32.堕ちた羽は、何も語らず
【夜の都ナハト】を出立したゼン達。
依頼書片手に、のんびりと、穏やかに歩みを進めている。
「……アダルくんさ……いつまでそんな顔してるつもり?」
「ふふ……辛気臭いですね」
「なんだ?やっぱ後悔してんのか?」
効率良く回る為のルート確認にはいつもは口を出しうるさくしているアダルヘルムなのに、ひと言も喋ることも無く……険しい顔をしている。
「後悔はある……だがそれは偽物の家族関係を辞めたからではない、私自身が変わってしまった事に、だ」
「俺のせいだって言いたそうだな」
「ああ」
フッとゼンは笑った。
「それでも、俺についてくるんだもんな?お前は」
「その後悔を納得いくものにするため……協力している身でおかしなことを言っているのも承知している、だからこそ、これからもよろしく頼むとあの時――……くっ!」
更に険しい顔になるアダルヘルム。
「あの後あの男……!ミウに!!若造め……許さぬ!!」
「……あ〜……ゼン、多分こっちの方がアダルくんが静かになった原因ぽい〜」
「あほくさ」
繋いでいるミウの手、さらに力を入れて離さないようにしているようだ。
「あにぃ……いたい……」
「やけに協力的でおかしいと思っていたのだ!去り際世話になったからと!ミウに別れの挨拶をしたいと!言ったかと思えば『旅の終わり……心変わりは難しいかもしれません、けれど、貴女の居場所にならせていただけますか?』などとほざき!!接吻まで!!」
「おでこにチューしただけじゃナイ……」
『家族』であらずとも、『仲間』である事には変わりはなく……過保護である事も、変わりなく。
「心配しすぎよ、アダル……見ていたでしょう?ミウはちゃんと、返事をしていたじゃない?」
「分かっている!!でも、なんと言うか……好かぬ!」
「おじいちゃんから面倒くさいお父さんになったネ、アダルくん……」
「よかったな〜悩める存在が増えて〜……来い、アダルヘルム」
ミウから引き剥がされたアダルヘルム、ゼンとファインと依頼書と共に先を行く。
「愛されてて、羨ましいわね、ミウ」
「ミウ、いい女……だから、男のひとりやふたり……虜にできなきゃ、ダメ」
「あら……いい女は、言うことが違うわね?」
「うん、ミウ……もっと、女磨き……するつもり」
「いいことだけれど、あまりアダルに心配をかけないようになさい?あんな調子では……先が思いやられるわ」
先を歩く男達を見ながら、女同士語らう。
「クロ……人間みたいなこと、言う」
「ふふ……勘違いしないで?一般的な意見をただ述べているだけよ」
「ふーん……残念」
「あら……言うようになったわね、ミウ」
「成長、してる……心も、ここも」
首から胸、下腹部へ……自分の体に手を這わして主張するミウ。
「……置いていかれるわ、急ぎましょうミウ」
その仕草を、クロエは見逃してはいない……たが、ただ冷ややかに、先を見る。
出来る限り遠回りをして目的地へ向かうルートを選んだ。
「墓地なぞ、ありきたりだな」
「だからこそ、面白いだろ?俺らを舐めてやがるのが分かってなぁ?」
【西方の大墓地】60年前の戦いで勇敢に戦い、命を落とし、帰る故郷を無くした者たちが眠る場所。
「まだいるのカナ?」
「まだ?」
ミスリル坑道内で見た詳細な状況をゼンに伝えるファイン。
「解析終わるまで待ってやる、とは言ったが、それとこれは別、ちゃんと伝えるべき事だろ」
「すまない、私もあまり気持ちよく思うことではなかったのでな……だが、もしここで眠っていた者たちがあの場所に集約させられていたとしたら、ここの依頼は……」
「やる事は無い、か?どうだろうな?あそこに居たのは、核で動かされていただけの骸だろ?」
神の従者となったサリエル。
元々持っている能力とは別に、神から貰い受けた力があるだろう事を気にしている。
「俺は別にどうとでも出来るが、妙なもん貰ってんなら、お前ら対抗出来ねぇだろ」
「私などは特に物理でしか抗えないからな……消費することの無い力だとしても、余計な手間も面倒を見るのも御免というわけか、ゼン・セクズ」
「甘えすぎだと鈍るだろ?」
整えられ並ぶのは、白く綺麗な石を切り出し作られた墓石……その中の中心に墓室が作られ置かれている。
「世界を救いし英雄ここに眠る?はっ!堂々闊歩してるっつうのにな?」
「ゼンの……お墓、へんなの」
「当時は死んだと思われていたのですから、仕方ないでしょう」
「でも遺品も遺骨も無いはずなのに……おチビの言う通りへんだよネ〜」
「人間とは、そういうものなのだ」
花や食べ物、酒……未だここに訪れ、供えている者もいる様が可笑しく、嘲笑し、漁り始める。
「俺に供えられたもんだし、少し貰ってくか」
「神経が太くて羨ましいものだ……それはそれとして……静か過ぎるのもいかがなもの、だな」
『夜半、墓場で飛び交う黒い影の原因と排除』、これが依頼内容だった。
聖魔法を使える者であればすぐに終わるだろう、低ランクの冒険者でも、簡単に済ませられるようなものだ。だが、『死』に寄り添う内容であれば関わる……ただそれだで訪れた、自分の墓。
「まだ日が落ちて間もないですし……ファインの解析の結果でも聞きながら待ちましょう」
「そだね!えっとネ――」
記録媒体を保管していた時と同じ様に、保護された状態の黒い羽根を取り出すファイン。
「通常のスケルトンには無かったこれ、複数の力を合わせた核の接合に使ってたみたい……と言っても雑な感じだから、まだ慣れてない、もしくは上手くいかないから、ベタベタと張り付けたって感じ」
「あんな所に隠れてそんな事をしていた……?まるで実験でもしていたかのようだな」
「さすがアダルくん!ボクもそれ思ったんだ〜……キモいけどそういうとこ真面目なんだったよアイツ」
思い出してゾワッと身震いしたファイン……気を取り直して結果を報告する。
「人間の魂の定着はなかったから、操るのに使っていた核自体は魔族時代の能力なんだらうけど……それが上手くかない理由はありそう……ごめん、それくらいしかわからなかった……あとはなんか混ざってるぐらい……それ以外は、分からナイ」
高技術の解析魔法をもってしても、分からない何かがあるらしい。ファインは悔しそうに頬を膨らましている。
「ふぅん?この世界の力で読み取れない、未知の力を貰った可能性があるわけだ」
「解析するにも、解析結果の元となるものが無い……検討しようにもヒントすらない……ふふ、いったい何をしようとしていたのかしら?」
「どうする……の?」
ゴロンとその場に寝転んでしまうゼン。
「わからん」
適当な返事をされ、ため息をつくしかなかった。
「ま、一応全員のダメージ『破壊』の調整はした、休んどけ」
「ごめんネ……ゼン……」
「なぜ謝る?結果が出たじゃねぇか」
「分からなかったのに……?」
「『分からない』ことが分かっただろ?十分だ」
ゼンに飛びつくファインは、泣きながらも嬉しそうにしている。
分からないのであれば、向こうからこちらに分かるようにさせればいいのだと。
扱いやすい性格、きっと……簡単に手の内を晒すだろうと。
「おだててやるか、脅してやるか」
遠くを染めていた夕闇も消え、本格的な夜を呼ぶ。今宵は新月、暗闇が支配するのか、暗闇を支配するのか……墓室を照らし続けている蝋燭が、あやしく揺れ始める。




