20.童心は還り、森人と偽る
果実みのる木々の合間に、苔や雑草に覆われた塊がいくつも点在している、拓けた場所。
「以前にもまして……随分と自然に戻っているようだな」
「【原初の森】と言うだけあるのでしょう、ここで暮らし、共生していたと思っていた者達ですら、この地にとっては異物であった……なんと悲しい現実なのでしょうか」
「そーんな雰囲気出して言ってるけどクロエちゃん、顔、笑ってる」
どれもこれも、残骸、朽ちた家屋。
「いねぇし寿命で死んだか」
「待て待て……もう少し探すべきだろう」
奥まで進み、焚き火の後を見つけた。
ここで生活していることは間違いないだろうと、再び焚き火をつけ、煙を上げさせた。
「おびき寄せるなんてことしなくてもいいとは思うが……」
「どのみち、ここでひと晩明かすことになりますから……さ、温かいものでもいただきましょう」
夕闇が迫り、だんだんと気温が下がってくるのを肌に感じる。クロエが淹れたお茶が、身にしみるほどにだ。
「うん……?」
「どうしました?アダル?」
「いや……ここまで昼夜に温度差は無かったはずだと、思ってな」
日が完全に落ち、動物たちの気配が消える。
闇の訪れを合図に、集落の地面から怪しげなモヤをまとった光があちこちから浮かび上がってきた。
「……ボクにまた任せるなんてことしないでよゼン〜?」
「私にも、対応不可能だからな?ゼン・セクズ」
「私は、どちらでもよろしいですよ?」
ファインとアダルヘルムは座ったまま、お茶の時間をまだ楽しむつもりらしい。クロエは立ち上がり、ゼンの隣で指示を待っている。
この間に、浮かび上がった光を核にするようにモヤが人型に変わってゆらゆらとうごめき始めた。
「ったく……」
イヤイヤ立ち上がろうとした瞬間……響く、銃声。
「触っちゃ……だめ」
「ならもっと早く来てろよ」
「……寝てた」
木の上から、可愛らしい声。
ふわりと、危なげなくゼンたちの前に着地し、姿を見せる。
「なにしにきた……の?」
「あなたに会いにですよ、お久しぶりですね」
「クロ……服着てない」
「おチビ〜〜クロエちゃんは〜これが正装デショ?」
ゆっくりフードを外しながら、銃口を向ける……集落に溢れる、黒い人型に。
「あくま…………ついでに、撃つ」
「ははは……可愛いくせに過激なのは変わらないな」
「ほんとのこと……言ってるだけだよ、あにぃ」
顔を見なくても、かけられた声で、誰が誰なのかを、よく知っているようだ。
「俺に向けるなって何度も言ってんだろ、ミウ」
「ゼンじゃない……カップ」
「俺が持ってんだから同じだわ」
「静かにしてて……いつもより、ざわついてる」
ミウの右眼に光の円と十字が重なり浮き出る。
素早く眼球が動き、円に赤色のマーカーが記されていく。
「照準、よし……おやすみなさい」
引き金を、1度だけ引く。
白い弾丸が飛び、1番手前にいた人型に命中し、貫通した弾丸が分裂……次のターゲットを貫く度に増え、そして、また次へと……無数にいた人型は、1発の弾丸で大気に消えていった。
集落にあった怪しげな気配が消えたのを確認し、くるっと銃を回して指輪に変化させると、ミウの指にキレイにはまった。
「ぷぅ……」
「ミウ……」
とことこと……アダルヘルムに近づくと、膝にちょこんと座り、休憩しだすミウ。
「おい」
「なに?ゼン」
「お前は、昔から、言葉が足りなさすぎだ」
「ん……ひさしぶり?」
口角を引くつかせるゼン。
「おチビ違うよ?ゼンが再会を喜んで、昔話に花を咲かせるわけないデショ?」
「さすがにそこまで心が無いわけじゃないはずだが……ミウ、私もこの状況の説明は欲しいところだぞ」
「ん……思念体、退治してる」
大きなため息を吐いて、ミウの眼前にしゃがんだゼン。珍しく、怒っている様だった。
「バカ野郎、あの弾丸じゃ無理なことわかってんだろ」
「でも……だって……」
「でもでもだってじゃねぇ、何百年も生きてるくせに、分からねぇのか」
「ミウこれは……怒られても、仕方ないですよ?」
不貞腐れ、頬を膨らませて目を逸らす様は、幼い子供だ。
「確かおチビのその指輪の武器って、クロエちゃんが『作った』ゼンモデルのジュウ?とかいうやつだっけ?」
