22.歩むことに、無駄は無く
物資の買い出しにでていたクロエ、ファイン、ミウ……宿に戻り目にした珍しい光景に、開いた口がふさがらなかった。
「勤勉……さすが、ゼン」
「元々ゼンは真面目ですよ、ミウ」
「あの顔は……多分、嫌がってると思うナ……」
アダルヘルムに監視されながら、1枚1枚依頼書を確認しているゼン。少し時間をかけたものを右に、それ以外は左に分けているようだ。
同じテーブルで荷造りをしながら、ゼンの作業が終わるのを待つ。
「はぁ」
最後の1枚を叩きつけ、背もたれにぐったりともたれかかっている。
「右は済んだ、左は寄り道しながら済ます」
「は?……どういうことだ?」
右側に積み上がった依頼書をつかみ取り、目を通していくアダルヘルム。
「ワイバーンの巣、サンドワーム、メデューサ、ワーウルフ亜種の群れ、サイクロプス、ミスリルゴーレム……どれもこれも大型の依頼だぞ……?それが、済んだ?」
「適当に歩き回ってたわけじゃないんだぞ?ファイン、飲み物持ってこい」
「はーい!」
依頼書とゼンを交互に見るアダルヘルム……これ以上口を開くことが無さそうな困り果て、クロエに視線を送る。
「ふふ……どうしたの、アダル?」
「この場にいながら、討伐をしたと?」
荷物の口を閉じながら、クロエはアダルヘルムの問いに答えた。
「ゼン自身が自分のために私に『作ら』せたものは、命以外にひとつ……とても不便なものを求められました」
「不便……?」
「『己の歩みの上にのみ、通ずる力』を」
「歩み……そうか……だから……」
あくびをしながらカップに注がれたお茶をすするゼンは、アダルヘルムの視線に気付きフッと笑う。
「なぜ最初からそうしない?なぜ最初から終わらせない?そんなくだらねぇこと聞くなよな」
「ぐ……なにを聞いても、楽しむため、か……」
「この程度の終わらせ方なら問題ねぇしな……それより、俺にしか分からないんじゃ証明にならねぇだろ?死体は残しといたから、暇そうな冒険者を現地に送っとけ」
言われたとおりに、通信用の魔法道具を使って発行先のギルド支部に現地調査を指示していくアダルヘルム。
「なんか千里眼みたいな力だネ、ゼン」
「んなこの世界の誰かしらが持っそうな力はいらねぇ。俺だけが使える俺だけの力であれば、そう簡単に破られることもない」
「横やりされるの、嫌い?……ゼン」
「大っ嫌いだ」
「だからネおチビ、これからみんなで、ぜーーんぶ壊しに行くんだよ!ネ〜!」
残っている依頼書をファインが一生懸命読み始める。
「なんだ、ミウ」
ゼンの上着をギュッと掴むミウは、そっと、聞く。
「ミウ……もう、間違えない……よね?」
「そんな保証、俺ができるわけねぇだろ」
「して……ん……そっか、既成事実……作ればいい、ね?ゼン」
「あら、マセてきたわねミウ」
「誰が教えやがった、んな言葉。勘弁してくれ」
これも、成長と言えば、成長である。
「絵が入ってるからわかりやすいネ!ん〜……ぅん〜〜……ゼン、これぇ……」
「気付いたか?」
「気付くもなにもあからさまだって……全部ゾンビとか死霊ばっかり!」
「はっ!いいだろファイン?お前も、アイツに一発食らわしてやりてぇだろ?」
「会いたくもないんだけど……でも、それはそれで……アリ!」
王都近郊を避け、先の旅路を辿る道を順序よく巡れる様に、依頼書を並べ直し懐に押し込んだ。
「さて、いくつ潰したら、血相変えて出てくるか」
「原初の森や孤児院態度の規模で話題にすらならなかったようですしね」
「あ〜!やっぱアレ、アイツだったんだ!な〜んかちょっと変だと思ったんだよネ」
「その時……言えば、もっと早く気付けた」
「うっ……おチビ、言うネ……」
