21.星は白金に、輝きを取り戻すか
「……さよなら」
森の出口で、振り向くことなく別れを告げたミウ。
「問題なく同行してくださるのですね」
「贖罪……する」
「む、難しい言葉覚えたんだねおチビ……」
「成長は体だけでなく心もしているよう……だがまぁ、贖罪とはな……」
複雑そうに微笑むアダルヘルムを不思議そうに見上げるミウ。
「ゼン……って、善、でしょ?一緒に行くだけ……それで、いい」
「知恵はついても、ガキはガキだな」
バカにされてると思ったのか、ファインの足を蹴飛ばし、鼻息を荒くしたまま先へ行ってしまうミウ。
「どうせならバーンってしてほしかったナ〜」
「正しく使う、を気にしてるのだろうな」
「勝手なところに行かれては困ります、アダル、お願いできますか?あなたの言う事なら、素直に聞きいれるでしょうから」
「仕方ないな」
アダルヘルムにお守りを任せ、
「関わりがあったのは、俺とファインと、サリエルか」
「も〜名前聞くだけで気持ち悪いなぁ……」
「あらあら、かわいそうに……将として下に置いたのはあなたでしょファイン」
「性格と実力は、別デショ?」
「そうじゃなきゃ神に目をつけられるわけがないが、あの神だからどっちで選んだのかはわからん」
「ボクはアイツに、ゼンは神に……同じ嫌悪感なんだネ〜んふふ」
ファインは喜びながらフワッと宙に浮き、ゼンに絡みつく。
「で、あれはサリエルが手ぇ出したのは間違いないな」
「あの時の……思念体自体は【原初の森】の特異な力のせいで現れたもので危険のないもののはずでしたね」
「ね!そのままにしたのは、おチビがさみしくないように……これはホントデショ?けど、アイツにとっていちばん手を出しやすい魂の片割れだった思念体……ヤラレチャッタね」
そもそも、ファインがゼンと共に行動をしていたこと自体、魔族たちにとって裏切りと捉えられても仕方のない行為ではあった。
うまく丸め込んだのはゼンの甘言と、思想だ。
サリエルが心動かされなかったのは、ファインを愛していた、という私情が邪魔をしていたから……だからサリエルは、事あるごとに小さな歪を起こし邪魔をしていた。しばらく泳がされたのち、裏切り者として処分された。
「燃え盛る森の中で、おチビのために頑張ってたよネ〜なつかしいなぁ……ねぇゼン、おチビに甘すぎじゃない?」
「あらファイン?ゼンは小さい子供が好きなのよ?」
「語弊があるだろその言い方は」
玩具を与え、怒鳴ることなくしかりつける……確かに、甘いと思われても仕方ない。
「ガキでも気に入らなけりゃ消してる、ミウはこの世界の唯一の存在、使い道がある。だから潰しもしないし、相応の力も持たせたんだ」
「あの弾け飛ぶ感じは……うんうん、確かにゼンっ」
「ミウがどこまで理解して、ふたたび同行してくれているかはわかりませんが……サリエルを理由にこの森を選んだことは……知られてはなりませんね」
「色々絡み合った結果、誰が悪いとかはもうわけ分からないケド〜〜……1番泣いててうるさかったもんネ」
ミウが、ミウを、ミウに……誰もが気にかけている事実。
「お前らも、十分ミウに甘いじゃねぇか」
「も!もって!もって言ったヨ!クロエちゃん!」
「ふふ、あまりふざけるとなんとなくで消されてしまいますよファイン?」
「たくっ、だから俺は気乗りしなかったんだ」
行き同様に魔物の相手をしながら移動し、かつてギルドの依頼を遂行する中継地点として利用していた馴染みのある村に着いた。
すでに日は落ち、家屋から漏れる明かりが柔らかく村を照らしていた。
「……ごはん」
宿屋に併設されている食堂のテーブルに一番乗りしたミウは食事の催促をする。
「アダルくんが全部やってくれるから楽だネェ〜」
実際に子供がいるアダルヘルムの手際は良かった。
全員が席について間もなく、料理と飲み物がテーブルに並び、すぐに食事を始めることができた。
「あなたたちの分は、ミウのついでだからな?」
「子供扱いしろなんて言った覚えはねぇ」
