26.その奇跡に、覚えはあるか
「ミウ?!」
アダルヘルムとファインが帰還し、燻った焚き火をひとり見つめ座り込んでいるミウ見つけ驚く。
「ひとりでなにしてるの〜?」
どうしてゼンとクロエがいないのかを分かっているファインは、嬉しそうにミウに声をかける。
「目が覚めたら……ひとり」
「まったく……」
ミウの横に座り、頭を撫でてあげるアダルヘルム。
「また甘やかしてる……よくないよアダルくん」
「甘やかしではない、拠点を守ってくれていたのだから労うのは当たり前だろう」
「そうだぞ、あくま……労え」
「当然のこと、ボクはそんなことしないヨ〜」
と、言いつつ……火の魔法で焚き火に火を戻し、早朝の肌寒い時間、ひとり待ち続けて冷えたミウの体を温めてあげるファイン。
「ん〜?」
「ファイン殿?」
「ふたりで遊んでるのはたしかなんだけど……ちょっと面白いことになってるかも?」
耳を澄ましてみるが、アダルヘルムには分からない。
「どうする?行ってみる?」
「必要ない……なに、ここを私達ふたりにやらせたのだ、そっちはそっちでやればいい」
「ん〜ま、そうだね……ボクはこの羽調べてよっと」
ドカッと横になり、ふうっと目を閉じるアダルヘルム。
「あにぃ……ねる?」
「ゼンが戻ってくるまで……少し、な」
「ミウ……まもる、だから……ゆっくりねてね」
「頼もしいな……」
どこでなにをしているのか……今度は待つ側になったアダルヘルムとファインだが、構えることはせず、各々自由に過ごす。
*
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廃坑から少し離れた場所にゼンの姿はあった。
湧き水出できた泉に立ち寄り、喉を潤している。
「ここなら安心して汗を流せますね、ゼン」
「あんなもんゴロゴロいてたまるか、エロ漫画じゃあるまいし」
「ふふ、刺激的なのはあまり好みではないのね」
ミウが眠りについてからすぐに移動したゼンとクロエ。いつもの……ではなく、別の理由で行動をしていた。
「さっさと行くぞ」
落ちる前に山の上から見た森、汚れた坑道の近くに似つかわしくないほど、白く輝く場所をゼンは見つけていた。
「俺が地下に縁があるように、どうやらアイツは廃墟の聖堂に、縁があるらしい」
「アイツ……あぁ、例の彼ですか?でも、なぜわかったのです?」
「なかなか面白い進化をしてやがるみてぇでな?」
警戒することなく正面の扉を堂々と開け足を踏み入れる。
「誰だ!!」
眩い光の中に人がいる。
逆光になって、ハッキリとした姿はこちらからは分からない。が、誰がいるか……を、分かっているゼンには関係ない。
「こんな夜中に、近所迷惑じゃねぇか?」
「その声は……ゼクスかい?!」
声で気づいてしまうほど、彼の中のゼンの存在は大きく強く刻まれていた様だ。
「まさかこんな所で会うなんて……うれしっ?!ちょ、な、ち、痴女?!」
「ハハハ!!間違いねぇ!」
「あら、失礼な方」
顔を真っ赤にして手で覆いながら、指のすき間からクロエを見る……この様子だと、まだまだ初のままの様子。
「すまないね……ここには出せるお茶なくてね」
「ティオ、付き合え」
「酒……?いいのかい?」
途中の泉で汲んだ水で薄めた酒をクロエから受け取るティオ……まだ飲んでいないのに、顔は赤く染まっている。
「お前そんなんであの女抱けるのか?」
「だ、だだ?!そんな、なにを?僕はそんなつもり!ない……ことも……いやいや!!」
慌てるティオを笑いながら、ゼンは瓶に口をつけてそのまま酒を煽る。
「それにしても……御大層な扱いをされていらっしゃるのですね」
「セリハの事だね?どこから話すべきかな……」
悩んだ挙句、結局最初から話し始める事にしたティオ。