「数を減らす嫌がらせをしていけば、さすがに姿を見せるだろう?さて、まず目指すのは……【太陽の湖畔】を経由し、廃坑になったミスリル坑道のスケルトン退治だな」
60年の時の流れ……懐かしい景色と新しい景色を目に映しながら、しっかりと大地を踏みしめ進んでいく。
時折、アダルヘルムの通信用の魔法道具にギルド支部から連絡が届く。無事、全ての現地調査の終了報告が届いたのは【太陽の湖畔】の到着と同時、村を出て2週間後の事だった。
「報酬は全てギルドに……いいんだな?」
「当面しのげる報酬は貰えんたんだろ?お前がこっちに付き合ってる分の迷惑料込みだしな」
「まぁ、妥当だな?路銀は全て、私持ちでもあるしな?」
「はっ!そのついでだ、酒出せ、持ってんだろ?」
「図々しい……とはいえ、さんな気分になるのもわかる……いいだろう」
野宿の準備をアダルヘルムに任せ、周辺の散策をしながらゼンとファインで気配を探る。
「さすがにここは無さそうだネ」
「【太陽の湖畔】と呼ばれるだけある。神の手がかかったとはいえ、扱う力との相性が悪いんだろ」
【太陽の湖畔】曇や雨、天候の変化が一切訪れることなく、太陽の光が降り注ぐ湖がある場所。
日照ることもない穏やかな土地、湖の水も枯れることなく、溢れることもなく一定の水量を保っている。昼夜の概念が無い場所ではない、もちろん、夜は訪れる。
「とはいえ【原初の森】でのこともある、夜にだけ起き、今は気付けない仕掛けがあるかもなぁ」
「ゼンでもわからないの?」
「前にも言ったが、俺は万能じゃねぇ、壊すだけだ」
ひと通り見回り戻ると、クロエとミウの姿が見えない。
「水浴び〜?ボクも行ってもいい?」
「もうすぐ夜だぞ、さっき言ったこと忘れたのか」
「なにか問題でもあるのか?」
「夜は危ないかもってことだよアダルくん」
「ふむ……でも、まぁ……あのふたりなら平気だろう」
「アダルくん……抱き潰した女なのに冷たいネ」
「……信頼してるということだ……あと、抱いたのはクロエ嬢だけだ」
酒瓶を荷物から取り出し、グラスに注ぎゼンに手渡すアダルヘルム……徐々に耳たぶまで赤く染まっていく。
「なんで赤くなってるの?」
「酒のせいだ!」
「はっ!まだ飲んでねぇだろ」
アダルヘルムをからかいながら、ゼンは晩酌を始めた。
一方、クロエとミウは野宿をする場所から少し離れたところに、湖とそこに流れ込む小川の境目を見つけ水浴びの準備をしていた。
「ちょっと……冷たい」
「夜になる前に済ませましょう、もっと冷たくなるでしょうから」
ミウの着ている服を脱がしていくクロエ。
あらわになる素肌、その背中には……火傷の跡が痛々しく残っていた。
「今からでも……キレイな肌を『作る』ことはできますよ、ミウ」
「うぅん……このままがいい」
「ふふ……頑なにそれは許さないのですね」
裸になり、湖に体を沈めていくミウ。
「ミウが……した事の罰だから、背負っていくの」
「可愛らしく健気なこと……ミウ、背中をこすりますが、痛かったら言ってください」
「ん……キレイにして、ゼンと寝る」
「あら……ほんとだったの?」
鼻息を荒くするミウ。
ゼンと寝る、の意味を本当に理解しているのかということと、場所はもう少し考えた方がいいと助言する。
「クロが、いつもしてあげてること……わかる」
ミウはそれでもやる気満々と言った様子。
「ミウ……せめてアダルもファインも居ない時になさい?」
「ん……それは、確かに……あにぃもあくまも、ミウ、相手する自信……まだ無い」
「変な知識を植え付けてしまったかしら……ミウ、そういうこ――」
ふたりが水面に作っていた波紋に、外側からぶつかる別の波紋が現れる。
「あら、ふふ……楽しい楽しい女子トークをしているというのに、無粋なことを……」
不自然な、水の盛り上がりが近づく。




