっ!おチビが褒めるなんて珍しいネ?……やりがいあるじゃん!」
ミウに撃ち抜かれた箇所は即座に元通りに。ファインは右手を大きく振るい、魔方陣を重ね、魔力を凝縮させた砲撃を放つ。
手の動きに合わせ満遍なく……聖母の子らを消し去り、背中合わせの左方向、風通しが良くなった。
「ゼンがクロエちゃん助けるまで続くんだから、すぐにへばらないでよネ、おチビ」
「ておの、魔法……おかげで、全然疲れない……よゆっ」
地上で暴れ始めたミウとファイン。その音は、奴の耳にも届き、息を荒くさせていた。
あと一押し……そう言わんばかりの『破壊』が、今度は上空で……始まる。