城の前に転送されたティオとセリハ……突如現れた転移の方陣に近衛兵が無視することなぞあるはず無く、ボロボロのティオと人の形をしてはいるが異様な姿のセリハ……両人とも早急捕らえられたとのとこ。
「確かに不審者ではあるけど……せめてセリハだけは牢に入れてほしくなかったけれど、仕方がないよね……そう叫んで暴れて、僕気絶させられてしまったんだ……あははは」
「ゼン……この方大丈夫なのですよね……?」
「まぁ静かに聞いてやれ」
その後、ゼンの思惑通り勇者ソウゴとフォンゼルが動いた。行方不明の【乙女様】が見つかったとなれば、当然の事。
早急に対応、ティオはあの時と同じように自分の持つ目の話をし、セリハ共々王都側に。
元々王都に住んでいる民である、何も勘ぐることも疑う事もなく、セリハを元の姿に戻す方法を提示され、協力しているのが今の状況だそうだ。
「これがその方法ですか」
朽ち落ちた森の中の聖堂……捨てられてしまったはずの場所は今、聖なる力に満ち溢れ、薄いガラスケースに収められた美しい黒髪の少女に生命を吹き込む、壮大な儀式の場となっていた。
「この世界由来の力に依存して、ただ時間をかけ面倒な事をして、さすが勇者様だなぁ」
「あはは……相変わらずきつい言い方をするね、ゼクスは」
「ゼクス……あら、ふふ……なるほど」
物怖じせず話をするティオの姿を見てクロエは笑っていた。
「ここは、神が過去に1度だけ降り立った場所だと文献にあったらしいんだ。セリハと同じ転生者の勇者がその力を持って、この地に眠っていた神の力を結び……神の加護で聖女となって蘇る……とのことだよ」
「それで肝心の勇者様はどこ行ってんだ?」
「昨日までは一緒だったのだがね?北の地に新種の魔物が現れたって行ってしまったよ」
グリゼルダが動いたことに間違いない、と……勇者と顔を合わせることも覚悟していたが、そうならなかったことにも、満足そうにするゼン。
「お前ひとりで大丈夫なのか?」
「おや?心配してくれるのかい?」
「そりゃあ大声で牽制するだけで追い返せるんなら?んなこた言わねぇよ」
「現に……私達がこの女性を奪いに来た敵意あるものだったらどうするつもりだったのでしょうね」
「う……中々手厳しい事を言うのだね?でも、問題ないのさ」
グッと……残りの酒を飲み干し立ち上がるティオ。
「僕の力は進化してるからね!危険の察知と、盾の力が強化されたのさ!ゼクスは……それと彼女も……見えないままだから意味をなさなかったけれどね!」
「自信満々に言うことじゃねえだろ。あと、それだけじゃねぇはずだ、自分じゃ分からねぇのか」
「え?なにがだい?」
眉間にシワを寄せて少し考えるゼン。
「お前の光の柱が見えるようになっている」
「えぇ?!それは……不思議だね……」
「ゼン以外には見えていない、ということも教えて差し上げますね」
「さらに不思議だね……うん……でも……うん、なんとなくそれは理解できるよ」
酔いが回って来ているのだろうか、フワフワとした答え方をして、表情もふにゃふにゃとしているティオ。
「いいのか?これからお前は勇者達と共に歩むことになるんだろ?お前から俺達は見えず、俺からは丸見えになるって事だぞ?」
「う〜ん?でもそんな心配することではないというか……願ってもないと言うか……あはは……」
「ゼンはあなたの力が成長しきるまで手を出すことがないと……自信がおありなのね」
「余計なこと言うな黒ブタ」
ガラスケースに手を添えてティオは笑っている。
「ゼクスのおかげでセリハが戻ってくる……もちろん、ソウゴにも感謝しているけれど……実際窮地のところを助け出してくれたのはゼクスだ……だから僕は――ふぇ?!」
最後までは、言わせなかった。
ティオの背中にクロエが体を密着させ、柔らかい刺激を与えていた。