「この世界にあってはならない……だからこそ、正しく使え、と……ゼンは言っていたな?ミウ」
「…………ッ」
ゼンが怒っている理由を理解したアダルヘルムは、だんまりを決め込んでいるミウの頭を撫で、気持ちを落ち着かせると共に、しっかりと答えるように促す。
「ごめんなさい……ほんとうの、ひとりぼっちに……なるの……怖くなった……」
ギュッと自分の両肩を抱いてうつむいたまま。
ゼンはミウの頭を、前髪ごと掴んで強引に起こし、自分の目を、ミウの視界に入れた。
「その凶器に魅入られ、手にした時点でお前はこちら側にいる、理解できてねぇな?」
「う……わかっ……てる」
「わかってねぇから、ああなっちまったいまでも、ここで一族と暮らしてると勘違いしてんだろうが」
汚された思念体……そこにあり、そこにあってはならないもの。
「いつまでも、子供じゃいられねぇんだ」
「ゼン……」
夜が深まり、闇も深まる。
1度消えたはずの人型がふたたび姿を現す。
「また出たネ」
「いつも、か……夜が終わるまで、倒されても何度も現れる思念体……夜通しこんなことを繰り返していれば……夕刻まで寝入ってしまうのは仕方が無いな」
ゆっくり集落の中央に向かっていくゼンの背中を見つめるミウ。
「見届けろ、ミウ」
わざと思念体がしっかりとした形を保つまで待ち、わざとミウに見えるように、思念体を『破壊』していった。
「いいかミウ」
「ん……」
「限定的だが、お前には俺と黒ブタの力を分けてやってんだぞ、間違えるな」
集落に溢れる光の粒は天に昇り、消えていった。
「俺は寝る」
焚き火から少し離れた所で、全員に背を向けて横になり、すぐに寝息を立て始めるゼン。
「ボクもゼンと寝ちゃうね?クロエちゃん毛布ちょうだい!人肌でもいいけど、ゼンが病気になったら困るからネ!」
「ふふ、頼みますね」
夜行性の動物の鳴き声が聞こえ始めた【原初の森】……焚き火を見つめながら、アダルヘルムが口を開いた。
「詳しい原理など今更知ろうとは思わないが……ミウ……先ほどの攻撃に、思念体を核ごと消す効果の付与はしていなかったのだな?」
「うん、そう……だから、ゼン、怒った」
「あら、ちゃんと分かったのね?偉いわ、ミウ」
アダルヘルムの隣に移動したクロエも、ミウの頭を撫でる。
「お前はエルフ族の最後の生き残りで、まだまだ子供だ……ひとり、長い時間を生きることになる寂しい気持ちと、ここに残ってしまった一族の思い達を消せなかった……理解できるさ」
「あにぃ……なんでもわかってて、すごいね」
「でも、だ」
空を見上げながら、アダルヘルムは悲しげに言う。
「あのやり方は、何度も自分の手で一族を殺し続けているのと同じ……ひとりで生きることの寂しさよりも、残酷なことだったんだぞ」
「ゼンは、ミウができなかったことを、ミウの為にやってくれたのです」
ちょうど寝返りをしたゼンの顔が、ミウの目に入る。
静かに近づいて、頬に口付けをした。
「ごめ……違う……また、助けてくれた……ね、ありがとう、ゼン」
ミウは、ホッとしたのか、アダルヘルムの膝の上に戻るとゆっくりと目を閉じ眠り始めた。
【原初の森】で生まれ、秩序を守り暮らしていたエルフ族の最後の生き残り、ミウ。
未知の武器に魅せられ手にしたことにより、一族との繋がりを絶たれた彼女の拠り所は、力と共に手を差し伸べたゼン……自分に会いに来てくれたこと……嬉しくないわけがなかった。
ミウ
60年前のゼンの旅の仲間のひとりで、エルフと呼ばれる長耳の長命種。
当時は12歳くらい、現在は14歳くらいの背丈に成長。
見た目の成長をさせたのは、ひとりで森に住むことを選んだ時不便であった為。一族がいた時はその必要がないから、と成長を止めていた。実際は400年くらい生きてる。森から出ていなかったため、世間知らずで少し感覚がズレてる。人間の言語もぼちぼち。
現代でのエルフの認識と同様、弓の扱いは達人。
本来なら、忌み嫌うだろう銃を使った時濡れた変態。
特別製というのもあるが、そこから銃から離れられなくなってしまった。
ゼンとは致してはいない、一応純血。




