34.真っ直ぐな英雄、苦悩する英雄
依頼の消化は中止となるようだ……ギルド長の命令で。
「別に、向かう途中の奴はやってもいいだろ」
「ダメだ!!そんな時間はない!!依頼なぞ他の奴にやらせればいい!優先度が違うだろう!」
王都付近の村、ギルド支部の会議室で大声でゼンに怒鳴りつけていた。
「熱い男だネ〜アダルくん……やっぱり人間って面白いなぁ」
「そうだファイン殿!覚えてくれて構わない!これが怒りの行動だと言うことを!」
「あにぃ……なんか、性格変わった」
ノックの音がして、ドアが開く。
支部長が人数分のお茶を用意してくれたらしい。
「外まで聞こえてますわ……ギルド長のくせにあんな事言うべきでは無いです、お父様」
「グッ……しかしだなエルシャ、登録した仲間に何かあった場合の捜索や救助は最優先事項のひとつで……」
「だからと言って感情任せに騒ぐのは違いますでしょ?では……もうしばらくお待ちくださいな」
テーブルに8杯のお茶を置いて、エルシャは退室した。
「娘に説教されるなんて、恥ずかしい父親だな?」
「仕方ないよ〜アダルくん大好きなクロエちゃん早く助けたいんだもん〜」
「だ、だい!大好き?!ファイン殿!!」
「あにぃ……騒ぐなって、怒られた……でしょ」
刺さる視線に負け、黙って座り、客人を待つ。
「本当に来るのだな?」
「この近くにいるからな、そう時間はかからないだろ。ま、向こうにその気があればの話でもあるがな」
どのくらいの時間が経ったのか……窓の無いこの部屋では、今が昼なのか夜なのかも分からない。それも、仕方ないことだろう……ゼンが言うように、その気が向こうにあるかどうかは、重要なこと。
軋む木材の音が近づいてくる。ひとり分ではない……ゆっくりとドアが開いた。
「よぉ、歓迎するぜ?勇者様」
「なにを偉そうに……!」
「落ち着きなさいソウゴ……お久しぶりです、ゼン・セクズ……まさか貴方から呼び出しがあるとは思いませんでしたよ」
フォンゼルとソウゴが並んで入室……目を合わせ挨拶らしきことを交わしたものの、和やかな雰囲気とは言い難いものだった。
「失礼します……」
「ギルドの中はこんな風になっているのだね……」
後に続いて、白の揃いの神官服の男女が入室する。
「見ない顔だな?」
「今度の相手は中々に手強いと判断し、ソウゴと話し合い仲間を、と」
「優秀なサポートをしてくれるティオと、みんなを守り癒す聖女のセリハ……ふたりとも、僕の大切な仲間だよ」
ソウゴの紹介を受け、頭を下げるふたり。
興味なさげにしながらも、ちらりと視線をむけてみると……ティオの口元がゆるゆるむぐむぐと動き、なにか言いたげにしている。
「ご足労痛み入る、とりあえず座ってくれ……これはいかん、茶が冷めてしまったな……淹れ直そう」
「お構いなく……さ、ソウゴ、皆さん」
アダルヘルムに促され席に移動する勇者一行。
その隙に、ティオに視線を刺し、緩んだ表情に喝を入れるゼン。慌てた様子で姿勢を正したティオ……あからさまに怪しい行動だ。
「ティオ?どうかしたの?」
「あ、あぁ……あの人があの『白金のゼン』本人なのだと……緊張してしまったのだよセリハ」
「そう……確かに……うん、そうなるのも仕方がないね」
席につき、淹れ直されたお茶が運ばれる。
警戒を解くことが無いソウゴのせいだろう、中々話しが始まらない。
「勇者様よぉ?そんな睨まなくても、取って食いやしないぜ?」
「信用できるわけがない」
更にギッ!とゼンを睨むソウゴ。
ふたりの様子を見ていたアダルヘルムはフォンゼルに視線を向ける……頷かれたことで、口を開いた。
「ソウゴ・シヅキ殿、色々複雑な思いもあるだろうが我々の話を……願いを聞いてもらいたい」
「貴方は…………あ!あの時の上裸の人!!」
「ブッ!!あ、アダルくん覚えてもらえてた、の
、よかった、ネ」
「あにぃ……上裸って、なに?」
恥ずかしそうにわずかに震えるアダルヘルムが笑われているのを見て、自分が失言したのだと、ソウゴは慌てて謝った。
「ご、ごめんなさい……そんなつもりはなくて……」
