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退屈世界の破壊神  作者: ぽぬん
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36.そのスパイスは、悪魔味

 勇者一行が宿泊する宿の食堂に姿を現したのは、ファインだった。


「おはよう〜勇者くんたち!」


 明るく元気いっぱいに挨拶をする元魔王の姿に、食事の手が止まってしまう。


「この後ボクたちのところにくる予定だったカナ?ごめんネ?もう出発したんだ〜」

「なん……アイツ本当……好き勝手して……!!」

「だから、ごめんってことで〜……ボクが来たんだヨ?怒らない怒らない〜」


 フワッと浮きながらテーブルを回り、ソウゴの隣に移動したファイン。


「歩いていくつもりだから、少しでも早く!ってネ?わかるでしょ?クロエちゃんのこと心配で心配で〜……ネ?」

「そんなこと言って、僕達を利用し終えたから用済みだと……顔を合わせることはないと思っていただけだろ!」

「勇者くんはこわいなぁ……ほいっ」


 テーブルの真ん中に、パンパンになにかが詰まった革袋を投げたファイン。


「これはお礼……正当な報酬……受け取ってもらえる?」


 革袋の口がたわみ、中身がジャラジャラと音を立ててこぼれ落ちた。大量の金貨が誠意の証しと。


「こんなもの要らないさ……そんなつもりで、ティオを貸したわけじゃない」

「『貸した』だって?!仲間なのに、道具みたいな言い方して、ひっどいな〜?ネェ?ティオくん〜悲しいよね〜?」

「ははは……受け取り方の問題だろう?気にしなくていいよソウゴ、僕の心は広いからね?」


 温かいお茶をすすり、平然と笑うティオ。


「ソウゴ、これは素直に受け取りましょう」

「フォンゼル様?!」

「これから旅をするにあたって物入りなのは事実、もしかしたら釣りが出る程の金額です。それだけ価値のある情報をティオが授けたのでしょう?貸し借り無しにすることも大切ですからね」

「そうそう〜素直に受け取って〜?」


 ソウゴは渋々だったが、フォンゼルの言うことを聞き受け取ることにした。


「お金とはいえ気持ちは大いにあるんだからね?ん〜……あ、そこの女の子に新しい靴でも買ってあげたら?旅には不向きだし、ボロボロだし」

「なっ?!……ごめん、セリハ……気付かなくて……足、痛かった?」


 ソウゴは立ち上がりセリハに駆け寄る。足を椅子の下に隠す仕草をされたが、しゃがみ……足に触れて申し訳無さそうにつま先を触っていた。


「ふふ……大丈夫……でも、ソウゴが選んでくれるなら新しい靴、欲しいかも?」

「任せてよ!王都に戻って僕の行きつけの――」


 ふたりの世界といった様子。


「ファイン様、こちらは受け取ります……ですので、余程のことがない限り、我々に接触しないよう伝えてもらえますか」

「そんなに、ゼンのこと、嫌い?」

「嫌い……とは違います。ソウゴは……まだ若く感情を制御して考えるよりも心で動く……熱い思いが勇者足らしめるものでもありますが、あなた方と関わると、宜しくない結果を招きかねない」

「ふ〜ん?だから保護者の君がまだまだ必要ってこと?……そんなんでよくこの世界で暮らせてるネェ?」

「負けないくらいの心は持っていますからね」


 チラリとティオを見てから……ニコッと笑って、フォンゼルの耳元で囁くファイン。


「サリエルを倒したいのなら急いだ方がいい……クロエと共にいるのであれば、ゼンが先に終わらせるだろう」

「ファイン……さ……ま?」


 脳に直接刻み込む様な、低く重たい声色に不自然な汗を流すフォンゼル。


「ゼンはサリエルを世界の脅威として挑もうとしている訳では無い、ついで、だ……かつての英雄との差を突きつけられる前にその力を振るい世界を救うか、かつての英雄の手に掛かり地を舐める宿敵に止めを刺す権利をもらうか……勇者なら、どの道を選ぶ?」

