38-②.聖母の子ら
『またなんかキモいこと言ってるよ〜ゼン〜……』
サリエルの声を聞いたファインはしおしおと萎え、テンションも高度が下がってしまったようだ。
そのおかげで……真横から映像を観ることが出来るようになった。
「ケーニヒ、フェストン……王都を含めた主要都市だけでなく小さな村や町……?無造作に選んでいるのか?」
「地図広げて見てみろ、偏らないように満遍なく一定の距離の場所を選んで見せてるだろ」
「む……確かに……聖母の子と言っていたが……クロエ嬢……まさか!!」
巨大なヴェールの女の祈りの手が解かれ、両手を羽を広げるような動作で開いた。
「どこで聞いたかしらねぇが、強制的にクロエの力を利用するシステムでも編み出したか」
広げた腕の風圧を受けながら、すき間から見たもの……地面から溢れ出てくる魔物たち。
「聖母の子よ!世界を揺らし、埋め尽くし、慈悲を与えなさい!!」
まるでおぞましい蟲が這い出てくるように次々と……これを聖母の子などと呼ぶサリエルの頭のおかしさには、誰もついていけていない。
「きもちわる……あ、見てゼン……お空の絵も、同じ」
「ハーフェンだけではない?だからわざわざ見せつけるために用意したのか……しかし、こんな事どうやって……」
「クロエの力なら簡単だ、俺がやろうとしなかっただけでこんなこと造作もない」
「まったく規格外だな……できてもやるなよゼン・セクズ……」
「はっ!俺はこんなつまらねぇことはしねぇし、やるなら自分の手でやるさ」
町を埋め尽くしていく黒くうごめく魔物たち。幸い避難は済んでいたらしく、町に残された民はいないようだったが、
「勇者、なにしてるの……かな?」
「ふむ……町の半分まで来ているが……」
サリエルを任されている勇者一行の動きがまだ無く、不安がるアダルヘルムだったが……次の瞬間、光りの壁が大地を走り、聖母の子らをせき止める。
『わ!やなかんじ!!』
「ククク!聖女セリハと……ティオの合わせ技だな」
「映像にも入り込んだぞ?!」
「全部に、壁……作った?」
「これは映像なんか見せたサリエルが馬鹿だったな、ここを守れと言っているようなもんだ」
【乙女様】の時とは違い、守り癒す為の力に特化した聖女として生まれ変わったセリハの力に、ティオの補助魔法の中にあった聖なる盾の力を合わせ……世界を脅威から守る為の光の守護障壁。
少しの力でも割れてしまいそうな薄さの見た目と透明度だが、その強度は使い手の力と思いの強さに反映される……そう簡単に破りることはないだろう。
「とはいえ、出力はなんだ?魔力由来か?世界に伸ばしたならそう長くは保たないだろうな」
「確かに……ここから伸ばすのでなく、映像の場所にそれぞれ展開すれば幾分マシだったかもしれないな」
「考察好きが、なにか言ってる……あにぃ、教えてあげたら?」
「いや、発動前ならともかく、今やり直せというのは酷だろうな……一度剥がして掛け直すことしかできない場合、聖母の子の侵攻の方が早く世界は飲まれる」
「そう……がんばれ、てお」
まだ荒削りな所がある勇者一行の行動は興味深いらしく、ゼンもアダルヘルムも、次の一手はなにが出るのかと町を見渡していた。
『えっ?!』
ファインが驚いた声をあげる。その視線の先は、先程ゼンとアダルヘルムがいた広場。
そこからまばゆい4色の光が溢れ、混ざり合っていく様子が見える。その光の中にわずかに見えたのは、ファインが目覚めた時に各方角に配置した上位の眷属の姿……ゼンが倒したドラゴンゾンビの姿も見えた。
「ゆこう!エンシェントドラゴン!僕たちと共に!!」
ソウゴの叫び声が、ゼン達のいる上空にもわずかに聞こえた。光の中から龍に乗ったソウゴが空へと舞い上がり、根城に向かって飛んでいった。
『ちょっとちょっと!!なにそれ!聞いてないヨ?!』
「アハハハハハ!こりゃ傑作だ!おい、アダルヘルム、あの宝珠、いつ渡したんだぁ?」
「私が王都にいる間に押収されたのかもしれんな……あの様な使われ方があったのか……」
「そらとぶヘビ?……ん、手と足ある……謎の生物」