「あにぃ……これ切って」
「はいはい……」
大きなステーキ肉をひと口大に切り、ミウの口に運ぶアダルヘルム。
「さすがにやりすぎじゃないアダルくん……自分の子でも、そのくらいの歳になっても食べさせてるの?」
「む……そんなことはないのだが、つい、昔のクセがでてしまった」
「べつに……きにしない」
「ミウも今日までひとりで食事していたのならできるでしょうに……今日だけになさい」
「はぁい」
60年前にも見た光景に懐かしむこともなく、森の話をしだすゼン。
「会ったのか?」
「うん……風穴空けてやったら、逃げた」
ミウの前に姿を見せたというサリエルは、集落の中心で大笑いをしているところを見つけ、すぐに撃ち抜いたと。
「そこに来た、というよりは……そこで蘇ったというのが正しいかもしれませんね」
「確かに森で処したけど、魂はエリュシオンに還ってるはずなんだけどナ?」
「途中で抜かれたな」
「……管理不足……確認不足、責任者の怠慢」
「おチビ……どこでそんな言葉覚えたの……ゼン〜〜」
「ミウが正しい」
ゼンにとどめを刺されへこむファイン。
「3年前と言うことは……勇者誕生とほぼ同時期のようだな」
「自由に動き回るための駒であることと同時に、勇者というもうひとつの駒を呼ぶ理由、そのための脅威として、蘇らせたのですね」
「ふむ……確かに、一時的に荒れていたが1年もしないうちに討伐されたと、情報はきていたぞ?」
「前座であること、勇者に勇者たる力がある自信をつけさせる、そんなところだろ。サリエルは処分せず、王都に潜伏させ、時を待たせた」
グラスの酒が口に合わなかったのか、しぶしぶ肉料理に手をつけるゼン。
「魔族なのに王都に潜伏って……ボクみたいにならなかったのはなんでナノ?」
「神の手で蘇ったんだ、もう魔族じゃねぇだろアレは」
「そっかぁ……ホントのホントに、裏切ったんだウベルは」
「神の言葉に従い、王都に私達が来るまでなんて……意外と辛抱強い一面もあったのですね」
魔王の顔に戻るファインをみて、口角を上げるゼン。
「勇者との戦いで消耗しただろう魔力を、お前の魔力を喰って全快したって喜んでたぞ?」
「うぇぇぇ~……あいつの体の一部になったのほんと最悪!!」
「ファイン殿、差し支えなければで良いのだがその、サリエルになにかされたりしたのか?」
「聞いてくれるのアダルくん!!」
「黒ブタ」
「承知しました」
サリエルにされた事……アダルヘルムにマシンガンのように早口で、下品な話を隠すことなくぶつけていくファイン。
それが聞こえないように、ミウの耳をふさぐクロエ。
「……なにも聞こえない」
「聞かんでいい、食え」
「ふふ」
店主に退店を促されるまでの長い時間、その話は止まらなかった。
急ぎで森から移動した疲れもあり、昼前まで眠り、午後から動き始めることになった。
「ゼン・セクズ、忘れていないとは思うが……我々はギルドの冒険者でもある」
「前置くな」
「聞いておけ……フォンゼル宰相により国へ収める額は土地代のみとされたのだが……結局のところ、相場が上がり、支部もすべて含めるといささか支払うにも厳しい状況でな」
「勇者は依頼なんか通さないからな。本来こっちに入るだろう依頼が減り、ギルドの利益も減ってんのか?それで?」
寝起きで機嫌の悪いゼンに、物怖じすることなく続けるアダルヘルム。
「勇者の行動は真っ当だからこそ、それを邪魔扱いする事こそ、こちらには不利益しか与えないだろう?」
「だから、なにをすんだよ」
「滞っている依頼の遂行を我々がする」
「それこそ勇者に押し付けろよ」
「あなたが国を敵に回した結果、ギルドに来た無謀な依頼の委託は不可能になったのだ!」
どこから出したのか、大量の依頼書をテーブルに叩きつける。
「辿る旅というのなら……『白金のゼン』であることを辿るのは……間違ったことではあるまい?」
ここまで恐ろしい顔をするアダルヘルムを見るのはどれくらいぶりだろうと、珍しくゼンは懐かしみ、笑う。