「そんなこと……選ぶまでも……っ」

「じゃ、あとはティオくんにお願いしてネ?」


 ファインに顔を向ける。ニコニコと、先ほどと変わらぬ笑顔だった。


「あ、ティオくん〜?」

「えっ、はい?」

「笑顔でいるほうが〜カッコいいよ?」

「……ありがとう、ございます」

「それじゃあ勇者くん……また、ネ〜?」


 シュルッと帯が地面に吸い込まれ、ファインは消えた。


「悪魔の囁きを体験することになるとは思いませんでした……。余りあるほどの金貨……確かに誠意はあるものでしょうが……欺かせる為のものですね?金に目がくらむとは……」


 眉間にシワを寄せて悔しそうに苦笑いするフォンゼル。


「フォンゼル様?どうかしたのですか?」

「ソウゴ……こちらへ」


 ゼンからの伝言を伝えるため、フォンゼルはソウゴを外に呼び出した。


 *


 *


 *


 地図の確認をアダルヘルムに任せ、東の海上を目指し進むゼン達。


「疲れた……眠い」

「おぶられてる身で疲れたとはいい身分だな、ミウ」

「嬉しそうにしてるくせになに言ってんだ、ミウ、寝てもいいぞ」

「くぅ……」


 風が抜ける広い草原の道。見通しがいいこともあり、魔物が潜んでいることもない比較的安全で穏やかな道だ。

 ただ、景色も変わらないつまらない道でもある。日が昇り切る前に出立したこともあり、眠くなるのも仕方がなかった。


「お前もあまり気を張りすぎるな」

「ほう?珍しいことを、言うな?」

「肝心な時に使い物にならないんじゃ、困るからな」

「お優しいことだな……それにしても遅いな、ファイン殿……」


 来た道を振り返るアダルヘルム。勇者一行への言伝を頼んだものの、余計なことをしていないか、勇者に手を出していないかと……不安に思っていた。


「なにもなければよいのだが……」

「あのネェ、アダルくん……クロエちゃんほどじゃないけど、ボクだってゼンの言うことはちゃ〜んと聞くんだヨ?」

「うおっ?!」


 向き直った眼前に居たファインに驚くアダルヘルム。


「お勤めご苦労、ファイン殿……だが驚かすのはやめてもらいたい」

「移動してるゼンのところに飛んだんだから少しくらいズレるの仕方ないデショ?わざとじゃないモン〜」

「で?」


 いつも通り、ゼンにくっついてフワフワ。


「いい感じに煽れたと思うヨ〜!」

「ならいい」

「ティオくんもいい顔してたヨ〜!」

「はっ!そうかそうか」


 結果は上々と、口角を上げるゼン。


「流石にこの距離だ……彼らは魔法で移動するのではないか?」

「ボクたちは歩きだから〜……15日くらい?」

「問題でもあんのかよ」


 不思議そうに答えるゼンに、更に不思議そうな顔をするアダルヘルム。


「切羽詰まっていると、急いでいると、だから頼んだと……そう態度に出した我々が、のらりくらりと目的地に向かうのは……あなては、気まずくはないのか?」

「いまさら気まずいもなにもないだろ?俺らとあいつらは違うんだ、それに俺は歩く意味があるからな」

「ゼンと言うこともわかるケド……アイツ、死体使ってなにかしてたデショ?クロエちゃんになんかしてたりしない?」


 廃坑道での怪物、そこに残された羽が教えたわずかな情報。その怪しげな行動は、実験だろうという答えを出した。

 新たに得た力を使ってのものなのかは分からない……だからこそ、クロエを拐った理由も、ただ咄嗟にゼンのものを奪っただけという理由ではないかもしれないのでは、と。


「だとしても」


 立ち止まり、向かう先の空を見つめるゼン。


「実験に使うならそれなりの扱いをするだろうし、下手に仕掛けてはこねぇだろ?焦らず、行けばいい」

「受け入れさせるのか……!!」

「前でも後でも、俺とクロエには関係ない」

「でも〜?」


 ニイッと笑い、


「やったことの責任は……取ってもらうがなぁ?」


 ゼンの言う通り、サリエルもクロエも、地図上から動くことはなかった。きっかり15日後、【港町ハーフェン】に到着し、海上に黒く重たい雲を見る。

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