「あれは龍って言ってな、ソウゴも叫んでたがこっちの世界で言うところのドラゴンみたいなもんだ。掘り下げりゃ色々言われはあるが、珍獣だと思ってりゃいい」
白く美しい髭、太陽に反射して虹色に光る鱗……美しく空を舞い、ソウゴを運ぶ姿は神の使いの様であるのに。
『ボクの眷属があんなピカピカして……悲しい……』
「また、あくまの……管理不足?」
「宝珠の記憶から抽出された勇者様専用の演出なだけだろ」
「あなたが言うと真実味があるな……ファイン殿、事が済んだら魔界へ戻り確認すると良い、私も同行させてもらう」
『愛しい妻と息子に会いに行くんだねアダルくん!今こんなにクロエちゃんにご執心なのに!』
「…………」
ソウゴが根城に着く前に動いた。
青く輝く大きな剣が聖母の子の群れの上に出現し、地面に向かって突き刺さる。
「必殺技ってか?派手にやったな」
「直接触れていなくても周囲の敵も溶かすのか……中々に強烈な攻撃だな」
その剣は消えることは無く、守護障壁に遮られあぶれ、押し戻された聖母の子らを消していく。
「死体の山もできねぇから便利だなぁ」
「障壁と挟み込むことで効果のある数減らしとなる、ふむ、彼らなりに考えたようだな……しかし、このやり方は……ソウゴはセリハとティオの限界を気にしているのか?」
「だとしたら大したもんだけどな?」
延々と生み出される聖母の子ら……いずれ止まるだろうと勇者一行は思っているのかもしれない。だが、クロエの力を使って『作られ』ていると言うこと、それは、永遠に続く生産。
「ミウ……暇」
『ボクもつまんないなぁ〜……この姿だと飛ぶことぐらいしかできないのもナ〜』
勇者一行がなにをしてるかなど、どうでもいいミウとファインが愚痴をこぼす。
確かに、ソウゴが根城周辺を飛びながらサリエルに呼びかけているだけで、動きがない戦場。ただ耐えているだけの状況は見ている側としてはつまらないものなのだろう。
「俺達が動くのも、待ってる可能性が出てきたな」
『かもかも!どする?煽っちゃう?』
待ちきれない様子で口から炎を漏らすファイン。ミウもいつの間にか指輪を銃に変えて鼻息を荒くしている。
「なにもしないと言った手前手を出しにくいが……ソウゴ殿の所に行こう、ゼン」
「ちっ……グダらせやがって……」
根城に近づくとソウゴの声が聞こえるようになった。
「出てこいサリエル!この卑怯者!!」
なんとも微笑ましい煽り文句で飛び回っているソウゴ。
「勇者様は優しいなぁ」
『そんなんじゃアイツ出てこないって〜』
「ゆーしゃ……お子様、ね」
「すまない、私もかわいらしいと思ってしまった……」
「なっ……しょ、しょうがないだろう!!」
まさか聞かれていたとは思わなかったのだろう、顔を真っ赤にして、恥ずかしがりながら大声で威嚇するソウゴ。
「そんな、小学生みたいなセリフじゃなぁ?煽り役、代わってやろーかぁ?」
「なにもしないんだろ!!僕がやるから見てろよ!」
「ゼン・セクズ、煽る相手を間違えるな……ソウゴ殿、もしかしたら我々も動かないとサリエルが出てこない可能性がある」
町をちらりと見るソウゴ。
無限に湧き続ける聖母の子ら、そして守護障壁を維持しているセリハとティオの状態を確認し、苦い顔をする。
「だらだらとこの状況が続いてもお互いに利点は無い……こちらにも、見ているだけでは退屈だと文句を言う奴がいてな」
「聖女とティオにも限界あんだろ?」
「助けてやると……言いたいのか!」
「ね、ゆーしゃ……仲間、危険になるの……いやでしょ?」
『ボクの溢れ出す魔力で守護障壁の維持の補助もできるし、助けてやるとかじゃなくて、協力……共闘じゃナイ?』
今、意地を張ることに意味はないのだと……ゼン達の迷いのない行動に驚き悔しさが滲む……自分にもその覚悟が必要なのだと思い知る。
「わかった……」
「決まりだな?おい、その龍何人乗れる」
「え……あ……多分、5人?」
良いか悪いかではなく、乗れるか乗れないか……ゼンとアダルヘルムは、ソウゴの龍に飛び移る。