「いや、なに……覚えてもらえていたことは光栄だ……だがまぁ……あの時のあの格好は、あなた方が付けた見張りにやられたことだと言うことだけは伝えさせてもらうよ」
「それは大変申し訳ありません……」
苦笑いしながら話してくれたアダルヘルムに、今度はフォンゼルが頭を下げる。
気を取り直して……本題に移る。
「サリエルの存在は知っているだろう?」
「もちろんです、僕がこの世界に呼ばれることになった……原因の悪意ですね」
「倒したと思っていたのですが……火葬程度では消滅していなかった様です」
「アイツまた燃やされてタノ?学ばないんだネ〜……あ」
『また』という言葉に反応し、ソウゴとフォンゼルの視線を集めることになったファイン。
「どういう事です?」
「あ〜えっと〜……ど、どうしよ……」
「ファイン殿、大丈夫だ……ゼン・セクズ、構わないな?」
「好きにしろ」
許可を得て、過去にゼンとサリエルの間で起きた出来事、勇者一行とは別に手を出されていることを説明する。
もちろん、神の仕業であることは隠して。
「今回の復活は、貴方様の手ではないのですね」
「うん、そう……戦っているだろうから実力は分かってるとは思うケド……性格がほんと気持ち悪いから、魔界に戻っていたとしても永遠に封じるつもりでいタヨ」
「僕らがどうにもできないような力と変化が起こっているってこと?……だから、お前にもどうすることもできないってことか?」
だらしなく座り、お茶を啜っているゼンにソウゴは声をかけた。
「そうだ」
「本当、か?」
「はっ!疑り深いのはいいことだが、現に、俺の仲間がひとり連れ去られちまったんでな?信じてもらうしかねぇよ」
「あぁ、あの薄着の女性の姿がないのはそういうことでしたか……なるほど……我々が呼び出された理由はそれですか」
沈んだ顔をするアダルヘルムは続けて言った。
「彼女がさらわれる時、我々よりも、あなた方勇者一行に時間も力も割いているような言い振りだった……連れ去ったと言うことは、どこかに根城があるはず、なにか手がかりでもあれば教えていただきたい……無いのであれば、捜索の協力を願いたい」
「ボクの眷属から外れているから、呼び出すことも従わせることもできない」
ソウゴの正義心を煽らせる言い方で訴える。
今ソウゴには、恩人のフォンゼルと、頼もしい仲間がいる……だからこそ、失われてはいけない、失わせない……それほど大事なものだと言うことが分かるのだが……。
「わかる……わかるんだ……けど……」
チラリと見たのは、ゼン。
「仲良しこよしをしろってわけじゃない、お前にはお前の、俺には俺のやるべきことがある」
「それも……わかるさ……」
「共通するものがあるとすれば、仲間を大切に思い、行動することができるっつーところ、かもな」
「…………っ」
対立する立場でありながら、仲間の為に、恥を忍んで、協力を頼んでいること。
「ゆうしゃ」
「君は……あの、エルフの子……?」
「うん……ミウ、クロ心配……だから、力……かしてほしい、お願い」
ミウが顔を伏せ、震える手でソウゴのマントを掴んで言った。
「…………ティオ、あとは頼む……また明日ここに……行こう、フォンゼル様、セリハ」
するりとミウの手からソウゴのマントが抜け、退室した。
「……難しいか」
「いいえアダルヘルム殿、彼はまた明日と……少し、心の整理をつける時間は必要、ということで……あとは彼に」
「ふむ………?」
フォンゼルも立ち上がり、セリハに声をかける。
「ソウゴの言う通りにしましょう、聖女様」
「あ……少し待ってフォンゼル様」
セリハが駆け寄ったのはゼン。
そっと手を、肩にかざす。
「余計な事をするんだな、聖女ってのは」
「えぇ、聖女ですもの……おかしな痣ですね?どうやってこんな……っと、はい、これで痛くないでしょう?」
「ティオ君、ソウゴのお願いです、しっかりと……頼みます」
「じゃあまたあとでねティオ」
「任せてくれたまえ」
ニコッと笑い、ティオに声をかけ、フォンゼルとセリハも退室し……残された彼は、席を立ち、ゼンに近づく。




